創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(143)レン・シローイッツ氏のスピーチ(3)

当時---DDBクリエイティブ・マネージメント・スーパバイザー兼副社長
(1969年退社し、ハーパー・ローゼンフェルド・シローイッツ社の共同経営者)


"My Graphic Concept" Lecture by Leonard Sirowitz in Zurich 1967 Spring
1967年春、チューリッヒでの「マイ・グラフィック・コンセプト」と題するスピーチ。氏の快諾を得てDDBドキュメント』 (誠文堂新光社 ブレーンブックス 1970.11.10)に翻訳掲載したものの転載。


レクチャー 承前

2人なら仲間、3人なら群集

もしあなたが、クリエイティブ・セッションを見学しようとDDB社を訪れたとして、何が見られるとお考えでしょうか。アートディレクターとコピーライターが働いているところを見るため、ある部屋を訪れたとしても、あなたは何も見ることはできないでしょう。
それらのチームは、たいがい、一室にかくれて閉じこもった2人の人間という形で動いているので、あなたがその制作過程に侵入した瞬間に、仕事をやめてしまうのです。
レン・シローイッツの個室で、ボブ・レブンソンとVWビートルのコピー=アート・ セッション中

アメリカには、こんなことわざがあります。「2人なら仲間、3人なら群集」 というわけで、私はあなたをしばらく宝の外につれ出し、そこで何が行なわれているかを説明することになるでしょう。
ビル・バーンバックが行なったもっとも重要な成果または成功は、自由な雰囲気の代理店を作り上げたことでしょう。
彼はみんなに違った種類のアイデア論議することを許し、彼自身なら決して採用しないであろうような異なった種類のテクニックを用いることも許しました。私たちの真実性・信頼性・衝撃・新鮮さなどに関する基本的な考え方には、なんらの制限もありません。この種の自由は、重大な仕事の成功を最大限に可能にする雰囲気を作りだします。
もしあなたがあなたの代理店内にこのような自由な雰囲気を作り出すことができないなら・・・もし他のだれかの行なった方法によってのみしか仕事をすることができないなら・・・あなたには決してずば抜けた仕事はできないでしょう。

代理店の経営者の方々にもいくつか忠告しましょう。
あなたがアートディレクターを雇う際には、彼をそのデザイン能力のみで判断してはいけません。
彼がどのような考えをするかを知るように努力してください。彼がページをきれいにみえるように作るかどうかだけでなく、他の人びとに関心を持ち、話し合うことができるかどうかをみてください。
彼は本当の人間性を持っているでしょうか。それとも彼の関心はすべてグラフィック・デザインのみに向けられてしまっているのでしょうか。
それにまた、あなた方代理店経営者は、なぜまったく新しい種類の専門家を作ろうとしないのでしょうか。
本当のコピーライターに人生に関心を持つことを許しておやりなさい。

ベター・ヴィジョン協会

4年前でしょうか、もうすこし前(1963)だったかな、ここがDDBの新しいクライアントになりました。私は、本能的に、ここがすばらしい可能性をもつアカウント(取引き口座---つまりクライアント)であると感じました。
この協会は、他の広告代理店のもとで6年間、それ以前にも10年間ほど広告を出していました。その間、このアカウントに関する目に立つような広告は何一つ行なわれていませんでした。
私は、このアカウントがDDBへ来たことを知るとすぐに、このアカウントために働くことを申と出ました。私はボブ・ゲイジ(クリエイティブ部門の総責任者)のもとに行って言いました。
「ボブ、私がその仕事をしたいと思っている、新しい、そしてすばらしいアカウントが来たようだね。ベター・ヴィジョン協会という名前だ」
「どんな会社だい。聞いたこともないね」とボブ(これが15年間も広告にお金を費やした後でのできごとなのです)。
「とにかく、私をそこで働かせてくださいよ」といい、了解を得ました。
私がアートディレクターとして、レオン・メドウがコピーライターとしてチームを組みました。レオンと私はそれ以来、ベター・ヴィジョンのすべての広告の制作に携わっています。
私たちは協会 へ出かけ、そこの人たちと話し合いました。彼らのかかえている問題点のすべてについて検討しました。
何がベター・ヴィジョン協会を作り上げているかを知るためのすべてについて学びました。驚いたことには、そして皆さんも驚かれることと思いますが、私たちがベター・ヴィジョン・インスティテュート(協会)と呼んでいるものは、利潤追求のための組織だったのです。協会は、光学レンズ・メーカー (主としてボッシュ&ロム社とアメリカン光学社)、めがねの枠の製造業者やその販売業者と検眼士によって成り立っています。
彼らはアメリカにおけるめがねの販売を増進するために、協会にお金をプールしているのです。これは寄り合い所帯広告の好例です。運営費はたいして多くはありません。年間 100万ドル以下でしょう。
DDBでは60万ドルの扱い高から始まつて、現在でも80万ドル程度のものです。アメリカでは、小さいほうのアカウントです。
私たちは、めがねフレーム、検眼等を直接売り込んでならないという結論に達しました。それが本当に大衆のためになるような「パブリック・サービス・キャンペーン」を行なうことが、お金を最も有効に使うことであり、そしてまた、協会の利益にもつながると考えました。
それゆえあらゆる要望にもかかわず、この基本線からはずれたことはありません。そもそもの最初から、人びとに目を検眼してみようと思わせる最良の方法は彼らに目についての関心を持たせること---目の重要性について認識させることであると私たちは考えました。
時には不安からのともあるでしょうが、基本的には人びとが持つもっとも重重な感覚の一つに対して、興味を持たせることから初めることにしました。
こうして私たちの広告が始まりました。
私が大変誇りにしていることは、このキャンペーンの開始以来、アメリカでのめがねの販売高が33パーセント増加したことです。


これは点字です。「あなたはたった一組の目でずっとやってきたんです。年に1回かそこらは検査してやんなくちゃあ」と書いてあります。



とても損をしながら人生をおくることもあります。
(それに気づきさえもせずに)


私たちの目についての不思議なこと。
あんまり面倒なことがいような程度によく見えるだけだったら。もっとずっとよく見えるなどということに気づかないかもしれません。
そうでなければ当然、私たちは専門的な目の検査を受けるはずです。
そこで、その結果、私たちは多くは、突然、ほんとうの世界はどのように明るいものなのかということを発見するのです。恐らく初めて、物事の明るい、美しい形を見るのです。
そして私たちは見たものがすきになります。
そうなのです。どんなに損失をしていたかということをもどうしていままで気がつかなかったまでしょう。
簡単なことです。どんなに損失をしていたかということを、どうして今まで気がつかにかったのでしょう。
簡単なことです。見るということが問題なのです。私たちが見ていると考えている見方なのです。ですから、私たちはすごくたくさんのものを取り逃がして人生を過ごすこともあるのです。
もしも、すでにいわれているとおり、私たちが他のことを発見していなければ---資格のある検眼士の助けをりて---。
ところで、あなたが最後に目の検査をお受けになつてのはいつだったでした?



よく聞こえないんですって?
目を検査してもらわなければならないようですね。


目って不思議な機能を持っています。躰のどこかがおかしくなった時、目が原因しているってこともあるんですよね。
よく見えていてもです。調子が出ない---そう、気力が湧かないって感じ。いろんなところが機能していない。
ああ、これだって時もありますね。芯のからの頭痛、前頭部の頭痛、いらいら、むしゃくしゃ、めまい、吐き気。耳鳴りって時さえあるでしょう。
それが目からきているかも、なんて、思いもよらないでしょう。目はいいんですものね。
でも、資格をもった検眼士に見てもらいましたか(見てもらった? ---いつ?)、 答えがでるかも。かすかな屈折異常だったりして。あるいは眼筋の不均衡とか。
それだけ分かれば十分です。あなたは気づいていなでしょうが、目と神経系は、無意識のうちにその調整に努めていたのです。
その無理が、躰のほかの部分の不調や情緒不安定という形で発信しているのです。
目のほうを正常に戻せば、結果のほどは驚くばかりです。頭痛は消え、いらいらもおさまります。突然、すべてのものが正常の状態でみ見えているのですから。
そう、もう、逆戻りはありません。
すべてが正しく見えていなければ、耳の検査ではありません。
そうでしょう、あなたは障碍の原因が分かったわけですから。どうすればいいかもお分かりなんですから。


続く(フォルクスワーゲンの広告) >>




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>>レオン・メドウ氏とのインタヴュー(1)(2)(3)(4)(5)