創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

03-46 ほかの人にやらせてみないかね?

しかし、念のためアカウントの委譲について、パーカー夫人に尋ねてみました。


chuukyuuDDBでは、当初スーパバイザーが担当したお得意を、一年後ぐらいにもっと若い人とか別の人に回すことがありますね。ところが一方では、フォルクスワーゲンのレブンソン氏やベター・ビジョン協会のメドウ氏のように、なん年もずっと書き続ける場合もありますね」
パーカー「必ずしも、二つに分かれているとはいい切れませんけれど…ライターにアカウントが渡されますね。たまたま、その人が昇格してコピー・スーパバイザーになったとします。そうすると忙しくなりますし、グループの中のたくさんのアカウントを見なければならなくなるでしょ。こんな場合には、担当していたアカウントをほかの人に渡さねばならなくなります。
でも、そのライターが、そのアカウントが非常に気に入っていて、手離したくないと思った場合──たとえばメドウさんのベター・ビジョン協会のような例ですね──には、長いこと持っていることになります。個人的な理由…といってもいいわね。今、レブンソンさんは、VWの広告はほとんど書いてないはずよ。ほかのアカウントがあって忙しいので書くことは書いていますがほんの少ししか書いていません。つまり、これと決まった形があって、担当を手離したり、長く持ったりしているわけじゃないんです。でも、こういうことはありますね。コピー・チーフであれ、スーパバイザーであれ、ジュニア・スーパバイザーであれ、その人がしばらくある商品について書いているとしますね。
ところが、どうもピンとくるものができない場合だってあるでしょう。そういう時、別のアイデアを持っている人がやったらうまく行くかもしれませんね。こういうわけで、ほかの人が担当するケースもあっていいわけでしょう?それから、大きなアカウントがはいってきちゃってとても今までどおりにはさばききれない時にも、持っていたアカウントをほかの人に渡すこともあるし…。自分で、どうもうまく行かないと感じて自分から進んでほかの人にやってもらうケースもあります。あるいは、バーンバックさんとか、ゲイジさんが呼び寄せて、『ほかの人にやらせてみないかね?』と指示を与える場合もあります。こんな例もありますよ。レブンソンさんは、ELAL(イスラエル航空)を、1959年に入社して以来ずっと持っていました。ですから、ELALに愛着がある。しかし、忙しくなったものですから、一時、ほかの人に回しました。ところが、彼は最近またこれを取り返しました。というのは、彼はELALが好きなんですね。どうしてもほかの人にやれせたくなかったんでしょうね」
chuukyuu「自分が担当していたものを、ほかの人に渡す時には、どんなふうな渡し方をしますか?」
パーカー「商品にもよりますし、自分が楽しみながらやっていた仕事、それから自分があまり好きじゃなかった仕事、うまく行かなかった仕事を渡す時とでは、気持に違いがでますね。
でもまあ、一般的な渡し方としては、そのアカウントに関するありとあらゆるファクチュアルなインフォメーションを与えます。しかし、どういうふうにやったらいいかといった種類のアドバイス的な指示は与えません。
もし、自分が担当していた時の経験の中で、次に担当する人にプラスになると思われるようなことがあれば、それは話しますが、どうすればいいかとは、絶対にいいません。影響を与えてはいけません。それも事情によりますよ。というのは、次の担当ライターが、自分のグループの人間か、ほかのグループの人間か…で、ちょっと違ってきますね。同じグループの人であれば、自分の下にいるわけで、スーパバイズしなければなりませんから間接的に自分が担当していることになりますね。この場合は、無意識のうちにあるいは感情的に影響を与えてしまうということになってしまいます。でも、VWのように、基本的に、あるネライでもってキャンペーンが始まったものは、あとだれが継ごうと、基本的なテーマは替えることはできませんし、替えてはいけないと思います。ライター個人のプライドとか、立場も必要ですが、それ以上にいかにして最良の広告をつくり出すかということが重要ですから、だれがどの部分を担当したかというようなことは、VWの場合は、特に二の次じゃないでしょうか?」


仕事を引き継ぐ場合でも、相手の個性を尊重して、こうすればいい…などと決していわない雰囲気も貴重なものです。


>>「コピーとアートの結婚を語る」(前編)
レオン・メドウ(DDB副社長兼コピー部アドミニストレイター)と、ベン・スピーゲル(DDB副社長兼アート部アドミニストレイター)のインタビュー。


>>ベター・ヴィジョン協会の広告
>>ロバート・レブンソンのインタヴュー(その1)