(117)スタンレイ・リー氏とのインタヴュー(1)
(DDB,副社長兼コピー・スーパバイザー)
このインタヴューとは別の時に、氏に「ハンフリー大統領候補の選挙キャンペーンをやる気はにないのか?」と尋ねたら、「いくら金を積んで頼まれたってご免だね」と、まるで吐いて捨てるような口調でこたえられた。ちょうど、マッカーシー上院議員が指名争いに敗れたあとだった。DDBが社としてはハンフリーを引き受けているというのに、氏やレブンソン氏は休暇をとってマッカーシーのための広告をつくっていたのだ。
総裁・首相選びが自民党内で行われている。関与するなら、個人で---といいたい。
【chuukyuu注:】(インタヴューのリー氏の発言中( )に入っている部分は、テープ起こしの原稿の校正時に、氏自身が削除した発言。したがって英文には入れてないが、本音の部分なので、日本文ではそのまま残しました)。
電気工学の技術者からコピーライターへ
chuukyuu「DDBへ入社なさったいきさつを話してください」
リー「ぼくは、ニューヨーク市にあるコロンビア大学でエンジニアリングを専攻しました。その中でもとくにエレクトリカル・エンジニア---電気工学でした。
卒業後の数年間を、その分野の仕事に就いていましたが、将来とも技術者としてすごす気はありませんでした。
決心しまして、ライターになろうと思ったのです。ライターといっても、科学記事のライターです。テクニカル・ライターですね。
どういうものを書くかというと、いろんなインストラクション・マニュアルなんか---たとえば、非常に複雑なレーダー・セットーとか、エレクトロニクスの装置についている説明書とか指導書なんかですね。
そういう仕事をしながら、テクニカル・ライターも辞めて、いつかはフリーランスのライターになるという計画を持っていましたから、貯金をしていました。
で、結局、フリーランスのライターになったけれど、2年半ほどのあいだに、たった500ドルしか稼げなかったのです。破産してしまいました。
そこで、もう一度仕事を探すことになったわけです。ちょうどその時に、DDBが歴史上初めて、ジュニア・コピーライターを新聞広告で募集していました。
説明を読んでみると、DDBの中で仕事をするのではなくって、デパートの中で仕事をする人を求めている---と書いてありました。つまり、デパートの中で仕事をする人を求めていたわけですね。
ぼくは、DDBへ手紙を書いて、デパートの中で仕事をするのは好きじゃないが、ほかの仕事でどうだろう---と申し出たのです。DDBからは、考えてみるから作品のサンプルを出せ---と言ってきました。
そこで、いくつかのアカウント(発注者)の中から、これはと思うものを選んで送ってみました。それが、ロン・ローゼンフェルド氏の目にとまって、氏が当時コビー・チーフであったロビンソン夫人に推薦してくれたのです。
(chuukyuu注:ロン・ローゼンフェルド氏とフィリス・ロビンソン夫人とのインタビュー)
こうして、DDBに入社することができたわけですが、DDBのような広告代理店が、エンジニアを採用するなんてことは異例のことで、ちょっと考えられないようなことでした。広告ビジネスにはまったく関係なかったんですからね、ぼくは---」
(いまなら、パソコンなんかのIT機器の広告のために、電子工学を専攻したテクニカル・ライターとしての門戸が開けているのでしょうがね。スタン・リーさんは20年早く卒業しすぎたのかも---)。
chuukyuu「現在のDDBでの地位は?」
リー「副社長で、コピー・スーパバイザーです。ぼくの下には、コピーライターが2人います。担当アカウントは、アキュトロン時計、バンカーズ・トラスト銀行、ハイデン・ストーン証券で、その全部の広告に責任があります。が、ぼくはスーパバイザーとしてよりライターとして多くの時間を使っています。DDBでは、クリエイティブ部門の人間は、徐々に現役を退いてスーパバイザーになるのではないのです。スーパバイザーはプレーイング・マネジャーです」
DDBがライターにとって住みよいわけ
chuukyuu「コピーライターにとって、DDBが住み心地がよいのは、なぜでしょう?」
リー「DDBでは、クリエイティブ畑の人間は、自分の能力の許すかぎりのことをやるようにと、すすめられています。批評や監督のしすぎなしに、みんなが自由に仕事をやれるようにしているのです。この自由に---というのが、肝心なことなのです。いろいろなことを禁じられたコピーライターには、ろくな仕事ができませんが、とにかく、とにかく、質問の本質に戻りましょう。
ほとんどの代理店では、クライアントが、広告のどこかに、チョット顔をしかめると、それだけでびっくりしてしまって、変更を求めて、ア−トディレクター、コビーライターのところに、飛んで帰ります。ぼくは、DDB以外で働いたことはないのですが、まあそんなところだろうと想像しています。
ここでも時には、そんなことが起こりうるでしょう。アカエント・マンにとって、クライアントの要求に応じて、広告の変更に同意することは、すごく誘惑的なことに違いありませんから、たとえ、その変更が改良にならないとわかっていても、『お得意さま』と議論するのは、きつい仕事ですからね。ですから、コピーライターの仕事は、広告を書き終わったら、それで必ず終わるというわけではないのです。彼は、アカウント・マンが、その広告をクライアントに売る、手助けをしなければならないのです」
chuukyuu「才能のあるコピーライターでも、雰囲気のよくない代理店にいると、才能を伸ばせないとお考えのようですね」
リー「これはもう、そのとおりでしてね。例外というよりは、むしろ、あたりまえのことです。
広告とは、ビジネスとアートが遭遇する場です。そして、この2つの要素が一緒になって、うまく作用するというのは、なかなかに難しいことなのです。この2つを、相互に協力させるためには、並はずれた環境が必要です。
DDBはその環境を有する、きわめてまれな代理店の一つであると、言うことができます」
DDBのみごとなコピーライターたちとの単独インタヴュー(既掲出分)
デビッド・ライダー氏とのインタヴュー
(1) (2)
ロバート・レブンソン氏とのインタヴュー
(1) (2) (3) (追補)
ロン・ローゼンフェルド氏とのインタビュー
(1) (2) (3) (4) (5) (了)
フィリス・ロビンソン夫人とのインタヴュー
(1) (2) (3) (4) (5) (6)