創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(58)『かぶと虫の図版100選』テキスト(3)


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1970年3月20日フォルクスワーゲン・ビートルに関する2冊目の編著書の新書版『かぶと虫の図版100選』をブレーン・ブックスから上梓しました。
そのテキスト部分の転載です。

VWが広告代理店を物色した時、マジソン街は歓呼の声をあげた


1958年春、ニュージャージー州イングルウッドにある米国VW社が広告代理店を物色している---といううわさが立った時、米国広告界は歓呼の声をあげて喜んだ。
年間75万ドルそこそこの米国VW社の広告予算がマジソン街に流れこんでくることを歓迎したのではなく、広告なしで、年々驚異的な伸びを示しているVWの実績が、広告人たちにはがまんできなかったのである。

ご存じのように、かぶと虫の米国への正規の輸入は、1949年の2台に始まって、次のような数字だった。


1949年     2台
1950年    157台
1951年    390台
1952年    601台
1953年    980台
1954年    6,343台
と、あまりぱっとはしていない。


1955年に米国VW社が設立された。ドイツ本社から100%の出資を受けた輸入・販売会社である。
これより1年前の1954年に、専売販売網の整備に手がつけられ、最終的には16のディストリビューターと630のディーラーが設置された。米国VW社の設立は、時宜をえたものであった。


1955年  28,907台
1956年  50,457台
1957年  64,803台
1958年  79,038台(ステーションワゴンとトラックも含む)


この販売台数は、米国の広告人たちがニガニガしく感じていたとおり、着実に伸びていた。
1958年の時点において、米国内でかぶと虫を買いたいと思うと、4ヶ月以上も待たされるのが常識であった。
それなのに、なぜ、VWは広告をしようとしたのであろうか?
米国VW社のスコット・スチュワートPR部長がニューヨーク・タイムスの記者に語った言葉をそのまま引用すると、
「今やわれわれは、そうするほうがいいと感じたのだ」
ということになる。
しかし、この時に広告したのは、VWトラックであった。
スチュワート部長は、15の候補広告代理店に会い、それを幾つかに絞って、資料を西ドイツの本社へ送った。資料は、それらの広告代理店の過去の仕事と、そこで働く人びとに関するものであった。
こうした時につきもののプレゼンテーション(計画書と試作広告を求めるのが米国では普通になっていた)は求められななかった。
「われわれは、プレゼンテーションなんて時間とお金の浪費だと思う」という、スチュワート部長の合理的な考えによるものであった。
2月27日、J・M・メイセスという代理店が指名を受けた。過去6年間、オースチンの広告をやっていた広告代理店である。契約は1年間だけであった。

この年の11月中旬、ノルトホフ(前)社長が米国で休暇を過ごすために、ニューヨークのアストリア・ホテルに宿をとった。パーク・アベニューに面した由緒ある高級ホテルである。
60歳に達していた彼は、薄いブロンドの髪と温和な口調でインタヴューに応じた。休暇中とはいえ、自動車工業会と米国技術工業会の共同主催による晩餐会で、エルマー・A・スぺリー・メダルを授与されたので、記者たちに会わないわけにはいかなかったからである。このメダル、技術工業の分野では、もっとも得がたい名誉の一つだった。デトロイトのコンパクト・カーに対するVWの施策を期待していた記者連に向かって、ノルトホフ氏は、
「『マイ・フェア・レディ』と『ウエスト・サイド物語』をブロードウェイで観ました。どちらかというと、『ウエスト・サイド物語』のほうが好きです。モダンで、私にもよく理解できました」


DDBによる初期キャンペーンの作品の一つ


なぜ、エンジンが後部にあるのでしょう?

ふつうの車は、フロント・エンジンの力を長いシャフト経由で後車輪に伝えます。
フォルクスワーゲンのリア・エンジンは、じかに後車輪に伝えて、重さと力のロスを節約しています。
このデザインがいちばん効果を発揮し、経済的でもあるということを、VWの獅子っ鼻を窓ごしに見ながら運転していて、あなたは思いあたるはずです。リア・エンジンは、後車輪によい牽引力をもたらします。ほかの車がスキッドするぬかるみ、砂地、氷上、雪道でも走ります。
しかし、フォルクスワーゲンのエンジンの特長のうちでも、後部にあるということは、とりたてていうほどのものではありません。たとえば、これが空冷式ということを考えてみると、こいつはすごい長所。夏の沸騰とか冬の凍結もなし。不凍液も不用なら、ラジエーターのごたごたもなし。
エンジンはアルミとマグネシウムの合金の精巧な鋳造で、軽くて力があり、重さは198ポンドですが、車体を走らすにはこれで十分です。
摩擦が最小限にとどまるように設計されており、次のオイル交換時まで補給しないでむはずです。トップ・スピード時と巡航速度時の摩擦状況が同じなのです。
あなたのVWは、時速70マイルで1日中、苦もなく走りつづけます。1ガロンあたり正味32マイル(レギュラー・ガソリン----ふつうの運転で)。




Why the engine in the back?

In conventional cars, a front engine turns the rear wheels through a long drive shaft,
But Volkswagen 's rear engine gives direct power to the wheels, saving weight and power. It is the most efficient and economical design. It means greater visibility when driving−you sea over VW's snub nose. And rear engine gives your rear wheels better traction. In mud, sand, ice, snow, where other cars skid, you go.
Its location, however, is the least unusual feature of the Volkswagen engine. For one thing, it is air-cooled, an astonishing advantage when you think about it. No water to boil over in summer, or to freeze in winter. No anti-freeze needed. No radiator problems.
The engine is ingeniously cast of aluminum and magnesium alloys and is very light and powerful; undoubtedly the toughest 198lbs. going.
It is beautifully machined for minimum friction; you will probably never need oil between changes. And so efficient that top and cruising speeds are the same.
Your VW runs at 70 mph all day without strain. You get on honest 32 miles to the gallon( regular gas−regular driving).


>>(4)に続く。