創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(75)『かぶと虫の図版100選』テキスト(20)


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1970年3月20日フォルクスワーゲン・ビートルに関する2冊目の編著書の新書版『かぶと虫の図版100選』をブレーン・ブックスから上梓しました。そのテキスト部分の転載です。

別の人間に同じことをさせては人間の成長の妨げになる

さて、VWの最初のコピー担当だったジュリアン・ケーニグ氏がDDBを去ったあと、数人のライターがその穴を埋め、半年後にロバート・レブンソン氏が正式に後任に起用された。
レブンソン氏は、英語の教師になるつもりで長い間学校に通っていたが、一生安月給でやつていけそうもないと感じてコピーライターになったご仁である。DDBには1959年に入った。VWDDBへやってきた年である。
氏がDDBを志した経緯はすごくドラマチックだ。
ある朝、ニューヨーク・タイムス紙に載ったELALイスラエル航空の広告を見た(注:氏はすでに小さな広告会社に職を得ていたから、新聞広告を確かめるのは職業柄であった)。
海の写真の右端が破られ、そこに、「12月23日を期して、大西洋は20%縮みます」という見出しが置かれ、ジェット機の就航を予告したものだった。



もちろん、DDBの作品である。
この広告感動したレブンソン氏は、10ヶ月も失業保険で暮らしながら、自分の働き場所はDDB以外にはないと心に決め、DDBに押しかけて、ついに雇用させてしまったのである。
レブンソン氏は、そこから5年間、VWのコピーを書いた。
レブンソン氏に会った時「100点近くつくったVWビートルの作品の中でどれがいちばん気に入っているか?」と尋ねてみた。
氏は、「全部に愛着があるが、しいてあげるとなると---」と前置きして、カラー広告「33年後にかぶと虫を手に入れました」と、「ニューヨーク・タイムス紙に載せた1ページ前面広告---「節水。 ---下部に小さく---水を必要としない空冷式エンジンを搭載のフォルクスワーゲンの提供です」をあげ、その清刷りをくれた。
その年、ニューヨーク市は極端な水不足に見舞われ、前市あげて節水対策を心がけており、ニューヨーク・タイムスも「節水の20のヒント」などと題した別刷り付録をつけたりもしていた。
その中の1ヶ条。「歯を磨いているときには、蛇口をしめておきましょう」「水洗トイレの水槽にレンガが1ヶ、入れましょう」
ホテルの蛇口には、「節水」のステッカーが宿泊旅行者に協力を呼びかけてもいた。


節水。
水を必要としない空冷式エンジンを搭載のフォルクスワーゲンの提供です。




Save water.
Presented by Volkswagen, the car with the air-cooled engine that doesn't use any.


広告に必要な要素の一つ---タイミングをみごとに捉えたも公共精神の強い作品である。

ボブ・レブンソン氏とのインタヴュー(1) (2) (3)


1968年末には、レブンソン氏のほかに、VWチーム全体では、6チーム、12人のクリエイターが働いていた。
問い「6チームに同じことをやらせて、その中からよいものを選ぶのですか?」
ファイン「とんでもない。車種別に担当が分かれているのです。そうそう、6チームの上にクリエイティブ・ディレクターがいます」
このクリエイティブ・スーパバイザーがレブンソン副社長だった。
ファイン「普段は6チームなんですが、忙しい時には10チームになることもあります。逆に暇な時には2チームほどしか働いていないこともあります」


>>(21)に続く。