創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

03-17 大きくなっても自由を失わない

バーンバック氏が日本での講演を「クリエイティブ部門の人たちに自由を与えてあげてください」という言葉で結んだ意味は、以上書いたような意味だったのです。
しかし、もう2つばかり書いておきたいことがあります。
1つは、幹部コピーライターのグリーン女史が話してくれた次のことです。
「外部の人たちの話を聞きましても、大体代理店というのは、だんだん大きくなるにつれて、どうしても自由な雰囲気ってものがなくなってしまうものですが、DDBはそうではないんですね」
現在、DDBの従業員数は約1,800人。クリエイティブ部門のスタッフだけでも500人近くもいます。
企業の規模が小さい時なら大抵のことができます。
けれども大きくなると、なんとなく保守的になりがちなものです。
広告代理店の場合は、大きくなるということは、大企業をお得意にすることを意味します。
そうすると、こちら側がいかに自由な雰囲気を望んでも、相手側の企業がへんに組織化されていて、意識的であるにしろ無意識的であるにしろ、自分たちのやり方を押しつけてくる場合もあるし、代理店側でもそのお得意を失った場合の経営上の危険を考えて自らの手で自由の女神の首を絞めてしまうこともあるようです。
パーカー夫人も、そこのところを強調して、こう話してくれたことがありました。
「代理店の雰囲気というのは、才能についで2番目に大切なことだと思います。
DDBでは、バーンバック会長は、もう長い間コピーを書いてはいません。でも、あの人がやった最も意味のあることは、みんなが各自の才能を伸ばせるような雰囲気をつくり上げたということでしょう。
間違えないでほしいんだけど、あの人があの人の真似をするようにみんなに強制したという意味じゃないのよ。
一定の枠の中での完全な自由を与えたのです。
DDBができて、もう20年になりますが、いまだにDDBの広告が新鮮さを保っている秘密は、これじゃないかと思うんです」