創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

02-17 ラインゴールド・ビールの事例

ラインゴールド・ビール(Rheingold Beer)の広告で、それまで広告ではタブーとされていたニューヨークに在住する各国人種を取り上げて話題をまいた幹部アートディレクターの(シドニー)マイヤーズ氏が、そのアイデアを思いつくままを書いていますので紹介しましょう。

「ラインゴールドの場合は、ローゼンフェルドと私が四回も醸造所を訪れています。
それでどのビールも成分とか醸造具合は、根本的には同じだっていうことがわかりました。
そしてテストの仕方、カンに詰める方法、びん詰めの方法、輸送方法、値段のつけ方まで根本的には同じなのです。
別に、『秘密方式』とか特別な樽とか成分などありはしないのです。みな人々の好むよいビールを醸造しているのです。
で、ラインゴールドのすぐれた点は何?
人を引きつける『ワナ』はどこにある?…もう一度醸造所へもどりました。
そして醸造過程をすべて見て回りました。
やっぱり結果は同じです。そこで販売部門の人に話しかけてみます。

だれかが静かにこんなことをいいます。
『とにかく、ニューヨーク市では、ラインゴールドがナンバー・ワン・セラーなのです』と。
そうです…とまあこんなふうにして『ワナ』を見つけました。
ここで、広告における技巧が必要とされているのです。
ヘッドライン??『ラインゴールドは、ニューヨークのナンバー・ワン・ビールです』
だれが気にとめましょうか。
ヘッドライン??『ラインゴールドは、ニューヨークで他のどのビールよりもより多く売れています』
だからどうしたっていうんだ?です。

みながみな、自分こそ一番だと思っているのです。
そして確かにみながみな、ある点では一番なのです。
どうしたらこれを、正直に人を説きつけるやり方で、いえるでしょうか。

そこで、もう一度、醸造所行き。
代理店側『どうして、ラインゴールドがニューヨークでナンバー・ワンなのですか』
クライアント『本当のこといって、わからないのです。ただほとんどのニューヨーク市民がこれを好きだということしかわかりません』

また挫折。

ローゼンフェルドと私はまた製図板の所へもどりました。
じゃあ『どうして、ニューヨークのナンバー・ワンかわからない』っていってみたらどうだろう?

待てよ…ニューヨークで…一番売れているビール…どうしてだろう…わからない…けど…けど…
ム??きっと何かあるんですよ。

クリエイティブ・クライマックスです。

どういうふうにして起こってくるのですかですって?
直感?
経験?
一生懸命にやる?
ふざけて回る?
ただ生活している?
はっきりいえませんが、わかるでしょう?
これだって思う時のことは。

どうやったらこのアイデアを生き生きと見せ、もっと発展させて行けるでしょう。
ニューヨーク市にはたくさんの人間が集まっています。
ドイツ人はプエルトリコ人よりもラインゴールドをたくさん買うでしょうか?
アイルランド人はユダヤ人よりも買うでしょうか?
黒人はイタリア人よりも?

いいえ。じゃあこういった人種の人がそれぞれどんなふうにこのラインゴールドを飲んでいるか表現してみましょう。
俳優もセットも用いないで、普通の人を使ってパーティーを開き、食べ、その人たちの中にカメラマンを入れて、どんなことが起きるか見てみることにしましょう。
モデルなし、筋もなし、歯のキラキラ光る美人もなし、マドロス男もなしで。
危険ですって?
うまく行かなかったら?
人々が、カメラのほうをジッと見てしまったら?
ビールをついで、こぼれてしまったら?
もし…もし…。
それがどうしたのです。やってみるのです。安全な今まで受け入れられてきた方法でやっていたら、偉大なものはつくり出せません。


ギリシャ系の人たちのパーティ撮影


とうとうたどりつきました。
でもここがかんじんなところです。
仕上げです。
あなたのほかにだれもあなたのアイデアを仕上げることはできません。
頭のすみずみから、ほかのアイデアはうっちゃってしまいなさい。
カメラ・アングル、ライティング、音、音楽、活字の扱い方、というふうに何百のちっちゃな点まで、あなたがいなければコントロールできません。

あなたのコンセプトを手元から離してしまってはダメです。いつも手元に置いて、調べ、変え、撮影にもついて行き、編集室にも行き、音楽の部分も監督しなさい。
あなたがホッとしていいのはそれが上映されてからです。
そしてその時でさえ、何か『こういうふうにやったらどうだろう』という点を見つけようとしているべきです」