創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

01-17 直観を信頼しよう

「正しいことを研究調査して発表することは非常に簡単です。
しかし、それをただ正しいことだから言おうということだけでは決して有効な広告にはならないのです。

そこに、芸術的表現力を持つタレントがあってはじめて人びとが信ぴょう性を抱いてくれる、説得力がある広告ができるのです」(注:「日経広告手帖」1966年6月号)

「ですから、ここで重要なことは、正しいことを言うだけでなく、その正しいことをいかに人がとどまり、みてくれて、それが説得に持ち込める形でやるかということです」(同)

「そこに創造性と独創性、そして読者とピタリと心が合うということが必要なわけです。だから、今日最も大切なことは、その芸術的能力です」(同)
そして、芸術能力は、アインシュタインがいっているように「経験の交感的理解に基礎をおく直観」によって発揮される、というのです。

「クリエイティブ・マンの直観を信頼しましょう。彼に調査を用意してやってください。
でも、それで彼を拘束してはなりません。
このやり方で、彼が彼自身の直観的センスをみがくことができるでしょうし、それはどんな調査よりも数年先を行くセンスです」(1964年、4Aでの講演)

創造的直観の重要性については、ここ二、三年、日本でも科学者の間で話題になってきました。
創造工学の権威として有名な同志社大学の市川亀久弥教授も、『創造的直観の構造──ディジタル情報の導入によるアナログ情報の結晶化としてみた──』と題する論文の冒頭に、
「こんにち、Scientific approachとして知られている帰納法、あるいは、ORなどといったものに見られるような解析的方法が、創造的な知的作業を遂行してゆく過程で意外にも非力であることが、多くの人々によって注目されるに至った」
と指摘されたあと、湯川秀樹先生の名を引用しながら、
「現代科学における『直観性』の回復は、現代科学の上に現れてきた創造的な行き詰まりが、様々な角度から検討されるに至ってにわかに注目を引き始めてき」ていると主張され、それに引きかえて、
「System engineeringであるとか、Operations researchであるとかいったものが昨今急速に発達したディジタル・コンピューターと結合して、現代的な科学的推論法(未来を予測する情報処理)の一頂点をなしていることは周知」の事実であるが、
「こういった現代科学技術のすいを尽くしたはずの合理的推論」も「創造的活動の源泉としての、ニューアイデアを生み出す能力をもたないことは、改まって指摘するまでも」ない、と書いておられます。