(3)ぼくが唸ったポスター
オーバックス(Ohrbach's)は、ニューヨーク市のマンハッタン区34丁目にある、婦人もの衣料を安価に提供しているデパート(というより、大型専門店)です。
バーンバックさんは、DDB設立の前のグレイ広告代理店で、オーバックスの広告をクリエイティブ・ディレクターとしてコピーを書き、デザイナーにはポール・ランド氏があたっていました。
(このころの事情は、[第1部 DDBの誕生]の
「考える友人…ポール・ランド」
「選ばれたのは、ゲイジだった」
をお読みください)。
DDBの設立にあたって、バーンバックさんはオーバックスに話を通し、グレイ社の了承も取り付けて、オーバックスをDDBの第1号のアカウントとしました。
しかし、バーンバックさんが選んだアートディレクターは、ランド氏ではなく、ロバート・ゲイジ氏、そしてコピーライターは、ミズ・フィリス・ロビンソンでした。
ボブ・ゲイジ氏が、ランド氏の影響から脱して、のびのびとした視覚的表現をとったことは、引用した50年以上も前の、猫と犬の広告でも読みとれます。
しかし、ゲイジはいつまでもオーバックスの広告に携わってはいられませんでした。次々とあたらしいアカウントがやってきたからです。
ゲイジに代わったアートディレクターは何人もいましよう。そして、引用の、1960年代後半に作られた地下鉄の壁面ポスターのアートディレクターは、シド・マイヤーズ氏でした。氏とは、DDB訪問で何度も顔をあわせていますが、これか氏の作品とは気がつかなかったなあ。この人、ユーモアのセンスが溢れている。
オーバックスが大きく繁栄して、メンズ・ショップを開設したときのアナウンスです。
ニューヨーク市民は、オーバックスのことを女性衣料の店と思いこんでいます。
また、ニューヨークの地下鉄は、いまはともかく、当時は落書きの天国でした。
そこへこのポスター。
DDB創立当時の、猫の広告
【訳文・大意】
ジョーンの秘密がわかりましてよ
銀行家夫人って? とんでもない、銀行預金だってほとんどないみたい。
なのに、あんなに次々に新しい衣装が着替えらえる、変でしょ?
ええ、彼女を尾行したら、オーバックスから出てきましたのよ。(chuukyuu注:庶民はモノクロ写真の合成なんて知らなかった時代)。
猫の広告の次の週に掲載。
【訳文・大意】
ぼくは、オーバックスが憎い!
彼女ったら、オーバックス、オーバックス、オーバックスって、オーバックスにぞっこんで、ぼくのための時間なんかありゃしないんだから、もうッ!(犬は、ワンでしょ?)