創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

02-15 まず情報集めから始まる

さて、現実にぺア・チームによるクリエイティブ・ワークが、DDBでどのように進行するかをお話ししましょう。パーカー夫人はいいます。

「それでは、実際の仕事ぶりはどうなのでしょうか? 
コピーライターとアートディレクターが向かい合って座って、作品をつくり出すのでしょうか? 
まだまだです。
先ず第一に、担当の商品やお得意、市場、訴求対象、広告によって解決しようとしている問題点や、広告目的について知る必要があります。

ですから、クリエイティブ・チームがお得意を訪問し、マーケティング担当者やプロダクト・マネジャー、販売部長と話し合い、工場を見学することもあります。
クリエイティブ・チームは社に帰り、社のマーケティング担当者や調査担当者とディスカッションを重ね、担当の商品に関し、もうこれ以上知る必要がないというまで調べ上げます。
私個人のことになりますが、商品を取りまく状況を完全に理解するまでは、キャンペーン・アイデアのひとかけらも心に浮かばさないように、きつくいましめます。
というのは、そうしないと、事実に適したキャンペーンを考えるというより、キャンペーンに事実を合わせてしまう危険に陥るからです」(注・前出「クリエティビティ」)。

このパーカー夫人の発言は、新しい依頼主、新しい製品のために組まれた新しいペア・チームのことを話しているのです。
したがって、すでに手がけている製品の場合には、いちいちこんな手続きを取るわけではありません。

アメリカの広告慣習として、新しい依頼主、新しい製品がはいってきた場合の準備期間には13週間以上が当てられます。

ですから、ペア・チームは十分に時間をかけてこういう情報集めができるわけです。
もちろん、彼らが出かけて行って多くの人々に会っている一方では、DDBマーケティング部や調査部やアカウント部門の人たちが、それぞれの立場で情報を集めていることはいうまでもありません。

しかし、そうしたいわゆる公式的な情報とペア・チームが直接に経験的に集めてくる情報とは、どこか違うのです。後者のほうが、より生き生きしている情報…といってしまってはいいすぎになるかもしれませんが――。