創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

02-18 DDBペア・チームの「レッグワーク」

ラインゴールド・ビールの例で、マイヤーズ氏とローゼンフェルド氏のペア・チームが何回も工場を尋ねて工程を観察したり販売部門の人に話しかけたりした経過は、川喜田教授が『発想法』で述べておられる、情報を探検に行く過程、個々の現象を観察・記録する過程…いわゆる経験レベルでの思考と考えてよいでしょう。
DDBでは、この過程を「レッグワーク」と呼んで、非常に大切にしているようです。

もちろん、クリエイティブ部門だけの「レッグワーク」のほかに、調査部、マーケティング部からの情報が、ペア・チームに届けられていることはいうまでもないと書いておきましょう。

このDDBの「レッグワーク」の実例をVWの広告キャンペーンに即して、バーンバック氏自身が話していますので、引用しまします。
「このアカウントを引き受けた時、最初にしたことは、ドイツのウルフスブルクにある工場で多くの時間を費やすことでした。
私たちは技術者や製造陣、幹部連や流れ作業の作業員などと話し合って数日を過ごしました。
溶けた金属が堅くなってエンジンになるのと一緒に歩き、そして、すべての部品が最後に定められた場所に納まるまで、歩き続けました。
最後に、一人の人がハンドルを取って、生まれたばかりのカブト虫に最初の生命を吹き込み、それが初めて動き出すのを見ました。

私たちは、フォルクスワーゲンのつくり方をすっかりのみ込むことができ、テーマを何にすべきかを知ったのです。
何がこの車を他の車と区別させているのかを知りました。
私たちはいわなければなりませんでした。
──これは正直な車です──
これが私たちの販売命題でした。
私たちは使用されている部品の品質を見ました。
間違いを避けるためにとられる、信じられないくらいの予防手段を見ました。
車を何回も突き返して、その代わりお客さまからは決して突き返されることのないおゆにする、非常にお金のかかった検査のシステムを見ました。
信じられないぐらいの安い値段で、このすばらしい品質の製品を可能ならしめている印象的な能率を見ました。
作業員たちの、定められた基準よりもずっと自分をすぐれたものにしている熟練の誇りを見ました。

そうです。これは、正直な車でした。
私たちは、販売命題を見つけたのです」(注:1961年4Aでの講演)