創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

03-15「批判の過剰」なし、「監督の過剰」なし

また、幹部コピーライターのリ−氏に会って、エンジニア出身の彼がこの問題についてどう考えているかを質問してみました。
エンジニアも広告制作者もある意味では同じ専門技術者であり、共通の精神構造を持っているように思ったからです。

彼は「批判の過剰」、「監督の過剰」という言葉を使ってこう答えました。

DDBでは、クリエイティブの分野に対して、外部からの干渉が非常に少ないのです。ですから、クリエイティブ関係の人間は、自分の能力の許すかぎりのことをやるようにと、すすめられているのです。
オーバー・クリティサイズ(批判の過剰)、オーバー・スーパバイズ(監督の過剰)ということがないのです。
一方、ほかのほとんどの代理店では、クライアントがある広告が気に入らないと文句をいうと、クリエイティブ・ピープルにフラストレーションをもたらすような仕組みになっているのです。クリエイティブの人間が非難される結果になって、ますます悪い作品しか生まれなくなってくるわけです。
その点、DDBでは、クリエイティブな人間の立場の尊重ということが存在しているといえます。
それからもう一つ、DDBでは、時間なんかについても厳格じゃないということもいえますね。必ずしも9時半に出勤することを強制されているのではなく、仕事だけを締切りに間に合うようにやれば、それでいいわけです。
つまり、つまらない規則でしばらないのです」

出勤時間に対して寛大ということで、パーカー夫人から聞いた話を思い出しました。
パーキング難のニューヨークでは、DDBの幹部連(副社長クラスのスーパバイザー)も地下鉄、バス、タクシーなどで通勤しています。
(もちろん中にはロングアイランドあたりから汽車で通ってくる人もいます)。

そこで、パーカー夫人が同じ地区に住む数人の幹部連にタクシーの相乗りによる通勤を提案したのだそうです(彼女のアパートはDDBから6キロぐらい離れた高級住宅街にあります)。

ところが、全員が「不賛成」と答えたというのです。理由は、出社時間をしばられるのはタクシー代に代えられない不自由だということ。

そういえば、幹部コピーライターだった(サム)カッツ氏は、毎月1〜2回、フィアンセに会うためにスウェーデンに飛んでいると話してくれたので、「会社のほうはどうなっているんだ」と聞くと、「締切りさえ守っていれば、DDBでは土、日、月と休もうと文句を言われない」と答えました(現在彼は、DDBを退社してスウェーデンの代理店に移ったといいます)。