創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

02-09ペア・チームの任命

しかし、問題が残らないわけではありません。
概念的にはこのペア・チームプレーが理解できたとしても、ペア・チームを動かすいろんな条件が、それぞれのチーム、もっと大きくいえば、それぞれの企業で、みんな違うわけです。
DDBでは、このペア・チームにどんな条件が与えられているのでしょうか?
「アカウントの割当は、非常に民主的な方法で行われます。副社長の地位にあるアート・スーパーバイザーが、ぺいぺいのコピーライターと組んで仕事を行うこともありますし、また逆に、アソシエイト・コピーチーフが何の肩書きもないアートディレクターと組むこともあります。

組み合わせを決定するにあたり、考慮されることは、だれがある仕事に適しており、その仕事を行う余裕があるかどうかということだけです。
アカウントがあるチームにいったん割り振られますと、もうそのアカウントは完全にそのチームのものになります。そのアカウントは、そのチームの責任になります」(注・前出「クリエイティビティ」)

このパーカー夫人の発言を、いわゆる適材適所といった言葉で解釈するのは簡単ですが、彼らはもともと、DDBのクリエイティブ部門で働くことと熱望し、才能を認められ、厳選されて入社しているわけですから、不適材不適所ということは、はじめからありえないわけです。あるとすれば、担当を命ぜられたその商品が好きか嫌いかということと、ペア・チームを組んだ相手と気が合うか合わないかというところに問題が発生します。
ソニーやベター・ビジョン協会の担当アートディレクターであったシローイッツ氏に尋ねてみました。

chuukyuu「新しい仕事は、だれからくるんですか?」
シローイッツバーンバック会長から」

chuukyuu「DBの場合は、もちろん、いい製品ばかりを扱うわけだから、製品に対する心配はないだろうけれど、自分の気質に合わない製品だってあるでしょう。その時は、断ることができるのですか?」
シローイッツ「断ることはできますよ」
chuukyuu「で、あなたは断ったことがありますか?」
シローイッツ「ありません、一度も」

そばで聞いていたVWのアカウントの責任者の(ロバート)ファイン氏が口をはさんできました。

ファイン「DDBのクリエイティブ・マンは、自由を持っているのです。
仕事を断る自由だって持っているはずです。
その時には、理由をちゃんと話せばいいのです。その理由が正当であれば、バーンバック会長だって、納得するはずです」

一方、バーンバッック氏は、
「私たちは、時にはクライアントをあきらめても、私たちの会社の社員を失わないようにしてきました」
といって、ファイン氏の言葉を裏づけています。