創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(706)クロード・ホプキンズ『科学的広告法』こだわり(6)

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今日までの累計です。




坂本 登さん訳『科学的広告法』(1966.10.05 誠文堂新光社)より


ホプキンズと広告リサーチ
昨日のつづき)


 単純性と複雑性


現実は複雑なものである。
したがって、さまざまな観察の非一貫性を抽象作用によって単純なエレメントに還元することが科学的方法の重要な役割となる。


最初、ちょっと見ただけでは複雑そのものに思えたものが、究極は単純なエレメントのさまざまな結合と理解されるようになる。


このように、真の科学的な考え方は複雑な現実を単純化することであり、似て非なる科学的思考は複雑さを喜び、尊しとする。


シロウトを喜ばせるのも、この複雑さである。
ところが、知的慰安を求めるわれわれの自然の欲求を満たしてくれるところまで現実のあらゆる面を単純化することは、科学的な考え方といえども無理である。


広告のメカニズムのように複雑をきわめた現象は、コピーを書いたりコピーをテストする仕事の大部分を支配する便利なコンセプトにまで煮つめることはとてもできない。
前にも述べたことだが、


大衆に記憶されたり、好まれたりすることが広告の目的ではないのである。


だから広告の要素の一つである注意喚起は、的をはずさないで大衆の興味をそそり、シリアスなメッセージそのものの価値が注意喚起手段のために減じられない限りにおいてのみ有益だということになる。


しかしながら、コピーの持つ特性の中には、コピーそのものを調査測定に役立てるものがある。
このような特性は、やがてそれが製品の購入につながる偶発的な事象の連続過程にあって、いろいろな仲介面の一部を構成するから、効果測定の限界を十分心にとめておく限り、また結論がクロード・ホプキンズのすでに発見した事実をしのぐものである限りにおいて、コピーライターにとっては明らかに大きな助けとなるものである。



クーポンと問合せ


何年か前の雑誌広告の多くは、商品サンプルないしはブックレット類の無料提供クーポンがつけられた。


そしてクーポンの戻ってきた数と、特長を異にするいろいろな広告とを比較した上で、種類の違うコピーの吸引力(pulling power)に関する結論が引き出されていた。
このような問合せ(サンプル請求の)を呼び起こす方法が持つ可能性は、通信販売における分析調査ほどではないにしても、単なるサーベイに比べるとはるかに大きい。


それなのに、このクーポン法の人気が落ちたのはどこに原因があったかというと、どうやらその誤用にあったようだ。
クーポン法を採用してみてすぐにわかったことは、クーポンの戻りが調査対象のコピーだけでなく、そのクーポンの扱い方によって違いを示すということだった。
クーポンの数量が多ければ、その戻りが増加する。
広告のヘッドラインがクーポンへの注意を特に引くようなものであると、クーポンの戻りが増加する。
クーポンが各種自動車の美しい色刷り写真を提供すれば、男子ティーンエイジャーの申し込みがふえる。


ところが、クーポンにとり入れられたいろいろな脆計は、効果測定手段としては無意味だったのである。
寒暖計の水銀はマッチに火をつけてその下にあてがうと、みるみるうちに上昇する。
この伝で、水銀の上昇を高める方法がいろいろ改善くふうされたが、肝心の室内温度はそのままだった。


同じ寒暖計でも、二、三の簡単な法則を応用すれば有益な計器になる。


同じことは、広告に用いて直接反響を呼ぼうとする提供品にもいえることである。


その法則の一は、クーポンの魅力は比較されるべき広告間に一定不変性を維持するということ。
これには、広告の写真、ヘッドライン、ボディ・コピーなどでクーポンに触れることを避けるのがよい。
法則の二は、クーポン引換えで提供する商品は広告効果の測定に適したものにすること。もしカタログ類を進呈するのであれば、広告された製品の購入決定上それを必要とする人びとだけに訴求する必要がある。
もしサンプルを提供するのであれば、有料か無料かのどっちかに決め、一部有料、一部無料などの方法をとってはならない。
コストの高いものであれば有料、そうでないときは無料とする。つまり、手問を犠牲にするか、お金を犠牲にするかは、大衆によってなされなければならない。


犠牲はいずれのものでも反響を減じるが、その反響をコピーが持つ実際の販売力と密接な関係に引き入れる。
もちろん、クーポンによる有効な測定の機会を与えない広告キャンペーンが数多く存在することは確かだが、事情の許す限りクーポン法を利用することは、その目的からみても価値のあることである。


予言とクリエイティブ・リサーチ


本書(『科学的広告法』)の中でも述べられているとおり、普通のコピー・テストにあっては、テストを実施する以前にそこにコピーがなければならない。
しかしながら、広告リサーチは既存コピーの比較を越えた領域に最善の機会を持っている。
広告リサーチにあっては、コピーを待たずに調査事実でコピーの創造を助けることができるのである。


広告主のコピーライターやメディア専門家が最も効果的なコピーの中心テーマを考え出したり、最も効果的な広告プランを決めるのを助けるという点で、サーベイ法はすぐれた利点を持っている。
広告リサーチが予言的機能を発揮する分野はここである。まず消費者の選好度を分析し、消費者を購買に至らしめる心理的・物理的原因を発見しなければならない。

そのうちでも最も大切な点は、絶望的な諸原因の中から広告主の対策しだいでは何とかなるという、わずかな原因を見つけ出すことである。


これ以外の原因は心理学者に任せるよりほかに手がない。ここでもまた、因襲的な考え方や先入観の多くが依然として行なわれている限り、こうしたリサーチ活動の簡素化は達せられないのである。


消費者は自分が何を欲し、なぜ買うのかを知らない。
そんなバカなことが……とお思いだろうが、簡単な例でこれを実証してみょう。
もしも1800年当時の、だれにも感化されない消費者の考えが照明の発達を決定していたとしたら、われわれは今日でも、電気の代わりに、進歩した石油ランプを使用していただろう。
なぜなら、ドアのわきにつけられたスイッチ操作で電球の明りを点滅させるなどということは、当時の消費者は夢にも考えなかったからである。
消費者は疑問を解いて問題を解決することをしない。
だからリサーチが実験を設計し、大衆の意見や行動、さらにその大衆にさまざまな製品が提示される環境によって得られた前提から結論を引き出して問題を解決しなければならないのである。
もしリサーチがこうした条件にかなうものとすれば、情報源として広告専門家の創造力に寄与することは容易である。
リサーチがなんらかの奇跡を生むからではなく、完全な暗黒に近い状態のもとで広告が行なわれるほかなかったからこそ、有効にして創造的なリサーチが広告の効率を倍加させることが容易なのである。



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