創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(696)コピーライター……現在・過去・未来(4)

 


TCC(東京コピーライターズクラブ 会員誌 第3号 昭和38年10月10日号)より


コピーライター…… 
現在・過去・未来(4)



1 現  在(2)



すべて代理店には特性があり、広告哲学(格言・ルール)があり、それらはコピーライターの仕事ぶりに影響を与えずにはおかない。
最もよく知られている例をあげるなら、オグルビー・ベンソン&メイサー社の社員に渡される[コピーライター、AD、TVプロデューサーのための97の心得集]の中でD・オグルビー会長(写真)は言っている。
「ユーモラスなコピーは物を売らない。立派なコピーライターに使われたためしがない―――アマチュアだけが使うのである」だが、オグルビー社の幾つかの広告、たとえばシュウェップスの作品などに、少くともユーモアのタッチはないだろうか?
これは見解の問題だ。
また[97]の心得集には「広告は魅力的でなければならない。人は、態度の悪いセールスマンからはモノを買わないのである」との1項もある。


chuukyuu註】オグルビーの[調査から導き出された……コピーライター、AD、TVプロデューサーのための97の心得]の全訳は、
(1) (2) (3)




また、オグルビーはこうも言っている。
「内容の方がテクニックより大切なのだ」
だが、ドイル・デーン・パーンバック(DDB)―――オグルビーのように、創造的な仕事で知られている代理店―――では、会長のウイリアム・バーンパックが論じている。
「いかに言うは内容になりうる。言わんとすることとまったく同じように重要になることがあるのだ」
テッド・ペイツでは「ユニーク・セリング・プロポジション(独自の販売命題)」を全広告の基礎としており、それを見出すのがライターの第一の勤めなのである。
ひとたび「ユニーク・セリング・プロポジションが見つかれぱ、良いコピーライターならだれでも良い広告が書けるはずだ」……会長のロッサー・リーブス(写真)は言っている。「あとは原稿用紙のマス目を埋めるだけ。これが重要でないというわけはない。だが、5人のトップ・コピーライターには、5つのまったく異なる広告……すべて秀逸なものを、たった一つのUSPから生みだすことができるのだ。ところが、ただ物を書くというだけの広告では、もし主張がまちかっていたら、商品を棚から減らすことはできないのだ」


イリアムバーンバック写真)は更に反論する。
「セリング・ポロジションを持つということと、それを売るということは別の問題だ」
彼の4A(全米広告代理業協会)の会合での話である。「だからこの、セリング・プロポジションが決まりさえすれば仕事は終わりだという、いくつかの代理店の考え方……実際はポリシー……に、私はひどく慄然としたものを感じるのだ。
まさにこの時点においてこそ、言葉や画のメカニックでなく、そのセリング・プロポジジョンをとりあげ、自分たちの芸術的手腕という魔術を通して人々にそれを見させ、覚えさせることのできる、イメージ豊かな、独創的なクラフトマンを我々は必要としているのである」
バーンバック、オグルビー、リーブスのような広告のリーダーたちには折合いがつくということはおよそないだろうが、個々のコピーライターにとってはこれは重要すぎるほどの問題だ。
各自の代理店の創造的空気のことである。
現在ヤング&ルビカムの会長であるジョージ・グリビン(写真)は自分が青年で初めてこの代理店にきた時の事を思いだす。
彼はパッカードのアカウントを割当てられ、前任のジャック・ローズブルックがやっていたように書けといわれたのだ。
「ローズブルックスの真似を詳細にわたってやっているうちに、私はわけがわからなくなってしまった。2ヶ月のうちに、私はパッカードの広告から外された」
私は自分に言ったのだ。
「そうだ、俺にパッカードのアカウントが書けないのかどうかは、俺にはわからない。だが俺にわかることは、俺はローズブルックのようには書けないということだ。俺はグリビン流で書かねばならぬ」
私はライターに対して「このいき方で書いてくれ」と命じた場合には、あまりいい広告はできないものだということを、何年にもわたって感じている。
グリビンはヤング&ルビカム社の社長に指名されたときにプリンターズ・インク誌上でこう語った。
「この代理店の偉大な資産の一つは、ここでは社員が自分自身をライターとして表現することができると感じていることだ」
表現についてはこのような機会が与えられているのだが、ライターはこの仕事のやり方が思いがけぬほど荒っぽいものだということを知るようになる。
「私たちは新人に、まったくのスタートから、何でもやっていいという完全な自由を与える」
DDBのバーンバック社長はこう説明する。
「時には、これに自分を合わせるのは難事業だ。
この自由には、大きな怖れが共存している。
何をやっても自由となれば、だれでもよりどころがなくて、<だれもアリバイを教えてくれない>ということになるのだ」
だがコピーライターたちがこの危険をよろこんで選び、自分自身を表現し実験する機会を切望するということは、くりかえしデモンストレートされてきた。
たとえば、最近、デトロイトのキャンベル・エワルドは、
「広告を面白くすることのできる人を求む」
という広告を出した。
「ライターのタイプとしてこういう人を望む。いつでも割当てをもらったとき、自分が、自分の広告をとりまく広告の海の中で自分の広告を際立つようにするにはどうしたらいいかと考える人……席につくなり、自分の事実と自分の意向と自分の想像力とに戦いを排む人……1時間か、1日か、1週開して出たときには汗びっしょり。だがアイデアを持っている。すばらしいアイデアを。気が利いていて、際立っている。ドラマチックで面白いアイデア。そして……さあ本人……はいい気持ちで……」
この広告は二つの出版物に一度ずつ出ただけだが、キャンペル・エワルドには400通の応募があった。
同じように、プリンターズ・インク誌が100人のトップ・コピーライターに、彼らが今までやった全広告の中で、好きなものを自選するように依頼したとき、明らかに大多数が次のような言葉で自分たちの選んだ作品を説明している。
「私には、新しいアイデアで実験する自由がある」
「広告主と代理店が、珍らしいアイデアを好意的に受けいれてくれた」
「私は過去の誤ちを含むような広告を買うほどの勇気と、(グッドセンス)のある大企業など絶対ないものと思っていた」
だが、ライターたちは新しい作業を始めるためにこれらのチャンスを十分生かしているだろうか?
クリエイティブマンの代理店」とか「クリエイティブの自由は……」
とレオ・バーネットがいうように、激しく非難するものもいることは否めない。
彼はいう。
「それらのものは、まったく甘やかされること、そして功績に関係なく、彼らのアイデアを全部、どれでも勝手につくりだすことを望んでいるのだ」
トンプソンのジェームス・ウェッブ・ヤングは一つの話を語る。
「私の友人の劇作家、ミッチェルが若いとき、そのころ第一線の女優フィク夫人に自分の作品の一つをとどけたことがあった。何年もかかって汗して書いたものだったのに、彼はこういわれて肝をつぶした。<ミッチェルさん、三幕以外は結構ね。むこうの客間にいって、直してちょうだい。2,3時間のうちに持ってきてね> そうしなくてはならなかったので彼はやった。その劇は成功だった」
ヤングによれば、この教訓は「完全な環境を要求するライターは自分自身をごまかしているのだということ。私かいつもうれしく思うのは、自分が最初のコピーの仕事のとき、一般のオフィスのあらゆる騒音が自分のまわりにうずまいている、広くオープンな部屋でやらなければならなかったことだ」
実際、今日ではマクマナス・ジョン&アダムスの共同創立者である、ジェイムス・アダムズのように尊敬してクリエイティブな人間を扱うような代理店はまったく稀なのである。
彼はキャデラックの広告を長年担当していたのだが、自分のライターやアーチストを森の中に連れていき、魚釣りやトランプをしてキャンペーンにかかる前、数日をのんびりする習慣だった。
今日では、中にはアカウントマンよりも窓が少ないといって不平を洩らすコピーライターもいくらかいるかもしれないが総合代理店のクリエイティブの人々に対する態度が、表面的な恩典よりも先行している。
というのは、代理店がコピーライターに純粋のライターよりもアドマンらしく振舞うことを期待するなら、爰協することを次に考えているわけである。
今日のコピーライターは、もし典型的なライターであるなら、演説屋がいうほどリサーチを目の敵にはしていない。
反対に、彼はリサーチをしばしば観迎する。
それは、あるライターの言う理由によれば「消費者が望んでいることが分からなかったら、どこから書き始めていいか分かりようがない。リサーチは我々が散弾銃式アプローチをしないよう、救ってくれるのだ。だが、彼はリサーチをアイデアのために……アイデアのために……のみ求めており、自分が7語以上の言葉をヘッドで使ってはいけないとか、こういう言い方ああいうこい方はいけないなどということを言われるために求めているのではないのである」
また、コピーライターは、アカウント部員をまるっきり敵視しているわけでもない。
ここでも、彼は彼らからもらう資料を観迎しているのである。
だが、彼の望むアカウントマンとは自分がその広告の「コピー・チーフ」となってしまう独裁主義者ではなく、常にインフォメーションの流れを彼に与え、クライアントと代理店の首脳部の考えを彼に知らせ、彼の仕事に対してはその功績を認め、そして、作品が受けつけられなかった場合や訂正のために戻された場合はその理由を簡潔に説明する……そういう良き報告者なのである。
 ライターはクライアントと連絡をよくしたいと願っている…少なくともたまには自分の仕事を説明したい、と。
だが彼はそのことで動きがとれなくなるのは、望まない(たとえばリバーブラザースは自社においてはクリエイティブ部員、特にコピーライターは、できる限りの緊密さを、その会社の宣伝部と取っていくべしと、一度は決めたのだが、アカウントマンが連絡を保つという標準のやり方に逆戻りしなければならなかった。コピーライターが、クライアントの電話や、クライアントの会議への出席のためあまりに多忙で、広告を書く時間かなくなってしまったからである。)
自分の代理店の営業ぶりから考えて、ライターたちは、すぐれたクリエイティブな仕事はアカウントより重要であり、したがって彼がクライアントの犠牲となることは決してないという保証を求めている。
「ドイル・デーン・バーンバック(DDB)やパパート・ケーニグ・ロイス(PKL)には、他よりもいいコピーライターがいるのかな?」
あるコピーライターは、こんな疑問を抱いている。
「それともクレジットは、それらの代理店でクライアントに対して<いいえ、ライターは広告に一つ以上の要素を入れることはできないのです……そうですね、30秒ではだめ、1分なければね>などと言う人々のところにごっそり行くものなのだろうか?」
彼はさらに、自分の代理店の偉い人たちが自分をよく知るようになるべきであり、会議に招じ入れるべきだ、年に一度だけクリスマス・パーティーで握手するだけではだめだ、と感じるのである。
彼は自分の代理店が、BBDOの副社長でコピー・グループ・スパバイザーのカール・スパイアーがよくやっていたような表現で、彼を称讃してほしいと思う。
カール・スパイアーが1961年引退の際、同代理店のコピーライターたちから彼に贈られた賞讃の言葉にはこう書かれていた。
「彼は誰かの書いた良い広告をとりあげ、その作者の名前をその上のあちこちに貼りつけ、チャーリー・ブロワー社長へ送り届けた」
つまり、コピーライターが求めているのは認められること、決裁をする権限、自由、理解、金銭、称讃と地位なのである。
彼らは、それらのものを獲得するために、彼らの象牙の塔を永遠に後にしなければならないであろうし、彼らはそれに値いしないと言いたてる者がI人もいない日が来るなどということもないであろう。だが、コピーライターの弱点についても話題豊富なレオ・バーネットの言葉を再び引用するなら……
「会議という会議は終わり、電話の音は止み、しゃべり声も絶えたあとの、終業後に広告をつくり出さなければならない人間がいるのだ。まっ白の原稿用紙をみつめていなければならない人間がいるのだ。これほど悲しいことはない。孤独の極みではないかと思う。いるのは彼だけ、彼一人きり……まったくひとりきり。彼は自分の心の奥底から、面白い言葉、説得する言葉、心をつく言葉、物を売ることのできる言葉を生みださなければならない。私は、コピーライターを今日の我々のビジネスにおける、時の人だと思っている」(訳:小池一子さん




chuukyuu註】バーンバック氏、バーネット氏、オグルビー氏、グリビン氏、リーブス氏のインタヴュー記事をTCCメンバーが翻訳を担当した『5人の広告作家』(誠文堂新光社 1966.03.25)は当ブログで読めます。



初画面を呼び出し、上段枠の「クリエイター・インタビュー」をクリックし、目的のタイトルを選びます。

[例]
ダヴィッド・オグルビー氏クリック
ロッサー・リーヴス氏クリック




驥尾に付したように付け加えると、1960年代、憑かれたように著編書を上梓していたなあ。
この記事で触れられているものにかかわる著書は、



1966.10.01 A4変形判 224ページ


1967.07.20 A4変形判


1973.04.20 A4変形判 167ページ


1964.04.20 46判 291ページ
松岡茂雄くんとの共訳となっているがほとんどは彼の仕事。



いずれも絶版だが、数多く献本しているので、今後、遺族の方が古書界へおだしになることも多かろう。


>>続く




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