[30分間の道草](674)バーンバックさんとDDB(まとめ 下)
■ "Discipline" の真髄
Q:お話をうかがっている間に、あなたは、ある言葉をいくども使われ
ました。
私の質問のせいでこの録音テープにはそれほど出てこないかとも思い
ますが---その言葉は "Discipline" です。これはDDBの本質を見き
わめるためのキー・ワードのように思えます。
バーンバック そのとおりです。
しかし、この言葉の意味は使う人によっていろいろ異なるのです。
私の考えでは、この言葉の最も重要な意味は、どれがよいアイデアで、
どれが悪いアイデアであるか、見分けがつくまで "鍛えあげる" という
ことだと思います。
われわれは、われわれの目的がなんであるかを知り、その目的達成に
役に立たないことはやらないというまでに、われわれ自身を "鍛えあげ"
なければなりません。
この "鍛練" という意味での "Discipline" は代理店のクリエイティブ・
ピープル、代理店とクライアントのマーケティング・マネジャーの双方に
必要なことです。
マーケティング・マンはコミュニケーションの領域においては、数字を越
えた要素が含まれるということを理解できるまでに、自分自身を"鍛えあ
げ"なければならないと思います。
また、コピー・プラットフォームをつくるだけでは不十分です。
マーケティング・リサーチのアナリストが主張する数字を全部、広告の中
に組み込んだだけでは不十分です。
広告が効果を生むためには、それ以上の何か、つまり、これらの死んだ
数字に生命を吹き込むことが必要なのです。
一方、クリエイティブ・ピープルは、自分はいうべきことをいうために、
また、何もいわないために自分の知力と想像力と芸術的技巧を駆使して
いるのだと自覚できるだけの "鍛練" を必要とします。
本当の問題は、なんであるかを見つけ出すための "鍛練" が必要なので
す。
問題がなんであるかがわからなければ、問題を解決できません。
このように "Discipline" ということは、どんな活動においても---と
りわけクリエイテイブ活動において---最も重要なことなのです。
■広告賞コンペ、精読率---独り占め
Q:周知のことですが、DDBは広告賞コンペで大活躍というより、
独り占めの観があります。
が、DDBはリーダシップ調査の結果でも、すぐれた実績があると
ことは、あまり知られていないようですね?
バーンバック DDBは2年続けて第1位です。
Q :それは私の過少評価でしたか。
バーンバック 過去の2年間のリーダシップについてのスターチ・ア
ニュアル・サーべイで DDBは ”最もよく読まれた” 広告の数で
第1位です。
Q:それは広告賞を受けたものですか?
バーンバック もちろんです。
私は、クリエイティブと広告効果を分けて考えていません。
鍛え上げられた本当のクリエイティビティの持主であれば---つまり
人びとが興味を持つことを話せば---これが "Discipline"ですが---
それも生き生きとした調子で話せば、最高のリーダシップを得ること
ができるはずなのです。
そうしなければなりません。
男の写真を載せなければならないとします。
読者がちょっと見てページをめくってしまうようにレイアウトすること
もできます。
あるいは、読者自身も泣き出したくなるようなレイアウトにすることも
できます。
目に見えないところで細工できるのです。
しかし、その結果の実際の価値はどうなるでしょうか。
読者が目に止めたということが重要なのです。
たとえば "ライフ"誌 の5万ドルもするページに読者が注目したことが重要
なのです。
読者の目に止まり、読者が注目し、信じるというクリエイティビティこそ
実用的価値があるのです。
Q:たいへん論理的ですね。でも、なぜ売り込むことがむずかしいの
しょう?
バーンバック DDBは成功してきました。
人前に出て成功したといえれば問題はないのですが、広告業界では競争が激
しくて、そうもいかないのです(笑い)。
Q:最近の数字を見ると、あなたのところは問題ないですね。
バーンバック 私も『アド・エイジ』誌でその数字を見ました。
DDBは国内扱い高で第6位ですが、国際部門では急速に伸びています。
確か国際部門は第7位まであがりました。順調といえるのでしょう。
文句はいえないですね。
■広告賞コンペの疑問点
Q:広告賞問題に戻りましょう。広告賞コンペを
あなたご自身は、現在、どう、お考えですか?
バーンバック 『アド・エイジ』誌に載った私の広告賞についての記事を読ま
れましたか?
Q:はい。しかし、まだ疑問を持っている人もいるように思いますから。
バーンバック 私はいつも考えているのですが、こんなに広告賞がふえては
広告賞の本来の意味がなくなると思います。
広告賞があまりに商業主義的になりつつあるように思います。
私のところに毎回ある大きな広告賞コンペの会長になってくれと依頼がく
るのですが、ずっと断わってきました。
理由は、この広告賞はその主催者のビジネスになっているからです。
これは好ましくありません。
アートディレクターズ・クラブが広告賞コンペをやるのは正しい方法だと思
います。
コピーライターズ・クラブがやってもよいでしょう。
AIGAも結構です。
私は、広告ビジネスの向上、広告マンの才能開発に熱意を示す人たちが広告
賞コンペを開催するのが正しいやり方だと思っています。
広告マンのはげみになるはずですから。
Q:賛成せざるを得ませんね。広告賞には膨大な額の金が動くのですね。
かなりの数の非営利団体が広告賞ショーのおかげで存続し、資金を得ているよ
うです。
大量に出品する参加社の中には、かなりの金を負担しているところもあるので
しょう?
バーンバック: DDBも相当に金がかかっています。
Q:私のところの広告ショーがどの位置にあるのか正確にわかりませんが、
私のところは民間企業ですから審査料は取りませんし、費用を切り詰める時
は思い切って切り詰めます。
しかし、広告ショーと年間広告賞は、私の雑誌の発行部数拡大に役立ってい
ることは否定できません。
その意味では、私のところも広告賞で利益を得ている立場にありますね。
バーンバック: あなたの雑誌はビジネス関連の刊行物として広告コンペを
開催する正当な理由がありますよ。
Q:ということは、DDBは今後も私のところのショーに参加してくださる
わけですね?
バーンバック: はい。
(以下、明日)
このコンテンツ構成には若手コピーライターの安田慎一さんと菊池小百合さん、
プロデューサの転法輪 篤さんのごのご助力をいただいています。
【補足】広告賞の表裏が語られたことはほとんどないのだけど、珍し
い。
DDBのコピー部の重鎮デイブ・ライダー氏を取材したとき、氏の広
告賞嫌いの理由(わけ)を聞き出したことがあった。
広告賞は信用できない
chuukyuu「あなたは各種の広告賞には興味がおありにならない…と
聞いていますが、ほんとうですか?」
ライダー氏 「ええ。1962年以後、1回もそういったコンペに参加し
たことはありません」
chuukyuu「あなたの広告賞嫌いの考え方について、バーンバックさん
が何かおっしゃったことがありましたか?」
ライダー氏「いいえ、一度もありません。バーンバックさんは、ほかの
人の権利を尊重しますからね」
この件に関して、ライダー氏は、インタヴューではもっとたくさんの
見解を、厳しい口調で話してくれました。が、書き起こし原稿を送っ
てチェックを求めた段階で、そのすべてを削除してきました。
多分、公表することでほかの人が傷つくことを懼れたのでしょう。
しかし、もうすこし紹介しないと、氏の広告賞嫌いの真意が正しく理解
されないと思うので、あえて要約してみます。
1962年のある広告賞の審査で、自信のあった氏の作品が受賞を逸した
ために、氏の心中に審査員不信任が芽生えると同時に「彼らにおれの作
品の良さがわかるか」との思いになったようです。
賞なんて、どうせ人間が決めるものですから、大なり小なり不公正と
見落としはありえます。
そう悟ってすべての広告賞への不参加を決めたライダー氏の態度は潔
いといえますが、受賞をきっかけにして世に出る人も少なくないわけ
で、一概に広告賞無視をすすめることはできません。
とくにライダー氏の場合は、コピーライターとしてすでに名をなして
いたし、DDBという恵まれた環境にいるわけでもありますから。
ライダー「もっとも、私自身は広告賞を無視していますが、いっしょに組んで
仕事をしたアートディレクターが応募するのまでは止めようとはしません」(/span)
というわけで、各種の広告賞の年鑑類でライダー氏の作品にはあまりお目にかかれません。
(このインタヴューのとき、ライダー氏51歳、ぼくは39歳)(/span)
ライダー氏のインタヴューの全文。←クリック
■信じられないものは広告しない
Q:DDBにはタバコ会社のアカウントはないですね。以前にはあっ
たのですか?
バーンバック はい。よくぞ訊いてくださった。
タバコ会社のアカウントを持ってないからといって、理想家ぶってこ
れからも扱わないというのは虫がよすぎるといわれていますから。
DDBもかつてフィリップ・モリスの広告を一部扱っていたのです。
タバコ広告をやめた時は痛かったですよ。
Q:文字どおり扱いをやめたのですか?
バーンバック ええ、そうです。
ちょうどヨーロッパで海外事業を開始したところで、向こうにもタバコ
会社のアカウントがありましたが、これも辞退しました。
アメリカ本社として、その広告をやりたくなかったのです。
時を同じくして、大手の葉巻会社のアカウントの申込みを受けました。
これは引き受けて "葉巻は紙巻タバコほど有害ではありません" といっ
てればよかったのですが、本気でやるとなれば紙巻タバコとも関連する
ので、結局、このアカウントもお断わりしました。
Q:道徳上の理由で、バーンバックさんが反対した商品とかアカウントが
ほかにもありますか?
バーンバック あります。
創立当時、大手小売店のアカウントがはいってきました。
名前はさし控えます。
創立したばかりで取引先を見つけるのが大変だったのでしたが、この広
告主のやり方が気に入らなかったのです。
この広告主はなかなかやり手なのですが、消費者に対してありのままの
姿を見せまいとするところがありました。
それで、結局このアカウントを断わりました。
その後も時々、商品が広告表現のとおりでないという理由で断わったケ
ースがあります。
これは単に理想家肌を気取ったわけではありません。
私たちは、どのキャンペーンでも、成功の要素は商品の品質にあると思っ
ているのです。私たちは、自分たちが信じないものを、それと知りながら
売り込むことはしません。
しかし、それと知らずに売り込んだケースがあったかもしれません。
■政治広告への異見
Q:政治広告と候補者の売込みに広告代理店が参画すること
についてはどうですか?
バーンバック ご存じのように、DDBはジョンソンのキャンペーン
に参画しました。
Q:じつはそのことを念頭において今の質問をしたわけです。
バーンバック この点については、ちょっと変わった見解を持ってい
ます。
まず第一に、金の力によってある候補者が有利になるというのはお
かしいです。
キャンベーンに使う金額を均一にするような措置が必要ですね。
政治の世界では、力関係が効果を生むようですが、これはなんとかし
ないといけません。
また政治に関しては、収入源としてアカウントを引き受けるべきでな
いと思います。
是非はともかくとして、私のところはジョンソン大統領のための仕事
をしました。
その理由は、彼を深く信頼していたからであり、対立候補が当選する
のに反対だったからです。
ジョンソン大統領が私のところに依頼しなかったとしても、対立候補
のところに私どもが売り込みに行くということはあり得なかったのです。
大統領が商品であるとは思いません。
大統領をパッケージして売り込むべきとも思いません。
しかし、もし候補者が十分に信頼できる人物であるならば、その信ず
る人のために自分の技術を傾注することは、自分の名誉であり、国家
の名誉であると思います。
それはちょうど私たちがガン協会、各種病院、ナショナル・ブック・コ
ミッティー、リーク・インスティテュートなどのために街頭活動をする
ように、技術のある者が信念に従って行なう義務だからです。
私は、ある政党のアカウントが取れなくて、ほかの政党のところに走
った代理店を2社知っています。
これは間違ってると思います。
これが金を儲ける方法だとは思いません。
□ちょっと、脇道へ。でも有意義な---
1966年10月1日---拙編著『繁栄を約束する広告代理店DDB』
(誠文堂新光社)と題した、A4変形版の本を[ブレーン別冊]として
上梓しました。
DDB制作の広告作品を満載したムック本でした。
38年後、電通のクリエイティブ部門から、新人教育の副読本と
したいからと、完全複製の許可をもとめられ、了解しました。
カラー・ページもカラー・コピーした忠実な復刻でした。
70部復刻したと聞きました。クリエイターの新規採用は60人前後だ
ったのでしょう。
著作権含みで3部、献本を受けました。1冊は、数年前、ロンドン大学
の経営学の準教授が、[1960年代のDDBを調べるために行ったら、その
ころのことは、東京のchuukyuuに訊け---といわれたので」という手紙の
返答として送ってしまいました。あとの2冊については記憶なし。
さて、前置きはこれで措いて。
本文の第2章「大統領選挙キャンペーンとDDB」を全文、休日の
読み物として復元しましょう。
バリー・ゴールドウオーターの、驚くべき問題解決法
問題がある? これを一発やるんだね。それで保証された。
指示どおり投下するんだ。それだけでいい。ボン!
それで問題は解決。
すべてのものを黒か白かで片づけてしまう人にとって、原爆
は魔力をもった妙案に見えるに違いありません。
ロシアとの問題もこの妙案を使えば、一夜のうちに解決でき
るでしょう。
5倍ものロシア人をみな殺しにするだけの原爆を私たちは保
有しています。
簡単で、早くて、ラクです。
たぶん、バリー・ゴールドウォーターにとって、原子爆弾の
魅力はここなのでしょう。
小ぜりあいの戦争にも投下しようという熱弁が吐けるので
しょう。ロシアを核絶滅するという脅迫的熱弁を。
しかし、これにはおとし穴があります。
しかし、ゴールドウォーター氏はこのことは全然気にかけ
ていないようです。
ロシアにも原爆はあるのです。
10億のアメリカ人が殺されてしまうほどの・・・・・・
むだな殺しあいです。ケネディ大統領とジョンソン大統領
がこれまでに、核戦争に頼らなくても、自分たちの利益を
守れることを示してきました。
11月3日には、原子爆弾はジョンソン大統領が管理していま
すから安全です。もちろんあなたも。
11月3日には、ジョンソン大統領に投票しましょう。
家にいるなんてとんでもない危険は犯さないでださい。
ジョン・F・ケネディの着眼
ソニーがDDBのつくったフォルクスワーゲンの広告キャンぺーンに魅
せられていたころ、ワシントンでもひとりの男が、矢つぎ早に掲載され、
しかもその一つ一つが読者の共感を呼ぶVWビートルの広告に注目して
いました。
この男は、大げさにいえば、世界でもっとも強力な権力と影響力とをも
ったひとりでした。
大統領ジョン・F・ケネディです。
ケネディがハイアニスポート(ニュー・イングランド地方) のアービング
通りに画した自宅の一室で、大統領に立候補することを決心した1959年の
春には、VWの広告キャンペーンはまだ始まっていませんでしたし、1960
年11月8日が投票日であった大統領戦にDDBを起用するまでには機は熟
していませんでした。
しかし、ホワイト・ハウス入りしてからの彼ジョンは、VWの広告に大衆
を説得し、納得させ、信頼させ、書かれているイデオロギーのシンパをふ
やしていくだけの魔力がひそんでいることをすばやく理解しました。
この大衆説得の職業的天才たちを、自己の陣営にひきこむことを考えたの
です。
さしあたっては、きたるべき1964年秋の共和党との対決には、このVWの
広告チーム・・・に民主党キャンペーンを担当させるべきであると決めてい
たといいます。
幸いにも、DDBは首脳陣をはじめ、多くの従業員が民主党支持者でした。
こうしてDDBは、またしても、クライアントのほうから自分のところへ
足を運ばせたわけです。
しかもそれは、自動車とかテレビとか石けんとかといった、金さえ払えば
買うことのできるものではなく、政治という、買うことのできない商品で
した。もちろん、政治キャンペーンはDDBにとっても最初の経験でした。
ジョンソン、DDBを指名
ケネディとDDBが結びついたところで、あのダラスでの暗殺事件が
起きました。
リンドン・ジョンソンが大統領になりました。
公的生活に従事している人の中でジョンソンはもっとも友人の少ない
人のひとりといわれています。
この点でもジョンソンはケネディと対照的でした。
しかし、ジョンソンの数少ない友人の中のひとり、ビル・モイヤーズは
ケネディの遺志にしたがい、DDBに民主党キャンペーンをまかすよう
にすすめ、1964年3月19日に正式にしかも秘密裡にジョンソンはDDB
を指名したのです。
モイヤーズを、キャンペーン推進の最高責任者にすえて・・・。
彼自身が放送局の所有者でもあるジョンソンは、ホワイト・ハウスの寝室
に3台のテレビ受像機を置いており、同時に3大ネットワーク・・・・・・
CBS、NBC、ABC・・・・・・を視ることができ、手もとスイッチで音量
が自由に調節できるようにしてあるといわれるほど、テレビの効果を重
視している人です。
彼がモイヤーズをとおしてDDBに対し、300万ドル(非公式には500万ド
ルともいわれている)のキャンべーン予算の大部分をテレビにつぎこむよ
う指示しただろうと想像するのは、ぼくだけではないでしょう。
この民主党キャンペーンで、DDB側のアート・スーパパイザーとして活
躍した1932年生まれのマイヤーズ(Sid Myers)氏に会ったとき、彼は、人
なつこい口調で「自分にとっては大きな経験であった。なんせワシントン
とニューヨークの間を数えきれないほど往復し、ホワイト・ハウスに入り
びたったり大統領に会ったり、最後の2週間はホワイト・ハウスに泊まり
こんだんですからね。おかげで休暇をフイにして女房にうらまれちゃっ
た」と笑ったあと、 「民主党側の広告代理店選択が共和党側よりも2ヶ月
も早かったことが、その後の私たちを有利にした」と話してくれたことか
ら判断しても、ケネディが広告代理店選定などという、時間と労力をむだ
にしがちであるばかりか、かえって無益な結果を生むことにもなる大げさ
なビジネス習慣を無視して、自分の目で選んだ一つの代理店---それも、
それ以外ではいけなかった一つ---を早くから内定していたことは賢明だ
ったといえましょう。
これに反してゴールドウォーターのテレビ放送が始まったのは9月でした。
「大統領への道・1964年」 のT・H・ホワイトによると、
「理論上は、民主党のそれよりもはるかにすぐれているように思われた」
キャンペーンであったそうです。
共和党側が起用したのは、世界最大の広告代理店グループであるインター
パブリックでした。
インターパブリックの媒体専門家たちは、17億もの情報を電子計算機にか
け、全米を200のテレビ・マーケットとし、最小の費用で最大の視聴者にメ
ッセージを伝達する方法を、1964年8月20日以降から計算したといわれて
います。
「しかし」とホワイトはつづけます。
「媒体専門家たちは、言うべきことは何であるか、メッセージはどうある
べきかを知らなかった。というのは、彼らはゴールドウォーターにじかに
会うことも、その親友に近づくこともできなかったからである」
この記述を読みながら、ぼくは失笑せざるを得ませんでした。
現在日本の広告界をのし歩いているエセ科学主義の正体をそこにみたよう
な気がするからです。
意味ありげな穴があけられた数万のカード、気が遠くなるような数のトラ
ンジスタ、1秒間に幾十万のデータ処理うんぬん・・・といった自慢ばなしめ
いたものの陰にあるものが、乾ききったもの、人の心をうたないもの、空
虚なメッセージであることが、広告の世界では多いのです。
いや、けっして電子計算機の無用を唱えているのではありません。
巨大なマーケットの真の姿を分析するためには、電子計算機の助けは必要
です。
しかし、バーンバック社長がいつも言っているように「よい広告とは、すぐ
れた芸術的手腕を示したものです。科学と違って芸術は、読者を動かすカ
をもった言葉や絵をみつけることができる」ものだし、単なる調査は「全世
界にわたって行なうこともできます。それでもひどい広告をつくることか
ら解放されることはできません。事実はよい広告の始まりでもなければ、
目的でもありません」(CA誌 1966年2月号).
そうです、広告に必要なのは、人びとの目をとめ、心を動かすことのでき
る、みずみずしいフィーリングのはずです。
ホワイトは、 「DDBグルーブの楽天的な態度は、土くさいと言ってもよ
かった。このことは、人びとの心をとらえようと努力することを意味し、
伝達すべきメッセージを知っていたということである」と書いています。
すなわち、 「ゴールドウォーターを攻撃せよ、そして彼をガタガタさせよ、
最初から彼を守勢に回らせるようにしむけよ」ということでした。
1回こっきりのTVコマーシャルの波紋
DDBのクリエイティビティが、具体的にはどのように発揮されたかをご
紹介しましょう。
[少女とデイジー(ひな菊)]と名づけられたテレビ・コマーシャルに集約でき
ます。
コマーシャルは、民主党キャンペーンの第1番めのもので、ただ1回だけ流
された1分間フィルムです。
野原でヒナ菊の花びらを、ひとつ、ふたつ、みっつ・・・とむしっている亜麻
色の髪の少女がだんだんクローズ・アップされていきます。
「いつつ、ななつ・・・むっつ、やっつ・・・」
カメラは彼女の瞳孔まで近より、それにかぶせて「10.9.8.・・・」と秒読みが始
まり 「ゼロ!」と同時に画面いっぱいに・・・・・
そして、ジョンソン大統領の声で・・・・・
「原爆の世にあっては、お互いに愛しあうか、死ぬかの方法しかありません」
アナウンサーがつづいて「11月3日にはジョンソン大統領に投票しましょう、
家にいるなんてとんでもない危険を犯さないでください」
TV−CM
1964年9月7日夜、このフィルムがNBC系の電波に乗るやゴールドウォーター
側から、「自分たちが小さな子どもを殺そうとしているようにとられる」と放送
中止の申し入れが行なわれました。
フィルムはとくにゴールドウォーターとも共和党とも言っていませんが、共和
党側を刺激したことははっきりしています。
このフィルムは、たった1回の放送だけで2度と放送されませんでした。
けれども、それだけによけいに人びとの目にふれ、記憶に残る結果になってしま
ったのは皮肉です。
放送中止がニュース映画で報じられたり、テレビのニュースになったり、発行部
数の大きな週刊誌の表紙になったりしたからです。
国会図書館にも納められましたし、イギリスからも希望してきました。
エンサイクロピーディア・ブリタニカの「1965年版」の「1964年の事件」の項にも、
このフィルムの中から3カットが抜きとられて収録されました。
つまり、たった1回きりの放送を見そびれた人たちが、見ようと思えばいつでも見
られるような結果になったのです。
このコマーシャルをホワイトは、「政治的テレビ・キャンペーンの傑作として歴史に
記される価値がある」と特記しています。
ジョンソン側の第2弾は、10日後に現われました。
無邪気にアイスクリーム・コーンをなめているかわいい少女の画面に、おだやかな
声が、ストロンチウム90を説明し、ゴールドウォーターは原水爆実験禁止協定に反対
していると指摘したものでした。
おもしろいことに、これも一度だけ放送されると中止されました。
つぎのフィルムは社会保障に関するもので、両手が社会保障のカードを引き裂くもの
でした。
DDBのクリエイティブ・チームは、徹底してゴールドウォーターのパーソナリティ
をやっつけたのです。効果は急速に地方にまで浸透していきました。
ゴールドウォータ一側は、遊説の先々で原爆問題と社会保障について説明しなければ
ならなかったといいます。
地方の共和党のボスたちがそれを要求したからです。
つまりゴールドウォーター側は、つねに守勢に立たされたわけです。
相手の攻撃に応えるだけがせいいっぱいで、相手を攻撃する時間がなくなってしまった
のです。
DDBによって植えつけられた自分のイメージをぶちこわそうとしてもがくのみであっ
たのです。
その結果は、
ジョンソン・・・・・・・・・・・・・・・・43,126,218票(61.0%)
ゴールドウォーター・・・・・・・・27,174,898票(38.5%)
電子計算機は、創造的な人間の頭脳に破れ去ったのです。
ホワイトは言います. 「ニューヨークの広告人(DDB)たちは、ゴールドウォーターのみ
ならず、古き民主党政治家たちさえ転倒させるような、生き生きした想像力の創造物を生
ぜしめた」と。
そうはいっても、DDBが電子計算機を使わなかったという証拠はどこにもありません。
ブリタニカの1965年版には、あることを暗示した文章が載っています。
「DDBの第2の戦略は、キャンペーンの始めから共和党を守勢に回らせることであった。
主要な争点に関してゴールドウォーターがなした議論の的になるような公式発言をあばく
ことによって、ゴールドウォーター側のバランスをくずすことであった。DDBはキャン
ペーンの争点に関して、まるで彼らがある商業製品を売ろうと企てたかのように、大衆に
向かって調査を行なった」
それは、投票者にもっとも強い影響を与えると思われる争点に関しての政治上の暴露がど
こにあるかを知るためのマーケティング分析でした。
そして選び出したものが、「核兵器の責任問題、好景気の経済の持続、十分な社会保障計画
を保持すること、そして賢明で経験豊かな人物と、無謀で矛盾した言辞を吐く男との比較」
であったと解説しています。
とにかく、この政治キャンペーンに関する戦いは終わってしまっています。
政治キャンペーンが、石けんや自動車を売るのと同じ精神で操作されていいか、問題のあ
るところです。
一部の広告人の中には、 「政治家を売り込むために広告を使うことは俗悪の極み」 と断言
している人もいます。この人は、政党や候補者が専門的広告業務の知識と手続きを必要と
しているのなら「専門家の自発的な志願者たちをつのって代理店の垣根をこえた特別のチ
ームを組ませ」てはどうかと提案しています。ぼくはそれこそ知識の切り売りだと思いま
す。それぞれの広告代理店は、固有の個性をもつべきだし、ものの見方、説得の仕方も、
それに従った個性的なものになるべきなのです。
この人のいうような連合混成軍でうまくいくハズはないと思います。
しかし、政党キャンべーンに広告代理店が参加していいか・・・ときかれると、簡単に「しか
り」と答えるわけにはいきません。
要するに、その広告代理店のものの見方、態度が問題だと思います。
DDBの文化的意義
DDBについてはどうでしょう?
1965年11月1日号のアド・エイジ誌にスティーブ・ベイカー氏が 「DDBの文化的意義」と題
するエッセイを発表しているのでご紹介して答えに代えます。
このエッセイは、2009年5月9日に引用した同氏の「DDB」の後をうけたもので、ほとんどの人が「DDB的タッチ」の存在を認めたが、筆者あての手紙の中の1通だけが、
「DDBがクリエイティブのリーダーであるという前提には異論はないが、その意義を特定
の広告代理店に置いたのは不合理だ」といってきたというのです。
中西部の某大学教授からのものらしく、教授は 「こういった性質の議論をするなら、もっと
重要な演劇、美術、音楽といったものの文化する影響に限定するのが妥当で、広告代理店に
結びつけてうんぬんするなど、もってのほか」と主張していたそうです。
ベイカー氏は答えます。
「この手紙を読んで、いったい、アメリカの学者連中は、この国で広告がつくり出している
諸影響というものがよく分かっているのかどうか、考えさせられてしまう」「DDBの影響は
そのモチーフがたとえ営利的商業的なものであっても、作家や芸術家たちの影響ぐらい文化
的意義があるともいえる」として、 ミッキ一・スピレーンやヘミングウェイの名やポール・ク
レー、アンディ・ウォホールやジョージ・ベロウの名をあげています。
そして、フォルクスワーゲンのキャンペーンを、芸術的新工夫という点からのみみても、ポ
ップ・アートと同じぐらい価値があり、ラインゴールドのコマーシャルはオフ・ブロードウェー
の劇と同等の、そして、 さりげなく控えめに言いながら説得力の強いエイビスのコピーは、
オグデン・ナッシュの詩と同じ価値があるといえるかもしれない・・・といっています。
「マス・メディアのおかげで、こういったキャンペーンは、少数の読者層を相手にした単行本
や絵画よりもはるかに多くの(ときにはずっと関心をもつ)オーディエンスに達することがで
きる」
ということは、アレギザンダー・カルダーのような有名な芸術家たちの作品よりも、VWのキ
ャンペーンのほうがずっとたくさんの人びとの注目を集めているという言い方にもなるので
す。
「実際、DDBが、今日、社会的な一つの大きな力になっていることは事実であるといえる、
それは何百万という人びとを説得し、行動させてきた。
しかも、アメリカの経済に与えた影響も数兆ドルといった単位では測り得ないぐらいのもの
だ」「アメリカの歴史に、これほどの『好みをつくる人(tast maker)』は出現したことはなか
った」
といった要旨のものです。
DDBは石けんや自動車や政党を広告しながら、単に広告するというだけではなく、そこに、
新しい見方、新しい好みを広告を通じてつくり上げていく広告代理店なのです。
民主党のキャンペーンに即していえば、原爆反対のアピールを、民主党の金を使ってアメリカ
大衆に訴えているといえましょう。
しかし、民主党やジョンソンが今後とも本気で原爆反対を考えているか・・・というと、これは
歴史の証明を待つよりほかないでしょう。
(このテキストは、1966年に書いたもので、ほとんど手を加えていません)
担当アートディレクター シド・マイヤーズ氏の創造哲学
"偽り"があったジョンソンの広告
chuukyuu「5年前に、1964年の大統領選の民主党のキャンペーンを
担当なさいました。バーンバックさんから担当するように指名された時
の気分は?」
リー「とてもうれしかった。コピーライティングという仕事が持ってい
るただひとつの弱点は、ぼくの考えでは、書いたものの内容について、
自分がなんらのコントロールもできないということでしょうね。
どういうことかと言いますと、1964年のあのキャンペーンを担当する
前には、ドッグ・フーズの広告を書いていました。
ぼくの実感を言いますと、ドッグ・フーズの広告なんてものは、書いて
いても、すこしもエキサイトしないものです。
けれども、ゴールドウォーター氏を叩くという仕事では、アンチ・ゴ
ールドウォーターのぼくとしては、しごく簡単にエキサイトしてしま
いました。
で、一時、商業目的のための広告の仕事を離れて、ほんとうにエキサ
イティングな仕事をワシントンに行ってやることができました。
chuukyuu「選挙広告と、一般商品の広告をつくるのでは、何か違いが
ありますか?
エキサイトのことは別にして、アイデアを得るまでの手順に関して---
という意味での質問ですが」
リー「初め、アートディレクターのシド・マイヤーズとぼくは、大統領
選のための広告をつくるという仕事の大きさに圧倒されてしまいまし
た。
ぼくたちは、しばらく、何もできませんでした。
何をしたらいいのか、わからなかったのです。
その時、バーンバックさんが、その当惑をすてきなアドバイスで解消
してくれました。
『間違ってみたまえ』と言ってくれたのです。
この言葉でぼくたちは気楽な気分になることができました。
その後のクリエイティブのプロセスは、根本的に、商業広告の場合と
違いありません。
(しかし、普通の広告と政治広告との間には、大きな違いが幾つかあ
ります。
第一に、政治家たちは、一般大衆はマジソン街の広告代理店なんても
のは信用していない---と考えていること。ですから、ぼくたちが立
候補者の広告をやる場合では、マジソン街の広告代理店の手になるも
のだということを、できるだけ隠す必要があります。
たまたま、あるコマーシャルがうまくいって成功したというようなこ
とがありますと、必ず、対立候補者から非難が出るわけです。
『あれは、マジソン街の広告代理店を使ってやったもので、必ずしも、
米国全体を代表しているものではない』と攻撃してくるわけです。)
第二に、ゲームのルールが政治家たちによって決められているという
こと。彼ら立候補者たちは、すでに幾つかの公約を発表してしまって
います。ですから、広告を担当する立場からすると、好ききらいを言
うことができず、否応なしに、その政治家が出した公約---ルールとい
うのかな、それに従って仕事をしていかなければなりません。
そう言ってしまえば、これは、ふつうの商品の場合と似たり寄ったり
で、あるメーカーの広告部長が、それをいかにして売りだすかという
ようなことを決め、そしていかにして競争商品に対抗していくかとい
うことの基本的方針を打ちだしてくるということと、変わりないかも
しれませんね。
(ドック・フーズと大統領は、そんなに違いがないというような皮肉
も言えるかも知れませんね。
しかし、なんといっても、政治キャンペーンのほうがエキサイティン
グであることは、まぎれもない事実です。内容がはるかに大きいです
からね。で、ぼくは8ヶ月ほど、非常にエキサイティングな状態の中
で過ごしました)。
しかしながら、これだけは言えますよ。つまり、1964年に民主党のた
めに行ったこの広告の中のあるものは偽りの広告であったということ
です。あの時には気づきませんでした。ぼくたちの中の誰ひとりとし
て気づいた者はいませんでした。しかし、あれは、疑問の余地のない
間違いでした。それは、1964年に続いて起こった、もろもろの事件が
証明しています。こんなことは、これまでにぼくがつくってきた広告
では、絶対にないことです。
(つまり、商品が持っていないものを広告するというようなことは、
ほかの商品の広告に関してはなかったことですが、いま振りかえって
みると、あのジョンソン・キャンペーンに関しては---)
chuukyuu「大統領選キャンペーンの最初のテレビ・コマーシャルの
『デイジーの花と少女』のフィルムが、共和党側の抗議によって、たっ
た1回、1964年9月7日の夜放送されただけで中止になりましたね。この
時のご自身の感想は? あなたが、あんな経験ができた唯一人のコピー
ライターだと思いますので---」
リー「これは、なかなか面白いご質問です。
なにが起きたかといいますと、あの『デイジーの花』のコマーシャル
が放送された翌日、共和党の全国委員会委員長が、あのコマーシャル
に対しての抗議文を、民主党全国委員会の委員長へ送ってきたのです。
新聞記者がたくさんいる前で、その抗議文を手渡したものです
から、即座に全国的に報道されてしまったのです。
コマーシャルそのものは、長い退屈な映画のあとに放送されたので、
見た人はそんなにはいなかったはずです。ところが、共和党が抗議し
たので、より多くの人に知られてしまう結果になりました。
たとえば、独自のニュースとして採り上げられ、再放送されたりしま
した。そういったことで、このコマーシャルが全国の人に見られる結
果になり、われわれは大いに喜んだものです。民主党が時間を買って
放送する何倍もの効果をあげたんですからね。
(コマーシャルがニュースの1項目として放送されるなんて、前例のな
いことです。さらに、この事件が『タイム』誌に取り上げられ、
ますます一般が注目するところとなりました)。
1964年の大統領選でたった1回だけ放送されたにもかかわらず、あとは」
ニュースの1項目として局側の判断で全国的に再放送された民主党の
コマーシャル「デイジーの花と少女」
花びらをむしりながら「一つ、二つ、三つ---七つ、八つ、九つ」と数え
ている少女の瞳へカメラがズームインしていく。
それにかぶせて、男声「10、9、8---」とカウント・ダウン。
映像が少女の瞳に接近したとき「2,1,ゼロ」で、原子爆弾が爆発、
立ちあがるきのこ雲。
ジョンソン大統領の声「これはたいへんなことです。すべての神の
子が生き続けられるか、暗闇に葬られるかというとても重要な問題
です。われわれはお互いを愛し合わねばなりません。さもなくば、
死です」
アナ「11月3日には、ジョンソン大統領に投票しましょう。家にいる
なんてとんでもない危険を冒さないでください」TV−CM
Interview with Mr.Stanley Lee (2)←click
38年ほど前だったようにおもいます。
大阪読広にいたI君から、DDB見学ゼミナールを企画したのだが、
コーディネイターをやってくれないかと打診されました。
I君とは、谷沢永一先生や開高健くん、向井敏くんなんかと同人誌
の仲間だったので、DDBを打診したところ、歓迎するとの返事。
ゼミは、民主党ジョンソン大統領候補キャンペーンを中心にということで、
コピーを担当したスタンレイ・リー氏(右)とアートディレクターのシド・マイヤー氏(左)によるTV−CMの映写と解説。
帰国後、大阪読広がつくった記録が出てきたのです。
フィルムを想像しながら、お目とおしを。
なにごとも記録ですから。
TV−CF(その1) 60秒
貧民街が次々にうつされる。その画面にあわせて金持ちの子供の声が
『あれも買ってもらった』『今度はあすこに遊びに行く約束をしてい
る』等のセリフとかさなる。
【解説】
アメリカの貧困問題に対してジョンソンが大々的な宣戦を布告したこと
を示しています。
彼の公約の一つに・・・・・・"偉大な社会" というのがありました。
貧乏を追放し、職業と教育の機会を与えるというものです。
質問『あれだけの長い場面の中にジョンソンの顔を出さなかったのは何故
ですか?』
ジョンソンはゆっくり喋ります。だからジョンソンの顔をいれて喋らせると
あまり実質的ではありません。
それに、このフイルムを撮った時には、彼は非常に忙しかったし、時間の余裕
もなかったのです。
また、貧困問題に子供を出したのは、アメリカの社会には貧困というと、「あい
つはナマケ者だからだ」 という考え方があります。
ですから、ただ大人の貧困という事実を出すとそのように考えられてしまう恐
れがあるので子供を出したのです。
しかし、子供と大統領選挙とはあまり関連がないでしょう。そういう意味からも
あえて顔を出さなかったのです。
質問『先程、ジョンソンの喋るのがのろいから顔を出さなかった、と
いう理由を一つあげられていたのですが、ジョンソンの
顔を出さない方が他の面で効果的であったということは
ありますか。例えば、ケネディだったら出ているでしょう
ね。
それが一つと、もう一つはジョンソンはケネディの副大
統領だったし、過去に政権を担当してきているわけです。
そうするとあれほど貧困を強調すると、みずからの施政と
いいますか、政治の貧困を裏付ける材料にはなりませんか。
むしろ相手側から、これこそケネディ政権の実体だという
ふうに攻撃されませんか?』
そういう風には考えなかったけれども、そうかもしれませんね。
勿論、ジョンソンの顔の入った演説もののコマーシャルもあるんです
よ。
それはとくに彼の要請にもとづいて作られたものですけれど(笑い)。
これも、これから紹介するものも、いままでの選挙キャンベーンCM
という概念からいうと非常に違っています。
だいたい、アメリカの政治家というのは、キレイ事で一般的なこと
をさっと見せるだけだったんです。
1964年のジョンソンの選挙に使われたこれらCFが、クリエイティビ
ティにもとづいて作られた初めてのものではないでしょうか。
ですから、このフイルムを見て非常にナマナマしいので、共和党だけ
じゃなく、民主党の中のある一部の人もちょっとドギツすぎるって
文句をいった人もあります。
そういうこともあったけれど、このフィルムの影響も相当あってゴー
ルドウォーターを負かしたんだと思います。
TV−CF (その2) 20秒
着信を知らせるランプが点滅しつづけているだけ。
できたてのモスクワ=ワシントンのホット・ライン(直通電話)をとりあげ、
これに応えうる人は誰れであるか。ゴールドウォーターよりもジョンソン
の方が信頼できる人間であるから、その人に電話の前に座ってもらおうと
いうもので、画面には白い電話器がうつし出されている。
最後に、この緊急時にこそもっとも信頼できる人間に応えさせよう、と呼び
かけている。
TV−CF(その3)
なにも映らない白い画面が始めから終りまで続き、コメントだけの
CF。
これは非常に時間がなくて、そんな中でつくられたものです。
何も見せず、テレビを見ないで、あなたの家庭を見、家族の、子供の顔
を見ましょう。
この選挙によってあなたの家庭も影響される。
ジョンソン、ケネディの政権が過去4年間これだけ偉大なことをし
た。
それが今後4年間でさらによくなる、部分核停条約はつくったし、
いろんな政策も実施された。
アメリカは今後もっと繁栄するだろう。
皆さんはもっとゆっくり眠れ、ポケットにも金が増える、税金も安
くなる。
選挙民の皆さん、どうぞ大統領にジョンソンを、とこんなふうな語り
です。
質問『このCFは何時ごろ放映されたのですか?』
だいたい夜の7時から11時ぐらいまでの間に放映されています。
質問『選挙のCFはだいたい夜しか放送しないのですか?』
これからお見せするものは、どちらかというと昼間放送されました。
家庭の主婦は昼間家にいますから。
けれども、だいたい選挙キャンペーンは夜の時間が多いんです。
質問『オン・エアされたのは8月の民主党大会が行なわれた直後なのか、
それとも投票日の3週間前から始まったのですか?』
ジョンソンが党大会で選ばれるのは必至でしたから、これをつくったの
は彼が大統領候補に指名される前夜です。
でも実際に放送を開始したのは九月からです。
質問『それではオン・エアされる前に例えばギャラップ調査などでジ
ョンソン優勢ということを知ってつくったのですか?』
ストーリ一・ボードとしてはもっと強烈なのもありました。
例えばゴールドウォーターを支持しているのはこういう人だという
ことでKKKのボスの名前やジョン・バーチ協会(アメリカの極右団
体) を出すとか。
また、実際にはフイルムを作らなかったけれど、もし態勢がジョンソ
ンによくないようになったらというストックもあったが、そうにはな
らなかったので強烈をものをさけました。
質問『これらのCFを作る前に、アメリカの国民が大統領に対してど
んなことを望んでいるかという基礎的調査があったと思うんですが。
それにもとづいて貧困問題をもち出したのか、それともジョンソンが
このあたりに非常に弱いということでつくったのですか?』
こういう貧困問題というのはアメリカ国民の間で非常に大きな問題で
あったので取りあつかいました。
それはジョンソンも知っているし、制作陣も知っています。
それからゴールドウォーターがこういう問題からさけたがっている、
つまり、彼の弱点であり、ジョンソンは強い。そしてアメリカ大衆は
そういうものを望んでいたんです。
TV−CF(その4)
ゴールドウォーターが何月何日、議会でどんな法案に反対したかとい
うデータを見せたもの。
コメントとしてゴールドウォーターは、あなたの社会保障制度を破棄
もしくは変更するとまでいっている。 ジョンソンは社会保障制度を
さらに充実する。
TV−CF(その5)
アメリカ国民が大勢でガヤガヤさわいでいる風景。いろんな不平不満は
あるかもしれないが過去20年間、民主党の政権のもとでいい生活がお
くれたではないか。だから支持をしよう。
TV−CF(その6)
ゴールドウォーターが医療保障制度に反対するためわざわざワシントン
に来て、そして帰る風景を見せる。
これを作るのには数時間しかかかっていません。
実際何も撮影していないわけで、前にあったスチール写真を使い2〜3時
間で出来上りました。
まあ、非常にスマートをCFだと思います。
これから2つ一緒に映写します。 これはゴールドウォーターが核禁止協
定に反対している。
この協定を破棄して核実験を続けたらどのような影響があるか、核の恐ろ
しさを、空気の汚れ、食品がダメになるということで見せたフイルムです。
TV−CF(その7,8)
TV−CF(その9,10)
ゴールドウォーターが、これまでにいったことを面白、おかしくヤジ
ったフイルム。
一つはまTVAを私企業にしたらよいといったこと。
もうーつはアメリカ人の中には大西洋沿岸の政治家、人々を、特に田
舎の人は反感をもっていることから、その地域をアメリカから切り離
せば、アメリカはもっとよくなるといったことを茶化したもの。
後者のCFはアメリカ合衆国の地図の大西洋沿岸地帯がのこぎりで
切って海に流れていくさまをみせている。
( アナ)土曜日のイブニング・ポスト紙で、ゴールドウォーターは
次のように述べた。「時々、東部を切り離してしまったら、この国はもっとよい国になるにちがいないと思うことがある」ゴールドウォーターのこの答えは、問題解決になりません。11月3日は、ジョンソン大統領に投票しましょう。家にいるなんて、とんでもない危険を犯さないでください。
TV−CF(その11)
11月3日はジョンソンに投票を。あをたが家にいて選挙に参加しない
ことは選挙に重大な意味をもちます、と呼びかけたもの。
TV−CF(その12)
女の子が花片をかぞえる。
1. 2 . 3. 4〜 9 までかぞえたところで別の声で数の逆よみが始まる。
3. 2. 1. 0、そして原爆が爆発する。
TV−CM
これは最後のフイルムなんですが、非常に問題になって、共和党側は汚ない、
悪らつだといいました。
非常に効果的をフイルムだと思います。
ジョンソンだったら平和が保てる、つまり花がかぞえることができる。
ゴールドウォーターは原子爆弾を落すかもしれない。 花をかぞえるのが
、原爆投下のカウントになるかもしれないというものです。
質問『選挙費用全体の中で、このTVキャンベーン にはどのくらい
使われていますか?』
全体で1,500万〜2,000万ドル、、TVに4E5 0万ドルです。
質問『ケネディの時からくらべてTVに使用した金額、比率はあがっ
ていますか?』
だんだんあがってきている。
例えば今回の大統領選挙なんかTVに600万ドルぐらいかかっている。
だいたいTVの使用分があがってきているわけですね。
質問『お2人がみずからジョンソンの選挙キャンペーンを担
当することを名乗りでたのか、それとも会社からの命令ですか?』バーンバック会長の直接の命令で2人が選ばれましたが、勿論、支持
者の中から。
かつては民主党支持者でしたが、今回やれといわれれば多分断わるで
しょう(笑) 。
質問『どうして?』
フリー・ランサーでマッカーシーのキャンペーンをやっていたからです。
(アメリカの代理店では自分の支持する政党、人のために会社を離れて
選挙キャンペーンにたずさわるケースが多い)
質問『今回どうしてDDBはハンフリーの選挙キャンベーンをやらな
かったのですか?』
これについては、バーンバック会長ならやったかもしれないというこ
とであったが、その事由について、L .パーカー夫人が資料を提供して
くれた。
それによると、
●民主党内の金銭問題
●ハンフリー派とマッカーシー派の長い間の気まずさが扱い広告代
理店内にも満ちていること。
●民主党委員会の上層部交代で新しい代理店を使おうという意向が
生まれていること。
特にDDBとL&N両社が分担して当初ハンフリーの選挙キャンペ
ーンを担当していたのが気まずさを生み、しかもDDB側にしてみれ
ばマッカーシーが大統領候補になると思っていたものが、そうでなか
ったのでやる気をなくしたというのが実情のようである。
■大切なのは、金じゃなく信念
Q:4A(全米広告業協会)は政治的アカウントは非営利主義あるいは
それに準じた基準で引き受けるぺきだとの態度を表明すべきなので
しょうか?
バーンバック たぶん、そうすべきでしょうね。
私がいえることは、DDBは金儲けはしなかったということです。
時間、神経、その他いろいろ消耗しました。
私があのキャンべーンに参画することに決めたのは、あのいまわしい
ヒトラーでさえも、ゲッぺルスの見事なコミュニケーション技術にた
よらざるを得なかったと悟ったからです。
そして私は、このように意見を表明しました---
"相手方がその手でくるなら、われわれも信念に従って動こう。
政治の領域にはいる場合は、信念に基づかねばならない。
そうでないのはまやかしだ。
社会に対する挑戦である。
間違った信念もあるかもしれない。
しかし、信念は率直に示そう。
不健全なことではない"
(以下、明日)
このコンテンツ構成には若手コピーライターの安田慎一さんと菊池小百合さん、
プロデューサーの転法輪 篤さんのご助力をいただいています。
【補足】DDBのクリエイティブ・ピーブルは、政治広告はともかく、issue ad(意見広告)には積極的に参加している。
引例はデビッド・ライダー(C/W)とスポック博士自身による文章、レン・シローイッツ(A/D)によるSANE---核使用規制全国委員会の広告
スポック博士は憂慮しています
もし、あなたがスポック博士の本で子どもを育てたことがおありなら、博士があまり小さなことにはこだわらない方だということをご存じと思います。
博士は、勤め先のオハイオ大学から、大気圏内核実験の再開について、つぎのようなメッセージを送ってきました。
「私は憂慮しています。
過去の実験の影響だけでなく、果てしない将来の実験の見込みについてもです。
実験が重なるにつれて、子どもにたいする悪影響もふえます…米国でも、世界の国々でも。
こんなことをする権利がいったい誰にあるというのでしょう。
そんなことは政府に考えさせろ、という人もいるでしょう。その人たちは政府がこれまでの歴史の中で犯した悲劇的な大間違いのことを忘れているのです。
また、よりすぐれた軍備が問題を解決してくれるという人もいます。その人たちは正義の強さを信じている人びとを軽蔑します。
その人たちは、あのかよわい理想主義たちが鉄の布となってインドからイギリス人を追い出したことを忘れているのです。
どの道をとっても、危険はあります。もし、将来に横たわる大きな危険をすこしでも少なくする希望があるならば、私はあえて今日の危険をとります。
もし、私が将来、何かの誤算で滅ぼされることがあるなら、私は、幻の要塞に座ってなすすべもなくただ敵を非難している時よりも、世界の協力を求めるリーダーシップをとっている時に殺されたいとおもいます。
モラルの問題としても、私はすべての国民が自分自身の考えを持つ権利だけでなく責任も持っていると信じます。医学博士 ベンジャミン・スポック」
スポック博士は、核使用規制全国委員会のスポンサーになりました。
以下、SANE(核使用規制全国委員会)が何を表すかという簡単な説明とほかのスポンサーを列記。
【参照】]デビッド・ライダー氏とのインタビュー
(1・2)
■適切なコミッション・システム
Q:もう一つの問題、コミッション・システムについて、いい仕事を
した代理店は間接的に利益を受けるが、直接的な報酬についていえば、
月並みな仕事をしている代理店と同じであるのは不公平だといわれて
いますが。バーンバッグ これについては、きわめて不謹慎な発言をしましょう。
DDBは、広告主にとって大変なお買得品だと思っています。
広告主のDDBに対する支払いは、ほかの代理店に対するのと同様
15%でよいのですから。
これがコミッション・システムのやり方ですが、私はそれでよいと思
います。
DDBの歴史を見れば、DDBが成長できたのは、現在のクライアン
トの扱い高の増加によることがわかりますから、これでよいと思うわ
けです。
クライアントの売上増に比例して、クライアントの広告予算もふえて
きました。Q:間接的に利益があったわけですね。
バーンバッグ 間接的に、そうです。
しかし、このためにこそ15%のコミッションは適切だと思うのです。
広告予算がふえれば、それに比例して広告代理店の利益もふえます。
大型化した広告予算のコミッションは、広告主の企業成長に貢献した
代理店が当然受け取るべきものだと思います。
(以下、明日)
このコンテンツ構成には若手コピーライターの安田慎一さんと菊池小百合さん、
プロデューサーの転法輪 篤さんのご助力をいただいています。
【以下、明日)
このコンテンツ構成には若手コピーライターの安田慎一さんと菊池小百合さん、
プロデューサーの転法輪 篤さんのごのご助力をいただいています。
nt-weight:bold;">補足】DDBのクリエイティブ・ピープルは、ノー・コミッションの公共広告にも積極的に志願している。ぼくの親しくしていたパーカー夫人は、自分もガンから生還しているので、アメリカ対ガン協会のPRプロジェクトを志願していた。乳がんの早期発見につながる自己検診のすすめ。
アナウンスは、女性がシャワーのついでに乳房にさわり、異常を発見することは、みだらな行為でもなんでもない---と、自己簡易検診をすすめる。
ジョン・ウェインの独白「自分は数年前に体調がおかしかったが、チェック(検査結果)を知るのが怖くて病院へ行かなかった。妻があまりにもすすめるので、チェックを受けたら肺ガンだった。いまは、こうして元気に撮影している。おかしいと感じたら、あなたも早期にチェックをうけなさい。さらにお願いする。対ガン協会へチェック(寄付金の小切手)を送ってください」
挿入されている映画の画面は『大いなる追跡』。映画会社、出演者、スタッフの合意の上でのもの。
A/D Bill Taubin
C/W Lore Parker
P/D Justine Crasto2本のフィルムは、パーカー夫人からの贈り物。
このコンテンツ構成には若手コピーライターの安田慎一さんと菊池小百合さん、
プロデューサーの転法輪 篤さんのご助力をいただきました。
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