創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(669)バーンバックさんとDDB(20)

ひょっこり、出てくるときは、つづくものですねえ。


38年ほど前だったようにおもいます。
大阪読広にいたI君から、DDB見学ゼミナールを企画したのだが、
コーディネイターをやってくれないかと打診されました。
I君とは、谷沢永一先生や開高健くん、向井敏くんなんかと同人誌
の仲間だったので、DDBを打診したところ、歓迎するとの返事。
ゼミは、民主党ジョンソン大統領候補キャンペーンを中心にということで、
コピーを担当したスタンレイ・リー氏(右)とアートディレクターのシド・マイヤー氏(左)によるTV−CMの映写と解説。
帰国後、大阪読広がつくった記録が出てきたのです。
フィルムを想像しながら、お目とおしを。
なにごとも記録ですから。


TV−CF(その1) 60秒


貧民街が次々にうつされる。その画面にあわせて金持ちの子供の声が
『あれも買ってもらった』『今度はあすこに遊びに行く約束をしてい
る』等のセリフとかさなる。


解説
アメリカの貧困問題に対してジョンソンが大々的な宣戦を布告したこと
を示しています。
彼の公約の一つに・・・・・・"偉大な社会" というのがありました。
貧乏を追放し、職業と教育の機会を与えるというものです。


質問『あれだけの長い場面の中にジョンソンの顔を出さなかったのは何故
ですか?』


ジョンソンはゆっくり喋ります。だからジョンソンの顔をいれて喋らせると
あまり実質的ではありません。
それに、このフイルムを撮った時には、彼は非常に忙しかったし、時間の余裕
もなかったのです。
また、貧困問題に子供を出したのは、アメリカの社会には貧困というと、「あい
つはナマケ者だからだ」 という考え方があります。
ですから、ただ大人の貧困という事実を出すとそのように考えられてしまう恐
れがあるので子供を出したのです。
しかし、子供と大統領選挙とはあまり関連がないでしょう。そういう意味からも
あえて顔を出さなかったのです。


質問『先程、ジョンソンの喋るのがのろいから顔を出さなかった、と
いう理由を一つあげられていたのですが、ジョンソンの
顔を出さない方が他の面で効果的であったということは
ありますか。例えば、ケネディだったら出ているでしょう
ね。
それが一つと、もう一つはジョンソンはケネディの副大
統領だったし、過去に政権を担当してきているわけです。
そうするとあれほど貧困を強調すると、みずからの施政と
いいますか、政治の貧困を裏付ける材料にはなりませんか。
むしろ相手側から、これこそケネディ政権の実体だという
ふうに攻撃されませんか?』


そういう風には考えなかったけれども、そうかもしれませんね。
勿論、ジョンソンの顔の入った演説もののコマーシャルもあるんです
よ。
それはとくに彼の要請にもとづいて作られたものですけれど(笑い)。
これも、これから紹介するものも、いままでの選挙キャンベーンCM
という概念からいうと非常に違っています。
だいたい、アメリカの政治家というのは、キレイ事で一般的なこと
をさっと見せるだけだったんです。
1964年のジョンソンの選挙に使われたこれらCFが、クリエイティビ
ティにもとづいて作られた初めてのものではないでしょうか。
ですから、このフイルムを見て非常にナマナマしいので、共和党だけ
じゃなく、民主党の中のある一部の人もちょっとドギツすぎるって
文句をいった人もあります。
そういうこともあったけれど、このフィルムの影響も相当あってゴー
ルドウォーターを負かしたんだと思います。


TV−CF (その2) 20秒
着信を知らせるランプが点滅しつづけているだけ。


できたてのモスクワ=ワシントンのホット・ライン(直通電話)をとりあげ、
これに応えうる人は誰れであるか。ゴールドウォーターよりもジョンソン
の方が信頼できる人間であるから、その人に電話の前に座ってもらおうと
いうもので、画面には白い電話器がうつし出されている。
最後に、この緊急時にこそもっとも信頼できる人間に応えさせよう、と呼び
かけている。


TV−CF(その3)


なにも映らない白い画面が始めから終りまで続き、コメントだけの
CF。


これは非常に時間がなくて、そんな中でつくられたものです。
何も見せず、テレビを見ないで、あなたの家庭を見、家族の、子供の顔
を見ましょう。
この選挙によってあなたの家庭も影響される。
ジョンソン、ケネディの政権が過去4年間これだけ偉大なことをし
た。
それが今後4年間でさらによくなる、部分核停条約はつくったし、
いろんな政策も実施された。
アメリカは今後もっと繁栄するだろう。
皆さんはもっとゆっくり眠れ、ポケットにも金が増える、税金も安
くなる。
選挙民の皆さん、どうぞ大統領にジョンソンを、とこんなふうな語り
です。


質問『このCFは何時ごろ放映されたのですか?』


だいたい夜の7時から11時ぐらいまでの間に放映されています。


質問『選挙のCFはだいたい夜しか放送しないのですか?』


これからお見せするものは、どちらかというと昼間放送されました。
家庭の主婦は昼間家にいますから。
けれども、だいたい選挙キャンペーンは夜の時間が多いんです。


質問『オン・エアされたのは8月の民主党大会が行なわれた直後なのか、
それとも投票日の3週間前から始まったのですか?』


ジョンソンが党大会で選ばれるのは必至でしたから、これをつくったの
は彼が大統領候補に指名される前夜です。
でも実際に放送を開始したのは九月からです。


質問『それではオン・エアされる前に例えばギャラップ調査などでジ
ョンソン優勢ということを知ってつくったのですか?』


ストーリ一・ボードとしてはもっと強烈なのもありました。
例えばゴールドウォーターを支持しているのはこういう人だという
ことでKKKのボスの名前やジョン・バーチ協会(アメリカの極右団
体) を出すとか。
また、実際にはフイルムを作らなかったけれど、もし態勢がジョンソ
ンによくないようになったらというストックもあったが、そうにはな
らなかったので強烈をものをさけました。


質問『これらのCFを作る前に、アメリカの国民が大統領に対してど
んなことを望んでいるかという基礎的調査があったと思うんですが。
それにもとづいて貧困問題をもち出したのか、それともジョンソンが
このあたりに非常に弱いということでつくったのですか?』


こういう貧困問題というのはアメリカ国民の間で非常に大きな問題で
あったので取りあつかいました。
それはジョンソンも知っているし、制作陣も知っています。
それからゴールドウォーターがこういう問題からさけたがっている、
つまり、彼の弱点であり、ジョンソンは強い。そしてアメリカ大衆は
そういうものを望んでいたんです。


TV−CF(その4)


ゴールドウォーターが何月何日、議会でどんな法案に反対したかとい
うデータを見せたもの。
コメントとしてゴールドウォーターは、あなたの社会保障制度を破棄
もしくは変更するとまでいっている。 ジョンソンは社会保障制度を
さらに充実する。


TV−CF(その5)


アメリカ国民が大勢でガヤガヤさわいでいる風景。いろんな不平不満は
あるかもしれないが過去20年間、民主党の政権のもとでいい生活がお
くれたではないか。だから支持をしよう。


TV−CF(その6)


ゴールドウォーターが医療保障制度に反対するためわざわざワシントン
に来て、そして帰る風景を見せる。
これを作るのには数時間しかかかっていません。
実際何も撮影していないわけで、前にあったスチール写真を使い2〜3時
間で出来上りました。
まあ、非常にスマートをCFだと思います。


これから2つ一緒に映写します。 これはゴールドウォーターが核禁止協
定に反対している。
この協定を破棄して核実験を続けたらどのような影響があるか、核の恐ろ
しさを、空気の汚れ、食品がダメになるということで見せたフイルムです。


TV−CF(その7,8)


TV−CF(その9,10)


ゴールドウォーターが、これまでにいったことを面白、おかしくヤジ
ったフイルム。
一つはまTVAを私企業にしたらよいといったこと。


もうーつはアメリカ人の中には大西洋沿岸の政治家、人々を、特に田
舎の人は反感をもっていることから、その地域をアメリカから切り離
せば、アメリカはもっとよくなるといったことを茶化したもの。
後者のCFはアメリカ合衆国の地図の大西洋沿岸地帯がのこぎりで
切って海に流れていくさまをみせている。



( アナ)土曜日のイブニング・ポスト紙で、ゴールドウォーターは
次のように述べた。「時々、東部を切り離してしまったら、この国はもっとよい国になるにちがいないと思うことがある」ゴールドウォーターのこの答えは、問題解決になりません。11月3日は、ジョンソン大統領に投票しましょう。家にいるなんて、とんでもない危険を犯さないでください。

 
        

TV−CF(その11)


11月3日はジョンソンに投票を。あをたが家にいて選挙に参加しない
ことは選挙に重大な意味をもちます、と呼びかけたもの。


TV−CF(その12)

女の子が花片をかぞえる。
1. 2 . 3. 4〜 9 までかぞえたところで別の声で数の逆よみが始まる。
3. 2. 1. 0、そして原爆が爆発する。

TV−CM


これは最後のフイルムなんですが、非常に問題になって、共和党側は汚ない、
悪らつだといいました。
非常に効果的をフイルムだと思います。
ジョンソンだったら平和が保てる、つまり花がかぞえることができる。
ゴールドウォーターは原子爆弾を落すかもしれない。 花をかぞえるのが
、原爆投下のカウントになるかもしれないというものです。


質問『選挙費用全体の中で、このTVキャンベーン にはどのくらい
使われていますか?』
全体で1,500万〜2,000万ドル、、TVに4E5 0万ドルです。


質問ケネディの時からくらべてTVに使用した金額、比率はあがっ
ていますか?』


だんだんあがってきている。
例えば今回の大統領選挙なんかTVに600万ドルぐらいかかっている。
だいたいTVの使用分があがってきているわけですね。


質問『お2人がみずからジョンソンの選挙キャンペーンを担
当することを名乗りでたのか、それとも会社からの命令ですか?』

バーンバック会長の直接の命令で2人が選ばれましたが、勿論、支持
者の中から。
かつては民主党支持者でしたが、今回やれといわれれば多分断わるで
しょう(笑) 。


質問『どうして?』


フリー・ランサーでマッカーシーのキャンペーンをやっていたからです。
(アメリカの代理店では自分の支持する政党、人のために会社を離れて
選挙キャンペーンにたずさわるケースが多い)


質問『今回どうしてDDBはハンフリーの選挙キャンベーンをやらな
かったのですか?』


これについては、バーンバック会長ならやったかもしれないというこ
とであったが、その事由について、L .パーカー夫人が資料を提供して
くれた。
それによると、
民主党内の金銭問題
●ハンフリー派とマッカーシー派の長い間の気まずさが扱い広告代
理店内にも満ちていること。
民主党委員会の上層部交代で新しい代理店を使おうという意向が
生まれていること。
特にDDBとL&N両社が分担して当初ハンフリーの選挙キャンペ
ーンを担当していたのが気まずさを生み、しかもDDB側にしてみれ
マッカーシーが大統領候補になると思っていたものが、そうでなか
ったのでやる気をなくしたというのが実情のようである。