創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(648)プリスティーンの広告 マリー・クァントに訊く(3)


広告主が、環境の変化に敏感とはかぎらない。
保守的な考えに固執している世の中の層も、薄くはない。


クリエイターは、変化の兆しに敏感でなくてはならない。
しかし、一歩進んでは進みすぎ。半歩の間合いがむずかしい。



新鮮で刺激的な広告はどうやって生まれるか


ファッション産業にたずさわっていない読者の中には、ついこの間までのミニ・スカート、最近(1970)のマキシやミディの流行を「短いものの次には長いものが流行るさ」と、いわゆる流行周期説で片づけている方も多いと思う。


しかし、世の中はどんどん変わっている。
社会環境の変化と同時に、思潮も大きく変わる。
むかし流行したものが単純に帰ってくるのではない。
そして変わるにはそれだけの思想的な裏うちがあるのである。


もちろん、街をマキシ・コートで歩いている女性の全部が必ずしも思想的にこのマリー・クァントなどと同じ考え方をしているというのではないが、思想を感覚で受けとめて自分のものとしてしまっているのだと思う。


前出『ファッション産業』で塩浜氏は、「流行の周期を予測しようと試みることは、あまりにも意味がない。流行の法則が異なってしまったからだ。それよりは、変化をじかに感じ取る能力、したがって、前衛的なものが、どこにどう展開し、動いているかという情報の価値と、その加工の方法がマーチャンダイジングの基本になる。その情報とは各分野、各ジャンルについてであって、ファッションの情報……パリの情報ではないのである。
デザイナーにとっては社会生活の変化の情報……大衆が何を好み、何を着、どういう行動をしているか……つまりレジャー施設やインテリアそしてモータリゼーションの情報である。企業にとっては、市場における各商品の販売動向や消費者の購買動態に関する情報である」と言って、ファッションを社会の中の諸要素と関連づけてとらえている。


ほくは、パーカー夫人に質問した。
「こうした、急進的な考え方を広告で公開することについて、広告主側はすんなり認めますか?」
「とんでもない。たくさんの反対意見の投書も送られてきているし……アメリカにだって、旧い体制や道徳を支持する婦人たちも多いのよ……でも、広告は、新しい考え方を提示しなきゃあ」


つまり、アメリカにだって、旧道徳を是とする女性も大勢いるし、彼女たちもプリスティーン・スプレーの顧客であるわけだから、その人たちを敵にまわすことを広告主は怖れたのであろう。


しかし結局発表された。
理由は、平均的であるよりも、時代が内包している新しい思想を提示したほうが注目をひき、記憶されると判断したからであろう。


広告というのは、主張に対する賛成者の獲得行為である。


主張なしの広告というのは、単なる浪費にすぎない。


また100パーセントの人に賛成され、支持される主張というのもありえない。


強い主張、ユニークな主張、新しい主張であればあるほど、一部の人の支持しか得られないものである。
しかし、その支持は強固であろう。

おざなりの支持よりも、強固な支持を得るべきだというのも、ある場合には正しいことである。

経営者という名の人たちは、たぶんに保守的になりがちであり、新しい考え方を否定しがちである。


しかし、新鮮で刺激的な広告は、このような保守的な考えからは生まれてこない。

パーカー夫人の無償志願によってつくられた
米国ガン協会キャンペーンのテレビ・コマーシャル。
C/W ロール・パーカー Lore Parker
A/D ビル・トウビン  Bill Taubin



ジョン・ウェインの独白「自分は数年前に体調がおかしかったが、チェック(検査結果)を知るのが怖くて病院へ行かなかった。妻があまりにもすすめるので、チェックを受けたら肺ガンだった。いまは、こうして元気に撮影している。おかしいと感じたら、あなたも早期にチェックをうけなさい。さらにお願いする。対ガン協会へチェック(寄付金の小切手)を送ってください」


明日は、拙著『売る』(日本経済新聞社)の、まえがきと目次で、40年前の恥さらしを。




参考】パーカー夫人の電通(東京)での講演『DDBのクリエイティビティの秘密』←クリック
1966年10月15日