創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(457)DDBのスタイリング部は女性のトリデ


例によって、資料庫を漁(あさ)っていたら、不思議なファイルが出てきました。
『ニューヨーク・タイムズ』紙、『アート・ディレクション』誌などが載せたDDBに関する各種記事の切り抜きです。どの広告主がDDBと契約したの打ち切ったのといった消息から、注目を浴びつつあったDDBの取材報告までさまざまです。ある時期、スターにあこがれるファン気質丸だしで集めていたようなので、苦笑しながらチェックしています。
もちろん中には、DDBをDDBたらしめているものを見つめた外部の人の目による記事もないではありません。これはその一つ。
1961年7月24日『週刊アド・エイジ』誌の記事の抄訳。


サブ・見出しは、「多種多様のモデルやぴったりの小道具類は、部内の責任において調達します」




DDBにおけるもっとも忙しい部の一つで、DDBが制作しているそのほとんどに力を貸しているのは、他の多くの広告代理店には存在しないスタイリスト部と名づけられている。
ファッション部門であるとともに、DDBの広告のための小道具やモデル、洋服などを提供するために8人の女性がいつも大忙しでニューヨーク中をとびまわっている、いわば女のトリデである。ここでは(印刷媒体)広告の構成だけでなくはなく、ファッションの流行を予測し、キャンペーンとプロダクト・デザインのコンサルテイションもしている。


当部は、印刷・放送の両方のたくさんのキャンペーンを、発想の段階から現場での制作まで一貫してタッチしている。


典型的な忙しい一日の活動をのぞいてみよう。
Laneのシーダ(材)製のタンスのためのデザイン・アイデアを指示してくれとか、Chicopeeのおむつカバーの模様は黄色いテディ・ビーンズがいいか、ブルーのアブストラクト・デザインがいいか考えてくれと頼まれることもある。


ある部員は、Chemistland(合成繊維会社)のコマーシャルのコピーを考え、別の部員はニュージャージー海岸で焚き火をしながら写真を撮るColeの水着の広告のデザインを考えている。


また、ある部員は、色見本に囲まれて9ヶ月先の色の流行を予測し、別の小道具係の少女は写真向きのビールの栓を探してBowery通りを歩きまわっている。


当部は、設置以来約9年間、たえず研究され、改革されてきた。初めのうちは(たいていの広告代理店は現在でもまだこの段階なのだが)スタッフはファッション・ディレクター1人だけであった(DDBへ入社したばかりのフラン・キルパトリックがその女性)。今では、6人の「スベシャリスト」と2人の秘書がいるほどに拡張された。『グラマー』誌を7年前に去ってこの部門の2人目のメンバーとなったジョアン・グリン夫人が統括している。(写真:ジョアン・グリン夫人


当部では、だれもがスペシャリストである。メイブ・ミラーは女性ものの小道具係で「フル・タイム以上に」働いている。DDBは昔は小道具は写真家にまかせていたが、いまは「独特のものを創るという点でも、経済的にも」DDBの中でこなすほうがいいということになっている。


スベシャリストの一人であるナンシー・オショーネシイは、1日中、DDBの全広告に地使われるモデルの名簿を作成して所持している。各アートディレクターは、もちろん、それぞれもリストを持ってはいるが、その時の要求のにかなうモデルの数や個性については、最終的には彼女の手を経なければならないことになっている。


ファッション・モデル、ペンギン、役者、ロバ、子ども、アザラシ、どこへ行けばそんなものが見つかるか、彼女はちゃんと知っている。彼女が担当した仕事のサンプルを一つ---2匹のペンギンとベンギン似た子ども2人と赤ん坊1人、これはNity-Nite の広告のためのものであった。彼女はまさしく「ベンギン的」な少年と少女を見つけねことに成功したが、赤ん坊はダメであった。「ペンギンに似た赤ん坊というのは存在しないものだ」ということを彼女のリサーチが証明している。


グリン夫人と3人のファッション・ディレクターは、主にこの部の全体的なプランニングの監督を中心に、Specific accountを担当している。グリン夫人はChemistland、Warner(下着)のスリム・ウェア、Ronsonライター、Lane家具、それに新しくDDBのアカウントになったInternational SilverとHane Hoisieryを専門にやつている。彼女はまた、この代理店の新しいビジネス・プレゼンテイションを行うグループのメンバーでもある。
ファッション・ディレクターの1人であるミス・グロリア・カタルドはC0le of California(水着)、Yardrey(フレグランス)、Glairol(ヘア・クリーム)、Volkswagen、Schenley(ウィスキー)、American Airline、それにOhrbach's(百貨店)のとくにファッション分野の仕事をこなしている。
ミス・カタルドは、Ohrbach'sにかかりきりというわけではない(それは、社長のビル・バーンバックの仕事)が、それでも、相当の時間、熱心にここのスタイリングをやっている。「いずれの広告も、知名度か高くなっているので、一つの手落ちもなく完全にこなさなければならないのです」とグリン夫人は強調した。


ミス・カタルドが手がけた仕事で、みんなが記憶している広告を一つあげると、VWビートルの洗車のものであろうか。
洗車なんて簡単ではないかと思われがちだが、実はそうではなかった。アートディレクター(かの気むずかし屋のヘルムート・クローン氏)は、車の屋根にきわめて芸術的に渦を描いている泡が必要なんだと強要した。この広告のへッドラインは「フォルクスワーゲンに必要な水は、洗車用の水だけ」のためであった。
実際の撮影には、バケツに何杯もの水を使い、やっと芸術的な泡を描くことができたと。


フォルクスワーゲンに必要な水は、洗車用の水だけ。


車のエンジンは、すべて冷やさなければなりません。が、とのようにしてかといいますと、在来の車は水で、VWのエンジンは空気で冷やすのです。
その恩恵たるや驚くベきものがあります。考えていただければわかります。あなたのVWは夏に沸騰したり、冬に凍結したりしないのです。空気が沸騰したり凍結したりするはずはないのですから。
不凍液もいりません。ラジエーターについてのごたごたともお別れ。要するに、ラジエータがないのです。
真夏の交通地獄にも、あなたのVWは悠然たるものです。他の車や人びとはカッカッしてしまっているというのに。
”剛勇”VWのエンジンはほかの点でもユニークです。エンジンが後ろにあるということは、よりすぐれた牽引力を持っていることになります(ぬかるみ、砂地、氷原、雪道など、他の車がすべってしまうところでもVWは進みます)。またアルミとマグネシウム合金で鋳造してあるので重量を軽減し、効率が高くなっています。あなたのVWは、
普通の運転、レギュラー・ガソリンで、13kmはラクに走ります。しかも、次の交換時期までオイルを必要とするようなことはないでしょう。


chuukyuu注 1959年8月からスタートしたキャンペーン、6弾目の広告です。


参照・復習】[6分間の道草](163)DDBの隠し玉---ジョアン・グリン夫人とスタイリング部2007.11.05〜)(


ジェニファ・ジョンソン部長---キャスティング部を語る2008.02.16〜)(