(649)旧著『売る』の再録アンケート
39年前の1971年3月1日、22冊目にあたる『売る』(日本経済新聞社)を上梓しました。
日本ダイナース・クラブの会員誌『シグネチャー』に1年半にわたっての連載に手を入れてまとめたものでした。
その最終節を、この3日間にわたって採録しました。
自分自身、39年ぶりに読み返して、早まっていたことに恥じ入りましたが、一面では、当時のアメリカから、人とは違ったものを学びとろうとしていたことをたしかめえました。
会ってくれた人たちは、アメリカの広告界でも、特別に意識が高かった人たちだったかもしれません。
余興のように、「まえがき」と目次を再録しました。
目次の項目(主題)に、ちょっと目を通してみたいとおもわれたものがありましたら、このブログのコメント欄にそれをメモってください。
図版などをさがし、日をおいてアップできればと考えています。
まえがき
『売る』とは面白い題名と読者は思われるかもしれない。
手もとの『岩波英和辞典』で「売る」にあたる "sell" の項目をみると「(原義……引き渡す)(…を)売る。(1) 敵に引き渡す、裏切る。(2) 金銭などに替えて引き渡す、売る、(商品を)商う。(米)宣伝する、推薦する、ひろめる……」
とある。
私たちが何気なく「売る」と訳している「セル」には、こんな意味があったのである。
となると、広告を批評するときなどに専門家は、「この広告はセルする力を持っているか」などと言っているが、これを「この広告はひろめる力を持っているか」という意味にとってもいいであろ
う。
ところで、「売る」という場合、問題になるのは「何をセルするか」である。
「広告がセルするのは商品にきまっているではないか」と言われそうだが、最近ではそう簡単でない。
最終的には商品、あるいはサービスであっても、広告でひろめるのは、生活に対する新しいコンセプト(概念)であったり、企業の個性であったりすることが多くなってきている。
またアメリカなどでは、市民の社会意識の高まりとともに、思想や抗議をセルしたり、政治的行動を呼びかける広告も一方では現われてきた。
本書では、こうした「セル」するものの変化に照準をあてて、いくつかの典型例を示しながらその広告の特徴、効果、完成までの裏話などを紹介した。集めた事例の大半は、たんに新聞や雑誌から切り抜いたり、テレビコマーシャルの中から拾いあげたものではなく、私が幾度かのアメリカ取材旅行で、それらの広告の制作に直接たずさわった人たちに問いただしたものである。
なぜ、そんな手のこんだことをしたかというと、直接会うことによって彼らの意識の変化まで聞きだせるのではないかと思ったからである。
私にとっては、すでにつくられ掲載された広告よりも、制作にいたるまでの彼ら、ひいては彼らをとりまく環境のほうに興味があるし、おもしろくもある。
また、それらの事例をアメリカでのこととして眺めるのではなく、日本にとっても、ひとつの指針としてとらえられると思うからである。
本書はダイナース・クラブの機関誌『シグネチャー』に17回にわたって連載されたものに手を加えたものである。
ダイナース・クラブの会員というのは企業のエグゼクティブ層によって占められている。したがって連載時の主たるねらいは、広告などにはあまり関心のない(つまり広告の変化についてもあまり知らされていない)経営上層部に広告についての最新情報を送りこむことであった。
しかし、今回1冊の本にまとめるために読み返してみると、すでに最新情報ではなくなってしまっている事例があまりにも多かった。
たとえば、選挙広告、ウーマンズ・リブ、公害反対運動といったものがそれである。
考えようによっては、欧米と日本との距離は、広告が「売る」ものについても急激にちぢまっているように思える。本書の他の事例も、本書が人々の目に触れる頃には、日本で現実のものとなっているかもしれない。
それはともかく、私は広告で「売れる」もの、今後「売ら」なければならないもののいくつかを実例を示すことでそのヒントまで並べたつもりである。
しかも、それらはこれまでのマーケティング関係、広告関係の書物が教えてくれたものとは若干異質である。
石けんや薬や食品の例は一つもない。
それがこの本の欠点といえるかも知れないが、これらの商品を「売る」方法を解明した書物はほかに数多いので許していただきたい。
なお、本書に『売る』という表題をつけることをすすめてくださったのは、日本経済新聞社出版局の小出鐸男部長である。
当初はなじめないようで弱ったが、改稿をすすめるうちにそれが主題のようになって、情念がそこに集中してきた。改めて敬意を表したい。
また、『シグネチャー』連載中から何かと助言をいただいたダイナース・クラブの井上豊彦氏にも謝意を申し述べたい。不測の交通事故で入院中の井上氏の退院が、本書の上梓よりも早からんことを祈る。
最後に、ニューヨークで快く質問に応じてくれた幾十人もの友人、知人たちと、資料整理をしてくれた助手の榊原嬢にもお礼を述べたい。
1971年2月
☆---なんらかの形で当ブログでアップずみ。
★---未アップ。
目次
独創性を売る
個性を売る
★個性を反映した広告を
☆安全運転の訴えの先取り
☆10階建てのビルから落下
★死ぬのは簡単ですが
★モービルがそこへ行けと言った
★企業広告のあるべき姿
★愛される企業とは
新しい生活習慣を売る
★日本人→東京→ソニー
★「DDBはソニーに興味をもっています」
★少予算なら小代理店で
☆ソニーテレビは寝室テレビ?
★よい広告が一つ生まれると八〇項目
★たとえ価格が高くなっても
★広告の根本は経営方針にある
★買われるのは好き嫌いで
★11年間の使用に耐える
★生産台数の4分の1を対米輸出
逆手を売る
☆No.2を売る
☆不振の時代
☆90日間の余裕を……
☆No.2の広告告が出るまで
☆No.2宣言の反響
☆社内モラーも高まった
☆N.1の反撃と休戦
不格好を売る
★「不格好」の意味を変えた
☆「不良品」を売る
☆「小さいことが理想」
★広告賞をひとり占め
★最初は2台売れた
★つねに首位を独走
★フォルクスワーゲンの挑戦
不都合を売る
★タバコのコマーシャルが消えるが……
☆長さ10cmの超ロング・サイズ
☆「不都合」な10の例
★逆張りで人々の注目を
★勇気がいるコマーシャル
★失敗した「好都合」コマーシャル
不振を売る
★俗悪番組を告発する
★「文化について書け」
★自分自身に正直であるべきだ
政治を売る
平和を売る
★大統領選キャンペーンは偽りの広告
★広告批判と規制
★広告のもう一つの面
★「公共奉仕広告」の定義
★反戦主義と『平和部隊』広告
★学生たちに直接反論
★「ベトナムヘ行くんだ」
貧困を売る
☆『ギブ・ア・ダム』バッジ
★リンゼー市長のハーレム対策
★バート・ランカスターも無料出演
★『貧民街』のイメージを「暴動」でなくしよう
★借りるかい? やめとくかい?
★土より出でしなれば土に帰るべし
★芝居がかった偽りを避けて
★普通の広告をつくるようにして……
悲劇を売る
☆「かあさん、生まれたよ。だけど……」
☆誰のせいでもない
☆ついに悲劇のコマーシャルがカンヌで、グランプリ
★広告予算が少ない時
抗議を売る
★「抗議広告」は市民の怒り
★一市民として発言V
★ジョンソン大統領から感謝状
★4月22日の「地球の日」
★汚染終結の始まり
★きれいな空気のための市民協会
★ほんとうに大切だと思える広告
★企業に抗議する
★今後の課題……「抗議広告」
政治を売る
★ニクソンに抗議する
★ニクソンの広告は断わる
★老兵がこんなことまでするとは……
★政治広告ではマジソン街は影の男
★ジョンソンは去るべきだ
★会社がハンフリーを辞退
★公害問題を選挙に利用
セックスを売る
ヌードを売る
★マンハッタンの中心部で
★『エロス』の廃刊理由
☆ソニーのヌーディスト事件
★10年昔は反セックス
★「性的」と「性器的」の違い
★セクシー広告の効果
★ヒッピー化現象
★男性は自立女性を好む?
★陳腐な呼びかけ「小さな淑女さん」
★「働く女性」は威信項目
★独身女性が好むムスタング
★家庭収入の85%を使う主婦
★趣味的になっているアメリカ女性
☆ ウーマンズ・リブを売る
☆現代女性の望み……性的人間
☆下着が上着になってくる時代
☆ウーマンズ・リブを利用
☆パリの支配からの解放
☆新鮮で刺激的な広告はどうやって生まれるか
明日は、エイビス・シリーズのインデックスをアップします。
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