創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(553)夫に靴下をつくろって、と頼めますか?


ずいぶん、ドキッとさせられるタイトルだが、さすがにDDBのコピー・チーフ---当時の女子大生のこころをギュッとつかんだろう。
えっ? いまなら靴下は、つくろわないで捨てる? なるほど! 小ざかしい。

40年前---1969年8月号『DDB NEWS』に掲載されていたのを拙訳・編『DDBドキュメント』(ブレーン・ブックス 1970.11.10)に収録しておいたのだが、日本の社会状況はそこまで達していなかったか、無視されてしまった。
いまなら、40年遅れの共感がえられようか。


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夫に、靴下をつくろって……と頼めますか?


                         フィリス・ロビンソン


家庭管理と子供の養育は女性の仕事だった


「私はそれを成し逐げたのよ、ネッ。
私はすばらしい仕事と、すばらしい私生活を持っています」
「あなた方にいいたいのですけど、これはとてもむずかしいことですよ。
うまく説明できない一種の融通性と訓練を必要としました。
でもほかのやり方だったら、どんなことをしてもそれを手に入れられなかったでしょう」


フィリス・ロビンソンは、アデルフィ大学でマーケティングを勉強している学生たちへの講演で、コピーライターと妻と母の座は両立するかどうかという問題に答えて、そういった。


何人かの女子学生は、広告代理業に進むことを考えていたが、それが彼女たちにとって生涯の仕事となるかどうかという疑問を持っていた。フィリスは、女子学生たちの疑問に答えるように頼まれたのだった。
彼女が話さなければならないことの一つは、怠惰な人間に思いとどまらせることであった。


彼女の話の要点の一部分……
「この国のしきたりでは、家庭の管理と毎日の子供たちの養育は、ずうっと女性の仕事でした。
そしてどんなに女性が自由でも、どんなに才能があっても、どんなに成功しても、お手伝いさんや保母や掃除サービスや労力節約の工夫を、お金で手に入れることができても、その責任はやはり女性のものです。
女性はテーブルの上に食べ物が並んでおり、さらに冷蔵庫の中にも食べ物が詰まっているように注意しなければなりません。
計画、買物、料理、掃除、洗たくは、みんな女性の受持ちです」


昼食の時間もないほど忙しい働く主婦


「働く女性? 
会社でのつらい仕事を終えて、花やぶどう酒やパイをかかえて家路を急ぎ、晩餐のお客より先に着こうと走って玄関に着いた時に、週1回の通いの掃除婦がきていなかったことを発見しなければならないような女性のことですよ」
「欠勤するかペニシリン入りせき止め薬、下熱剤アスピリンなどのメモを置き、病気の子供の顔が浮かぶのを頭から払いのけて仕事場へ急ぐかなのです。


仕事場でのフィリス                家庭でのフィリス

自分自身を魅力的に見せるために洋服を選んだり、帽子をかぶったりしなければならないうえに、カーテン生地や靴ひもやスキー・ズボンや、夫のシャツやら小犬の訓練用の皮ひもやらを昼休みに買いに走らなければならないのです(多くの働く女性がすんなりとスマートなのも不思議ではありませんね。彼女たちには昼食をとる時間も全然ないのですよ)」


「彼女は子供たちを車で送り迎えしたり、彼らが髪を洗ったかとか、仲よく遊ぶようになったかとか、鼻をほじらないかとか、頭のぶち合いをやりすぎたりしないか、なども確かめもしなければならないのです。もし彼女がそれをするために、そこにいることができないなら彼女は信頼して、それを任せられる人を一人またはそれ以上見つける責任があるのです」


「たとえお手伝いさんをたっぷり雇えるほど成功していても、彼女にはその人たちを選んだり、雇ったり、訓練したりする責任があります。
しかも今日のようなお手伝いさん不足の現状では、1年後にはまたすっかりやりなおす破目になりがちです。
何をするにも時間がかかります。
土なべ料理屋に電話するのでさえ。
そして大きいことにしろ、小さいことにしろ、仕事の妨げにならないように気が散るのを押えるのは大変なことですよ」


働く女性は、平等な機会と報酬を主張する


「私を誤解しないでください。不平をいってるのじゃないのですよ。
私はこういったことをするのはきらいではありません。
ただそれらをやりくりしようと思うと大変なスタミナ、計画性、融通性、そして想像力がいるといっているのです(私は不平をいっているのではありません。私は自慢しているのです)」


「要点は、私たち女性は、平等な機会と平等な報酬と認識を主張している(または私の場合のように実際に享受している)ということです。
でも文化は今のところ追い着いていません。
私はどんなふうに追い着くのか、あるいは追い着くかどうかさえ確信かおりません。
皆さんには、夫に自分で靴下をつくろったり洗たく屋に電話して、彼のワイシャツののりのことで文句をいうように頼む勇気があるでしょうか。
夜中に赤ちゃんのおしめを代えずに済み、花も生けずに済み、2年生の担任の先生と相談しないで済むようなぶ夫ができるでしょうか?」


「明らかに、女性自身も、そして制度自体も、双方ともが変化しなければならなくなりつつあります」


「新しい生活様式が探究されつつあります。
その幾つかは全く急進的ですが。
さて、一つ家での結婚生活、家族生活について話してみましょう。
結婚後、子供たちが生まれます。
はっきりいって、古い体制ではそれほど具合よくは行きませんでした。
なんらかの手を加えなければならないでしょう。
……私には答がわかりません。
だれにでも同じ答が当てはまるものではないと思います」とフィリスは注をつけた。


彼女自身の生活様式さえ、昔からのそれには沿っていなかったと、告白した。
つまり、彼女は成功するまでは子供をつくらなかったのである。

フィリスの一人娘とご主人が出演したTV−CM『動物園』 近代美術館に収蔵された最初のCM



幕切れのアナウンス「人生には記録しておきたい瞬間がありますね」


女性は、自分自身で仕事をつくるべきだ


「私の大学時代の級友の何人かは、『私はファイ・ペイタ(優秀な成績のアメリカ大学生および卒業生の組織するクラブ)の会員で、18年間、母親の役を勤めました。さあ、高給で魅力のある仕事をください』といいながら、歩き回っています。そんな仕事をくれる人、がいるなんて信じてはいないのに……そううまく行くわけはありませんものね」


「女性はもっと柔軟で想像力に富み、そして物事を自分で起こさなければなりません。
自分自身で仕事をつくらなければなりません。
あなたの才能を開発して、それを市場に持って行き、あなたにとって満足の行く条件で売りなさい。
イオニアになりなさい。
私かそうでしたよ。
若いうちに結婚して、すぐに子供をたくさん持ちたいですか。
いいでしょう。
でももしあなたが成功にも関心があるなら、まず、仕事に足がかりをつくるようになさい。
たとえ小さくても、印をつけておくのですよ。
次にはつま先を入れっぱなしになさい。
たとえ週一日の仕事でも続けるのです。
それがたとえ土地の洋装店や、死体仮置場のための広告をつくる仕事であっても……です」とフィリリスは提案した。


パートタイムをもっと上手に


「もしあなたが事態を自分の思うとおりにしたかったら、うんと弾力性を持たなくてはなりません。
もしあなたがこのパートタイムの仕事から利益を得ているなら、それはすばらしいことです。
でもたとえあなたの給料をベビー・シッターや、新しい服や、美容院などの払いで使い果たしてしまわなければならなくても、それはそれでかまいませんよ。
お金というものは単に、どんな仕事にもついて回る満足のうちの一つにすぎませんもの。
たとえあなたが損をしなければならなくなったとしても、長い間には家族にとってよりよい収入になると理解していれ
ば、今はご主人と2人でやりくりできるはずです」


「しかし経営者側も変わらなければなりません。
人を雇う時はもっと融通をきかすようにならなくては。
売店を見てごらんなさい。
もしパートタイムの売り子を採用していなかったら今ごろはつぶれていたでしょうよ。
パートタイムの仕事はもっと高度の技術を必要とする分野でも使えます−−−もしだれもがそうなるのを望むならば。
そしてだれでもそう望んでますよ。


経営者は『求む! 才能のある人』を叫んでいます。
女性は『求む、仕事を』と叫んでいます。
それはどっかで合致点に達さなければならないということを意味します」

                    (DDBニュース 1969年8月号)

フィリス・ロビンソン夫人とのインタビュー
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「世界中の女性コピーライターへ」
"Advertising Age" 1968年7月15日号
インタビュアー:John Revett