創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](12-2)

今朝、東京は夜来から音をたてた強風で、しかも、雨。2時半から引例図版の、トマトやオレンジ、オニオンのセリフの配置に四苦八苦。でも、定例の朝の早足ウォーキング(冬場は6時半〜7時 6km/毎時)が雨のために欠けるので、じっくりと取り組めました。6時半にアップを完了。
そうそう、きのう、大型懐中電灯の単1電池4ヶを取替え、倉庫に入って資料を捜したら、もらっていた『PKL 2年目(1961〜1962)の作品集』の本が出てきました。その中に、きのう、モノクロでアップしておいたトマトの広告の色刷り分があったので、差し替えました。もっとも、擬人化作品は、きのうの2点しか収録されていなかったから、あの2点が1962年のものとわかりました。


(左部と下部と大きく省略)



>>[効果的なコピー作法]目次


第12章 銘柄の区別(2)


      「ああ、お嬢さんたちよ。今晩は、あのレモンちゃんと呑む約束をしてなけりゃあね」
「トマトだなんて気やすく呼ばないで。ウルフシュミッツはあたいのものよ。彼って味がいかすもの」 「そうよ、彼って味があるわ。彼はゆうべあたしと一緒だったんじゃなくって?」    
    「あたしを見て、ウルフシュミッツ。お忘れじゃないわよね。仲良く2人ですごいマティーニをつくりましょ」  


ウルフシュミッツ・ウォツカは、純正でよき時代のウォッカ特有の微妙な味わいを持っています。だから、すてきなスクリュードライライバー、プラディ・マリー、マテイニィ、 トニックなどなどがつくれるのです。




      "What dills. If only I wasn't having a drink with that lemon tonight."
"Who are you calling a lemon? Wolfshmidt is mine. He's got taste." "Of course he has tasrte, Wasn't the with me last night?"    
    "Look at me, Wolfschmidt. You know your onions. Let's make great Martinis together"  


Wolfschmidt Vodka has the touch of taste that marks genuine old world vodka. For the reason it makes better Screwdrivers,Bloody Marys, Martinis, Tonics, Etc.    

銘柄競争(12-2)


さて、もう一度、PKLがウルフシュミッツミを引きうけたときの状況を思い返してください。第1位のスマーノフ Smirnoff は、無味・無臭を主張していたのです。そして、ウォッカという酒は、もともと、無色・無味・無臭なものがよいとされていたのです。無色・無味・無臭が製品の長所のとなるべき特質とは、なんとまあ、意地の悪い製品でしょう。
しかし、似たようなたことは、健在、私たちが当面している<銘柄合戦>のなかに数多くあります。とりたてていうほどのこともない製品特質、先行会社そっくりの特質をもった製品---これらは、あまりほめた状態ではありませんが、現実なのです。
そこで私たちは、似たような製品を、まるで似ていない製品であるかのように広告しなければならなくなっているのです。ちょうどPKりがそうであったように---です。


製品に区別をつける---これは、その製品を買ったほうが、銘柄のちがう同じ製品を買うよりもトクになると消費者に思いこませることです。
広告訴求と表現によって、銘柄に区別をつけるよりも、製品自体を異なったものにすればよいではないか--という主張は大義名分がたっています。が、それには限界があるのです。現代の生産方式を考えると、あまり期待はできません。
とにかく、私たちほ、はげしいく銘柄合戦>を避けることができないのです。それに勝つ方法を考えなければならないのです。
そして、これはコピーライターの大きな仕事であるということは、今では定説になっています。なぜなら、メーカーの人たちよりもコピーライターのほうが、何を強調すればよいかをみつける想像力に富んでいるからです。
ウルフシュミッツ・ウォッカで、ライターのケーニグ氏が用いたテをもう一度、考えてみましょう。彼は、銘柄強調のテとして、「比較型のコピー・テクニック」を使ったのです。


このテクニックについて、M・デボーは、次の3つの手段をすすめています。


(1) 広告する銘柄のほうが、ほかの何物よりもよいとはっきり述べるか、暗示する。
(2) 広告された銘柄にまさるものはないと主張するいい方もある。
(3) ほかの何物も、広告された銘柄よりもよくないと主張する比較法


もうおわかりのように、ケーニグ氏は、ウルフシュミッツの広告で、(1)の比較法を用いたのです。すなわち、ウルフシュミッツのほうが、ほかのウォツカよりもよい---なぜなら、「taste 味」があるから、とやったのです。
しかもこの手法を単純に用いたわけではありません。コミックな表現で読者の警戒心を解きながら、はかの銘柄のウォッカとは違って、味があるという心理的相違を植えつけようと試みているのです。
ふつう、心理的相違を植えつけるのは、短期間のキャンペーンよりも長期間のキャンペーンのほうが有効だといわれています。
直接的行動を指示するよりも、間接的な反応を期待する場合に力を発揮します。
知的なアピールよりも感情的なアピールに適し、読まれる広告に向いています。


おわかりでしょうか? この点からいって、ウルフシュミッツのキヤソペーンが、想像以上に、この手法にはまっていることが・-・。
ついでですから、つけ加えておきますと、ウルフシュミッツにはここに、引用した擬人化広告の前に、イントロダクトリイ・キャンペーンと呼ばれる3つの4つ広告があるのです。その一つが、これです。


もし、ウォッカに味がなかったら、ウルフシュミッツがどれなのかを、どうやっていいあてることができましょうか?




"If Wodka has no taste, how come I can tell which one is WOLSCHMIDT!"


これらの広告では「もし、ウォッカが無味無臭なら、どうやって、これがウルフシュミッツといいあてられますか?」と主張しています。


>> 12-3「14のテクニック」に続く



おまけ】拙編著『アンチ・マジソン街の広告代理店PKL』(ブレーン別冊 1967.7.20)に書いている、ウルフシュミッツの広告キャンペーン作品20点ばかりを収録したページに解説を添えているので、ご参考までに転載します。


ウルフシュミッツ・ウォッカ解説
このウォッカもロンリコ・ラムも、ともに有名なシーグラム傘下のジョセフ E.シーグラムー&サン社から発売されている製品です。
ところが、ウォッカというのは、無味・無色・無品だけに、その個性づくりは困難をきわめます。PKLは、ウルフシミュッツに、女と歌と冗談が好きで、ちょっぴりホラ吹きの男の人格を設定して、みごとに成功しました。
また、別のシリーズでは、ウルフシュミッツには「テイスト(味・趣味・風格)」があると強調して、ほかのウォッカとの差別化を企てています。
たとえば、製品写真もロゴもなく、グラスだけの広告について、ほめ言葉をほとんど書いたことのない『アド・エイジ』の「クリエイティブ・マンズ・コーナー」も、
「広告に気のきいたものを要求する人びとにとって,、このウルフシュミッツの広告は、まったく満足できるものであろう。この広告は、人びとが予期する慣例的な広告とは、まるで違っている。パッケージは姿をみせず、ずばり製品そのもの(液体のみ)が載っている。しかも新しく買い求めたのではなくて、すでに使用中のものが。さらにこの広告には、ほかの多くの広告に見られる誇大性はなく、写真は慣例を破ったもので、広告というよりもアートに近い」
広告界の常識人たちの目から見れば、擬人化されたボトルのシリーズにしても、このグラスだけの広告にしても、「こんな広告が効くか?」とか、「ユーモアは売らない」とかということになります。
PKLの人たちに言わすと、「十分に効果があった」という返事が返ってくるでしょうが、「クリエイティブ・マンズ・コーナー」の匿名氏は、「累積効果を期待する広告になじんでいる人びとにとってみれば、芸術的でなく、もっとコマーシャル・メッセージが書かれているほかの広告に比べて、この広告が効果的であるとは思えないであろうが、味についての説明があまりついていないほかの広告をみて、人びとは、どうして味を知ることができるというのか」と,この広告が、ウルフシュミッツの味を際立たせている点を高く評価しています。
同じ『アド・エイジ』誌で、広告コンサルタントのジェームズ・D・ウルフは、やはりグラスの広告を引き合いに出して、「オリジナリティが効果的な広告を判定する決め手だとすれば、この広告はブルーリボン賞ものだ」といってから、「だが、オリジナリティは、良い広告の判定となるものであろうか? 変わっている広告が変わっているというだけの理由で必然的に説得力のある広告といえるだろうか?」と疑問を投げかけ、その点からこの広告に疑問を呈してもいます。
広告の評価は人さまざまですから、どんな珍説がでてきても驚きはしませんが、私は、これらのシリーズが、ウルフシュミッツ・ウオッカの売上げをあげたこと、しかも人びとがこれらの広告を楽しみながら読んだことから、成功したキャンペーンであると判定します。


>> 12-3「14のテクニック」に続く