創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](12-了)


後送りしたままになっている、第8章 コピーのユーモア と、第11章 コピーの信頼 は、近いうちにアップして完結させましょう。


>>[効果的なコピー作法]目次


第12章 銘柄の区別(了)



     
    「きれいで無邪気な、
 水のお嬢さん
 なんという自信屋さんだろう」
     
「ウルフシュミッツ。
 こんなこと、
 あたし、
 しないわ。
 あなたの味は
 いかすから。」
   
     
  「あたしを
 ぎゅっと
 抱いてくれない?」
 


クレイジー・ウォーター(水がこんなに美味しかったことはない)

美味しい水、冷たい水、これぞ---「クレイジー・ウォーター」(ウルフシュミッツ・ウォッカ、水、氷にレモンを絞って入れる)ウルフシュミッツは、純正でよき時代のウォッカ特有の微妙な味わいをもっています。水がこんなにおいしかったことはありません。え? 水はお嫌いですって? 好きになりますよ。





     
    "Pure,innocent
water.
What a setup."
"Woldschmidt,
I wouldn't do this with
any other vodka.
You've got taste."
   
     
  "Can you
squeeze me
in?"
 


”Crazy Water"(Water never tasted this good before.)


Delicous water cool water---Crazy water(Woldschmidt vodka, water, ice, lemon squeezed in).Wolfschmidt Vodka has the touch of taste that marks genuine old world vodka. Water nevertasted this good before. What's that? You don't like water? Now you will.

創造性が解決(12-4)


さて、デボーが挙げた14項目のうち、残ったテクニックの2,3を解説しましょう。


(2)の証言を利用するやり方は、第11章の「コピーの信頼」の章でも述べました(未紹介)。銘柄特長よりも、証言する人の興味で読ませる広告です。


(3)の共通の製品利点を先に活用するやり方は、広告コピーの歴史のなかに、数多くの成功例があります。


そしてこれは、競争製品とさしたる差異のない製品を広告しなければならない今日のコピーライターにとても、有用なテクニックでしょう。


成功例の典型的なものの一つに、 クロード・ホプキンス Cloude Hopkins が指導して展開したシュリッツ・ビールの広告があげられましょう。


コピー・アイデアをさがしてビール工場を見学したホプキンスが、これは読者の興味をひくと考えたのはビンに蒸気を吹きこんでピン洗いをし、発酵を防ぐ工程であったそうです。


どのビール工場でも同じ工程をとっていたので、経営者は「ビン洗い」が広告主張になるとは気づかなかったのです。そしてく清潔>というイメージをシュリッツ・ビールにつけ加えたというのは、あまりにも有名な話です。


多くの競争製品は内容的にほとんど変わりがないとしても、消費者のほうは知らないことが多いし、消費者が各製品について持っている知識は不完全ですから、広告主がその製品で共通する特長を先取して、あたかもそれが自社の製品にだけしかないように広告するのは賢明なテクニックでしょう。


PKLの制作哲学として、ロイス氏が「私たちは公式に頼らない。私たちは製品を研究し、そこでねはり、そして議論なんかしないで、広告をつくる」と言っていますが、これも、共通の製品利点を先に活用するやり方を指しているとも思えます。


(5)の消費者の悩みに新しい名を創案するやり方については、もうおわかりでしょう。ボネカという胃腸薬のために、上野壮夫氏が「ガソ年齢」ということばを創案したのほ最近のことです。
東芝テープレコーダーのために、蟻田善道氏は「録勉」という新語をつくって学習に苦労している学生たちに光明を与えました。


問題は、そうした新造語と銘柄とをどう結びつけるかでしょう。
「マネー・ビル」というのは、ある証券会社の発明になることはですが、最近、ある若いコピーライターの試作を読んでいたところ、別の証券会社のための広告コピーにこのことばが使ってあったので、おどろいてすぐに注意してあげましたが、ライター自身の不注意もさることながら、自社の銘柄(?)との結びつけを忘れていた広告主の手ぬかりにも原因があります。


とくに証券会社のように、まったく同類の商品を販売している場合には重要でしょう。


(7)のシンボルを用いるやり方で、私の成功例をご披露しますと(当時)創刊された雑誌「太陽」の発売キャンペーンです。ご記憶の方もいると思いますが、新刊誌「太陽」のシンボルとして太陽のイラストを使い、さらに各分野で名前の売れている人たちに、それぞれご自分の太陽の絵を描いてもらって、シンボルと誌名(銘柄名) とを一致させました(この中に、こっそり旧友の開高 健君も加えました)。

さらに、広告の見手に、「あなたの太陽を描いてください」と、シンボル・マークの太陽の上に四角な桝をつくって、そそのかしもしました。
出版界ではそれまで、シンボルを用いるやり方がほとんど使われていなかったので、成功したともいえます。
蛇足ですが、この広告はその年の朝日広告賞(企業側への賞)を受賞しました。たしか、東京ADC金賞もいただいたんではなかったかな。アートディレクターは白井正治さん。


(8)のトレード・キャラクターを創造するやり方は、すでに数多くの実例があります。不二家のペコちゃん、キッコーマン醤油のキッ子さん・・・などなど。


(11)の反復を用いるやり方は、第9章の「コピーの強調」で「主要なアイデアをことばにかえて,そのことばを反復登場させる」やり方として紹介しています。


この章のテーマは、く銘柄競争>下において、製品の側に銘柄を際立たせる点がない場合にとるテを述べました。


しかし、これはあくまで広告上で相違をつけることであって、製品に物理的相違点があれば、そして、それが消費者に意味のあることであれは、むしろ、その方をとりあげるべきであるのは、いうまでもありません。


また、とるべきテも、ウルフシュミッツの例で紹介したように、いくつかのテクニックを組み合わせて使った方が有効であるのは、もちろんです。


そうはいっても、この章のテーマは、広告の世界では永遠に解決しない問題かもしれません。


理論がわかっても、ここには、偉大な創造性にまたなければならないことが多くあるからです。偉大な創造人だけが、勝利を得るといっては、いいすぎでしょうか。