創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](12-1)


第11章 コピーの信頼 をあとまわしにして、第12章を先にしたのは、この章に引いた広告のコピーライター---ジュリアン・ケーニグ氏(写真)のスピーチを、この4,5日あとにもってきたかったからです。
しかし、躊躇もしました。スクラップしておいたはずの広告が行方不明で、モノクロでしか引用できないからです。以後、引用する分も、すべてカラーで発表されました。そうでないと、この銘柄を短期間で有名銘柄にのしあげられなかったでしょう。
ことあるごとに、いい広告とは、製品なり企業に人格を与えたもの---といっている、一つの例証でもあります。


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第12章 銘柄の区別


似たような品質、同じような値段の競争商品との間に、
ハッキリした銘柄の違いをつけるには、コピーライター
はどうすべきでしょう?
このスフィンクスの謎のような問題も、実際には、数多
の天才たちによって、みごとに解決されています。
この章では、ウォッカという、無味・無臭・無色が特長
の商品を、PKLの天才たちがどうやったかを、具体的
に解説。



「かわいいお嬢さん。ほんとにカワイ子ちゃん。ぼくの趣味にピンとくるね。ぼくがきみのいいところをひき出して有名にしてあげよう。こっちに転がってきて、キスしようよ」 「先週ごいっしょだったトマトさんとは、どうだったの?」


ウルフシュミッツ・ウォッカは、純正でよき時代のウォッカ特有の微妙な味わいを持っています。スクリュー・ドライバーに使われたウルフシュミットは、オレンジを恍惚とさせます。ウルフシュミッツは、ひと口ごとに最高です。




"You sweet doll, I appreciate you, I've got taste. I'll bring out your inner orange. I'll make you famous.Roll over here and kiss me." "Who was that tomato I saw you with last week?"


Wolfschmidt Vodka has the touch of taste that marks genuine old world vodka. Wolfschmidt in a Screwdriver is an oranle in ecstasy. Wolfschmidt brinlgs out the best in every drink.


     
「きみは、たいしたトマトだよ。2人で美味しいブラディ・マリーがつくれるよ。ぼくは、その辺の連中とはできが違うんだからね」  
  「あなたって好さよ、ウルフシュミット。あなたって、あれがいかすんだもの」


ウルフシュミット・ウォッカは、純正でよき時代のウォッカ特有の微妙な味わいを持っています。ブラディ・マリーに使ったウルフシュミットは、勝ち誇ったトマトの味です。ウルフシュミットはひとロごとに最高の味わいです。




     
"You're some tomato. We could make beautiful Bloody Marys together. l'm different from those other fellows."  
  "I like you, Wolfschmidt. You've got taste."


Wolfschmidt Vodka has the touch of taste that marks geunine old world vodka. Wolfscmidt in a Bloody Mary is a tomato in triumph. Wolfschmidt brings out the best in every drink.

ある受賞(12-1)


1963年4月30日に、パパート・ケーニッグ・ロイス(PKL)代理店(現存していない)の筆頭副社長兼クリエイティブ・ディレクターのジョージ・ロイス氏(写真)がNSAD(National Society of Art Direct0rs 全米アートディレクター協会)から、その年度の『アート・ディレクター・オブ・ザ・イヤー』に指名されたとき、とどまるところをしらぬ冗談と、子犬のような精力の持ち主である、この1931年6月26日生まれの、もしゃもしゃ頭で長身の男は---
「賞なんか、みんな廃止されれば、どんなにいいだろう。しかし、人類は変わりはしない。再生されてくるだけだ」
といいきりました。
広告界には、賞反対者がたくさんいます。反対理由は人それぞれに違いましょう。
ロイス氏のことばを借りると「その人たちは、賞がとれない人たち」である場合が多いようです。しかし、ロイス氏は、そうした、素朴な反対論者ではありません。彼の頭上には、数多くの賞が輝いているのです。
ロイス氏はいいます。 「大切なことは賞をとることではなくて、製品を売ることである。そして私たちは、賞反対論者と同様に、あるいはそれ以上に製品を売り、賞も得る」
さて、 ロイス氏がつくった広告のなかで、製品を売りかつ賞もとったキャンペーンの一つが、引例のウルフシュミッツ・ウォッカの擬人化シリーズです。
ウルフシュミッツは、シーグラムウイスキーで有名なゼネラル・ワイン&スピリッツ社から発売されているウォッカで、PKL社が広告を手がけるまでは、さして名のとおった銘柄ではありませんでした。
それが、PKL社の社長兼コピーライタ-、ケーニグ氏とロイス氏の手にかかるや、一躍有名になったのです。
どんなふうに成功したか、1963年 5/6月号の『プリント』誌によると、


ある一流のウォッカのための広告は、無味・無臭という主張を強調している。これに対抗するウルフシュミッツのキャンペーンを展開するにあたって,
PKLはこの主張に「しがみついて」も、なんのトクにもならないと考えた。
それよりも、ウルフシュミッツを味の「ある」ウォッカとして広告しては?
(本当に味があるのだから) 「昼食の後で、息の臭さからボスに喚ぎつけられるのを恐れるばっかりに、ウォッカを飲まない人も、現にいる」と、アートディレクターのジョージ・ロイスも言っているように、ほんとうに味があるということを強調することにしたのである。
何をいったらよいかという問題は片づいたが、どういうかという問題が残った。


広告においては、何をいうべきかと同時に、いかに表現すべきかということも、大切なのです。多くの場合、この、いかにいうかが忘れられてしまって、広告主の主張のみがガツガツと書かれがちです。
さて、PKLは、どうしたでしょう。冒頭の引例の広告をもう一度、読んでみましょう。


かわいいお嬢さん、ほんとにかわいいひと。
ほくの趣味にピンとくるね。
ぼくがきみのいい所をひきだして有名にしてあげるよ。
こっちに転がってきて合躰しようよ


   「先週ご一緒だった、
   トマトさんとは、どうだったの?」


ウルフシュミッツ・ウォッカは、純正でよき時代のウォッカ特有の微妙な味わいを持っています。スクリュードライバーに使われたウルフシュミッツは、オレンジを恍惚とさせます。ウルフシュミッツは、ひと口ごとに最高の味わいです。


つまり、PKLはウルフシュミッツのびんに、ウォッカと女と歌が好きで、ちょっぴり、ほら吹きの男のを設定したのです。
このコピーは、畏友・出口哲夫(NDC)君の研究によると、タレント・スカウトの常用語をもじったものだそうです(いまふうにいうと、「ちょい悪オヤジか」)


そういえば、ウルフシュミッツのコピーはすべて、二重の意味(ダブル・ミーニング)を持っています。tasteということばには「味」という意I味と、ひどくワイセツな意味とがあるようです。
それでいて、一連の広告でも、ちゃんと、ウォッカの呑み方を示しています。
(冒頭に引例のカラー分は、第41回のニューヨーク・アートディレクターズ・クラブ展で部門賞を得たものです)


【注】切り抜きメディアは高級週刊誌『ニューヨーカー』から。


>> 12-2「銘柄競争」に続く

ジョージ・ロイス氏のインタビュー


ジョージ・ロイス氏、
『エスカイヤ(エスクァイア)』誌の表紙を語る(上)(下)


from "1978 Annual of Art Directors Club of New York"
ジョージ・ロイスへの道(123456)


ロイス氏のエッセイ
  >「ぼくは、コンプスに信を置かない」
  >「あなたはマッズォズをおつくりなさい。広告はぼくがつくります。」
  >「すばらしいコピーライターといっしょに働くことができるなら、ぼくだって良い広告がつくれるさ」
  >ぼくの建物コンプレックス
  >マーケティング志向
  >良い広告のための8章
  >セールスのためのアートと---
  >テレビ広告

>>ジョージ・ロイス氏からのメッセージ


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