創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(403)ジム・ダーフィ氏とのインタビュー(5)

   カール・アリー社 社長 兼 コピー・ディレクター(当時)



インタヴューの記録の著作権は、インタヴュアー(質問者)に属するか、答えた発言者側にあるかは、微妙です。受けた側が記録をチェックした場合とか、金銭が支払われたかどうかも論点になるでしょう。ただし、ダーフィ氏は、英文の記載も強く望み、チェックも入念に行った結果が、掲示した英文です。でも、ただの一語の返答では、この場合は、読む側にはなんの面白みもありません。そこで、会見から数十年経っているので、発言者の権利は時効---という勝手な論理で、日本語の部分をカットなしで公開しました。それによって、なぜ、ダーフィ氏が発言を削除したか、つい気を許してカール・アリ一社の秘密の部分を言い過ぎたと思ったか、こんなことは米国の広告界では常識だからと判断したのか、理想論を述べてしまったとをはにかんだか---読む側それぞれのご判断にまかせます。インタヴュアーの力量は関係ありません。)


カール・アリー社の方法


chuukyuu 「カール・アリ一社へいらっしゃって以来、用意したキャンペーンが不採用になったケースはありませんか?」


ダーフィ氏 「もちろんあります。でも、私たちのつくったキャンペーンで採用されなかったということはまれですよ。
その理由は、私たちのやっている仕事が非常にいいからだということじゃなくて、私たちの方法のせいなんです。実際私たちのやっている仕事もいいのですが、私たちのキャンペーンが不採用にならない理由は、むしろ私たちの仕事の内容ではなくて、その方法のゆえなんです.
どういうことかと言いますと、第一には、私たちはそれぞれの役割、コピーライター、アートディレクター、アカウントマンといった役割がはじまる以前に、アドバタイジングマンなんだということをさっき言いましたが、まずこの考えかたで問題を見るようにします。
そのほかには、クライアントと接触するここ独自の特殊な方法といいますか方式があるのです。これには3つの段階があります。
これは、新しいクライアントと話をはじめる場合にも、前からのクライアントで新しいキャンペーンをはじめる場合にも、すべてに共通です。
で、3つの段階を通じて、必ずクライアントがその会議に参加します。


その第1段階では、とにかくインフォメーションを全部集めます。インフォメーションを集めてみて、まだ何か足りないものがあるとすればリサーチをさせます。とにかく基本的なインフォメーションを全部集めて交換するということです。
マーケティングの問題、対象とする消費者の問題、とにかくありとあらゆる情報を書き出してお互いに交換します。これが第1段階です。そしてその第1段階でクライアントの間でお互いに同意をしあうわけです。これで現在入手可能なありとあらゆるインフォメーションと、そして問題があればその解決方法を、すでに現時点で考えられるだけ全部出しきったという同意をお互いがかわすのです。


第2段階では、第1段階で確認されたインフォメーション、および問題があればその解決方法、これに基づいて実際の具体的なキャンペーンの方法を考えていきます。
どういうことを、いつ、誰を対象にして言えば、どういう結果が起きるだろうか、というような計画を立ててみます。 もちろん、この計画は代理店脚でやるんですが、この計画ができましたらまたクライアントと会議をやります。
これは方法の問題ですから、第1段階で得たインフォメーションを、第2段階ではどんなふうに使っていって, どんな売りかたをしていくのかということに関して意見をとりかわします。
もちろん、ここで意見の一致、不一致がありますが、結果的には両者がある点に到達して、お互いに同意するわけなんです。
しかし、まだこの段階ではアドバタイジングということは全然はいってきていません。


そこで3番目の段階になって、やっといわゆるアドバタイジングとなります。具体的な表現の問題です。第2段階でお互いに同意し、クライアントが承認した点、これをどんなふうに表現するかという問題です。
考えてきたものを持っていってクライアントに見せる---これが第3段階です。これはもう当然ある程度予想されたものを持っていくんで、クライアント側にとってまったく驚くようなものを持っていくということはあり得ないのです。
というのは、第2段階目でもうお互いに相談しあって決めた戦術を実行するという段階ですから、クライアント側はだいたいどういうものがプレゼンテーションで出てくるかということは、ある程度予測しているからです。
ですから、クライアント側の意思にまったく反するというようなものが出てくることはありませんし、そういうわけで私たちのつくったキャンペーンが採用にならなかったというケースはありません」


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