カール･アリー社 社長 兼 コピー･ディレクター(当時)
広告史上、有名なレンタカー合戦の反攻の狼煙をあげた、1位ハーツ側の広告がこれです。エイビスのモノクロに近い姿勢を踏襲して、こちらもモノクロ。狼煙はモノクロでも識別できますからね。1966年11月にニューヨークして訪問して多くの広告人を取材したとき、逆に先方が異句同音に「ハーツの新しい広告をどう思うかね?」「カール・アリー社がはじめたキャンペーンを見た?」と訊かれました。その返事は、口にこそ出しませんでしたが、マジソン人士がはやしたてているほど、ハーツ･レンタカーの『ここ数年来、エイビスはハーツがNo.1と言い続けてきました。いまこそ、その理由をお話ししましょう』と言う広告を、ぼくはそれほど買っていませんでした。理由は、世間には、1位の企業ではたらいている人数よりも、2位以下の企業群に従事している人口のほうが圧倒的に多い---でした。)
自慢の作品は、ボルボ、テンサー、ハーツ(2)
chuukyuu ｢この2〜3年の間に、あなたがおつくりになった広告の中で最も気に入っているものを2点あげてください｣
ダーフィ氏「ハーツ･レンタカーの広告の背後にあるストラテジーについてお話します。
ハーツ---ハーツの広告は、広告自体がすべてを物語っています。エイビスは長年にわたって、ハーツの客あっかいが粗雑だと暗示してきました。この広は『レンタカー大戦争』として有名な対決シリーズの第一弾でした。これはエイビスにその広告を変えさせ、ハーツの歴史始まって以来、最初の攻撃的な広告となりました」
ここ数年來、エイビスはハーツが1位だと言いつづけてきました。
いまこそその理由をお話しします。
私たちが1位なのは、あなたが行こうとなさる場所へ行くためのよりよいお手伝いができるからです。
●あなたが必要とされる場所で借りられます。
車を借りることの第一歩は、車のある場所へ行くこと。ハーツだと、ほかのレンタカーよりも簡単です。
ハーツは米国内の主要空港はもちろんのこと、そうでない空港にも受付を配置しています。あなたはモンタナ州ホワイト･フィシューいらしたことがおありですか? いらした方もあるんですよ。ハーツの車を待たしてね。
どんな小さな空港にでも、民間航空が乗り入れてさえいれば、100のうち97までは20分以内のところに営業所を出しています。
またハーツは全主要都市の市街地とその郊外に営業所をもっています。
あなたのご旅行なさるのは、市街地に限られているわけではないのですから、当然ハーツの営業所配置も市街地だけではありません。田舎にも、また国外にもあります。
人ロ100人余のサウス･カロライナ州ウインデーヒル･ビーチ、人口2,059人のアフリカのマラウイにあるチチリにだってハーツはあります。
ぜんぷひっくるめて、世界2,900ヶ所にハーツは営業所をもっているのです。そこで、あなたは車を拾ったり、乗り捨てたりできるというわけです。これ牡｢2位｣のほぼ2倍にあたります。
●おいでになれませんか? では当方が参上します。
米国中の主要ホテルおよびモーテルにハーツのマークのついた専用電話が置いてありますから、受話器をおとりください。ただちに玄関先に配車いたします。タクシーを拾うんだって、こう簡単にはいかないときもあるでしょう?
●お望みの車種は?
赤いコンバーチブルが借りたいのにベージュのセダンで我慢しなきゃならないなんてことは、ハーツだと比較的少ないはずです。ハーツは｢2位｣よりも2倍も多く革を保有していますから。
車の数が多いだけでなく、フォード、ムスタング、サンダーバード、リンカーン---そのほか各車種をそろえてお気に召すようにしています。
旅行の機会の多い方なら、旅というものにウンザリしていらっしゃるはずだということをよく知っているので、あなたをすこしでも楽にしてさしあげるために、ハーツはすこし無理をしました。シェG.T350-Hです。あなたが車に強い方なら、これこそ車の中の車だということがおわかりになるでしょう。
●受けられるサービスの数かずは?
ハーツのであれ、他のであれ、新車をお借りになるときはそれがピカビカに新しく、いまにも走り出さんばかりにして目の前に待っていることを期待なさるでしょう。
この点では、ハーツはこの競争での優勢を主張はいたしません。テキもときどきへマをやりますが、私たちもやるからです。
でもハーツがヘマをやると騒ぎはより大きいのです。大きなところはへマをやらないと誰でも考えているからです。ハーツのサービスが万が一。ハーツのサービス基準に達していなかったら、お客さまに50ドル相当分まで車をお使いいただきます。もちろん、お詫びの言葉もそえて。
｢2位｣は25セント硬貨1枚とお詫びの言葉でしたね。そして｢これ以上は無理だ｣と広告しましたね。
ハーツはそうは考えないのです。ハーツはこれ以下は無理なんです。しかも、この50ドルは営業所長所管の予算から出るのです。ですから彼は非常に油断なく警戒するわけで、したがってハーツのサービスも万全ということになるのです。
●専用の連絡網(ホット･ライン)
いま、あなたがある都市から別の町-飛行機で行くとして、着いた時にちょうど車が待っていて、しかも発つ時に確実に車がほしいとお思いなら、ハーツがいたします。迅速に、米国内1,038の都市で。ほかのレンタカー会社ではこんな宣言はできません。
ハーツがこんなことができるようになった大きなわけは、最近、世界で最大の専用電子計算機をそなえつけたからなんです。
ともあれ、いまや超音速ジェット時代が目前に迫っており、大陸間1時間飛行が予見される今日、とにかく迅速な答えが必要とされているのです。ハーツは、今日、それをお約束します。
ハーツには日数勘定、連行距離勘定、週末契約、週契約、月間契約、クレジット運用契約、その他さまざまの借り方があります。
ハーソがこんなにたくさんの料金制度をもっているのには、2つの理由があるからです。
まず、つねにトップの位置を保つため。さらにもっと多くの人に車を借りていただくためです。
ハーツの車をお借りになるときはハーツ･ガールにどの位の期間車をお借りになりたいか、また、だいたいの予想走行距離をおっしゃっていただけばよいのです。
ハーツ･ガールがあなたのためにいちばん安上がりの料金を計算してくれます。彼女たちはハーツの料金台帳からそれを割りだすのです。それには、はっきりと、こう大書してあります。｢ハーツの人間は、あらゆる計算をもとに、適切にして最も安い料金を適用しなければならない｣
●クレジットについて
主要会社のクレジット･カードなら、ぜんぶご利用いただけます。
●能率的な仕事ぶり
もしあなたがど自分で会社を経営していらしたり、あるいはその社員でいらっしゃるなら、清算というのがどんなものかど存じでしょう。
あなたの会社にハーツから車を借りさせてください。そうしたらハーツがその清算をお手助けしましょう。支払方法は御社のしきたりでけっこうです。ハーツが合わせます。
1回々々でも、月極めでも、分割でも、個人負担でも。
●さて｢一生懸命にやっています｣とは?
｢2位｣は、一生懸命にやっていると言っていますが、だれよりもでしょうね?
For years, Avis has been telling you Hertz is No.1.
Now we're going to tell you why.
We're No.1 because we're better at helping you get to where you're going.
A car where you need it.
The first step in renting a car is getting to the car. Hertz makes that easier for you to do than anybody else.
We'er at every major airport in the United States. And at some airports that are not so major. Ever fly to Whitefish, Montana? Some people do. And have a Hertz car waiting.
No matter how small the airport you fly to, if it's served bya commercial airline, 97 chances out of 100
it's also served by Hertz or by a Hertz office within 20 minutes of it.
We also have locations throughout the dCHvntown and suburLan areas of every major city.
And because you don't restrict your travel to city areas, we don't restrict oUl'10cation-s to city areas. We're also out in the country. And out of the country, too. Windy Hill Beach, South Carolina has a population of 100. It has a Hertz office. Chichiri, Malawi in Africa has a population of 2,059. It has a Hertz office.
In all, Hertz has over 2,900 places throughout the world where you can pick up or leave a car. Nearly twice as many as No.2.
Can't come to us? We'll come to you.
We have a direct-line telephone in most major hotels and motels in the U.S. It's marked HERTZ and it's in the lobby. Pick it up, ask for a car, and we'll deliver one to the door. You often can't get a cab as easily.
What kind of car would you like?
When you rent from Hertz, you're less likely to get stuck with a Leige sedan when you want a red convertible. We have over twice as manv cars as No.2.
Not only is our fleet big, it's varied. We do our best to give you what you want. From Fords, to Mustangs, to Thunderbirds, to Lincolns and everything in between.
And because we know that travel can be a bore if you travel a lot, we've even got something to ease your lot. The Shelby G.T. 350-H. If you know what cars are all about, you'll know what this car is all about.
What kind of service will you get?
When you rent a newcarfrom us or anyLodyelse, ~ou expect it to be sitting there waiting, ready to go, lookmglike new.
On that score we claim no uperiority over our competition.They goof once in awhile. Are goof once in awhile.
Except when we goof it bothers us more because people don't expect the big one to goof. And to make up for it, if our service is not up to Hertz standards we give you $50 in free rentals." Plus an apology.
, No.2 gives a quarter plus an apology. And advertises that he "can't afford" to do more.
We feel the other way about it. 'We can't afford to do less. Besides, the $50 comes out of the station manager's local operating funds. This tends to keep him very alert... and our service very good.
Hot line.
When you're in one city and you're flying to another city and you want to have a car waiting when you arrive and you want it confirmed before you leave, we can do it for you. Instantly. In anyone oF 1,038 U.S. cities. No other rent a car company can make that statement.
The major reason we can do it is because we recently installed one of the world's largest private electronic reservations systems.
After all, with the supersonic jets in sight and one hour coast to coast flights in prospect, you'll need some quick answers.
We can give them to you today.
About rates.
We probably offer more kinds of rates than you careto know about.
You can rent a car from Hertz by the day and the mile. by the weekend, by the week, by the month, by gift certificate, by revolving cred it, by sundry other ways in between.
We offer all these rates for two reasons. To stay ahead of competition. To get more people to rent cars.
When you go to rent a Hertz car just tell the Hertz girl how long you want the car and roughly how much driving you'll he doing.
She'll figure out the rate that's cheapest for you. She'll figure it from our rate book that states loud and clear, "HeItz people must use the lowest applicable rate on all calculations."
About credit.
If you've got a national credit card with most any major company, you've got credit with us.
A businesslike way of doing business.
If you own your own firm or are instrumental in running a finn, you know what a nightmare billing can be.
Have your company rent from us and we'll help ease that nightmare. We can even tailor our billing cycle to fit your paying cycle.
We'll bill by the rental, by the month, by division, by department, by individual, and by blood type if it'll help you.
And now about trying hard.
No.2 says he tries harder. Than who?
【chuukyuuのapology(陳謝)】
1967年6月20日に講談社ミリオンブックスという新書版『No.2主義宣言』と題した著書を上梓しています。
ダーフィ氏には失礼にあたるともおもいましたが、あのころのレンタカー合戦を説明するには、ちょうど手ごろと思えたので、少々引用します。
「私たちは、もっと一生懸命にやっています」
あなたの会社は、業界で最大ですか?
あなたの会社の名は、多くの人びとによく知られていますか?
あなたの会社の業績は、うまくいっていますか?
これは、そうでなかった会社の物語です。
その会社は米国のレンタカー会社「エイビス」。そして、いまなお死闘をつづけている広告合戦記です。
数年前の1962年度に、125万ドル(約4億5000万円=当時の為替レイトで換算。以下同)の赤字を出したエイビス社を買いとったフレレス氏は、経営陣を一新するとともに、本社をボストンからニューヨーク州のガーデンシチーヘ移し、新しい広告代理店に広告戦略をまかすことにしました。
当時のレンタカー業界は、2億5000万ドル(900億円)の年開売り上げを記録L このうち、2億1000万ドル(756億円)が短期レンタルによるものでした。
そして、この業界を牛耳っていたのが、ナンバー・ワンの「ハーツ」でした。
短期レンタルで比べると、
ハーツ 6400万ドル(230億円)
エイビス 1800万ドル( 65億円)
エイビス は4倍近くも引き離されていました。
しかもハーツは、年間800万ドル(28億8000円の広告予算をつぎこんで名を売りこんでいました。28億8000万円の広告費を単純に比較すれば、日本では上位50位ぐらいの広告主の広告費でしょう。
これに対抗するためにエイビス側は、広告予算を前年より55パーセント引き上げて、海外プロモーション費を含めて約612万5000ドル(約22億500万円)支出することをきめたのです。
全米1800の営業所から「エイビスという会社をもっと広く知らしてほしい」という要望が提出されていたからでもあり、4億5000万円の赤字を克服するには、営業活動を活発にする以外には道はない、と結論されたからでもあります。
さて、エイビスの22億500万円の広告予算のうちの米国内向けの大金をまかされたのは、DDB(ドイル・デーン・バーンバック)という広告代理店です。
DDBは戦後間もない1949年6月1日に創業した代理店ですが、「ウソを広告してはいけない。正直に話せば人びとはその広告を信じてくれる」という信念を実践して、17年間で世界9位にまで急成長していました。
DDBのエイビス・チームは、一方ではいろんな調査活動をすすめるとともに、もう一方では、制作チーム(コピーライターとアートディレクターのコンビ)が、DDBお得意の「足による取材」を始めました。「足による取材班」は、経営陣に会ったり、営業所へ出向いて行って、受付カウンターの娘たちと話しあったり、駐車場に並んでいる車を調べてなにやらメモをとったり、配車係と客との応答を見たりしました。
エイビスのタウンゼンド社長を取材したときは、こんなふうに会話がすすみました。
「エイビスの車は、一位のパーツと比べて、新しいですか?」
「いいえ」
「料金が安いのですか?」
「いいえ」
「お宅とパーツのあいだには、なんの違いもないのですか?」
社長は、ちょっと考えてから、
「私たちは、もっと一生懸命にやっています」
調査部からの報告は、取材班をもっとがっかりさせました。大衆は、エイビスはレンタカー業界で、まちがいなく2位だと答えたというのです。
エイビス・チームは、幾度も幾度も会議をもちました。しかし、いつも帰結するのは、「エイビスは、業界で2位だ」という事実と「私たちは、もっと一生懸命にやっています」というエイビス社長の言葉でした。
ある日の会議で、ひとりがポツリといいました。
「エイビスは、レンタカー業界で2位にすぎません。だから『一生懸命にやります』」
みんなは、ぎょっとして、その女性のほうを見ました。太い黒ぶちめがねをかけた中年のその女性は、生来の赤ら顔をもっと赤くし、目をパチパチさせ、すこし出っ歯の口から、
「あたし、なにか言って?」
「いいや、ポーラ」
ポーラ・グリーン女史は私に「そうじゃないのよ。バーンバック社長のところへ相談に行ったのよ。そしたら、ビル(バーンパックの愛称)が、『2位なら2位だっていえばいいんだよ』って言ってくれたのよ」と弁明してくれました。たしかに、グリーン女史は、バーンバック社長の助言で、「エイビスは、業界で2位のレンタカーにすぎません。だから、一生懸命にやります」という名セリフを考えついたのでしょうが、まさかこんな言葉が、米国中の人たちを興奮させ、エイビスの赤字を解決しようとは、そのときは思ってもみなかったのです。
翌日、彼女とコンビを組んでいるアートディレクターのヘルムート・クローン副社長が、彼女の個室へやってきて、
「ポーラ。あのセリフはいいよ。すてきだよ」
と言いました。
「ねえ、ヘルムート。あとを、こうつづけてみたのよ」
ポーラは、タイプライターから一枚の紙を抜きとりました。
「私たちは、一生懸命にやります。(だれでも最高でないときはそうすべきですものね)
私たちは、汚れた灰皿をがまんできないのです。満タンにしてない燃料タンクも。それから、。
いかれたワ千パーも、洗車してない車も、出かけタイヤも。調浦きないシート、暖まっていないヒーター、曇りをとらないデフロスター……そんな車をお渡しするわけにはいかないのです。
はっきりいって、私たちが一生懸命やっているのは、すばらしくなるためです……。
この次、私たちの車をお使いください。
すいていることでもありますし」
クローン副社長は、度のきついめがねを光らせながら、自分の個室へ帰っていきました。
そして、憑かれたようにスケッチを描き始めました。
「美しい写真がなくったって……。大きな写真を使わなくったって……。言っていることが真実なら、人は信じてくれるだろう」とつぶやきながら。
art director;Helmut Krone
copywriter;Paula Greenこうしてできたのが、上の広告です。彼は、それをエイビス・チームの人たちに見せました。
みんなは、ショックを受けました。
自分たちよりも強いものがあるということを真正面からとり上げた広告なんて、それまで見たことも聞いたこともなかったからです。
ショックが鎮まったとき、だれかがいいました。
「見ているうちに、この広告がだんだん好きになってきたよ」
