創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(324)ボルボの広告(18)


コピーライターのすこしばかり先達として、「どうやればうまくなれるか?」と、よく訊かれた。小林秀雄師「若き小説家志望者たちへ」(タイトルはうろ覚え。書庫で現物を捜すヒマがないのでゴカンベン)で、
1. 好きな作家の作品を原稿用紙に写せ。作家の息づかいがわかる。
2. たくさん読め。
3. たくさん書け。
いろんな人が、いろんな説をとなえているが、これ以外にない。ただ、人はつづけられないから、次々に新手の助言を求めるのだ---と。
この2年間、1,000点近いすぐれた好例をあげてきた。みんなホンモノである。中の10点か20点を選んでじっくり書き写すだけでも、コピーライターとして数段充実するとおもうけど---。そうそう、質屋(いまはリサイクル・ショプというんだっけ)のオヤジさんが新人店員の教育には、ホンモノだけを見せたという。


>>『ボルボ〜スウェーデンの雪と悪路が生んだ名車』目次


第4章 「世界最高の安全車」といわれるために
主任テスト技師に安全性を聞く(4)


精神状態の安全設計

これで、ボルボ社が伝統的にそして先進的に採用してきている「安全性」の、[主任テスト技師に安全性を聞く]インタヴューの項を終わるが、私個人としての一つの感想を付け加えたい。
ストックホルム果物店で、私は、好物のバナナを買うために店のドアを押した。
ちょうど日曜日であったが、中年の女店員がひとりで客をさばいており、先客は3人いた。
偶然、書店員と目が合ってしまったので、私は「えーと---」と用件を言おうとした。
すると彼女は、
「待っていてね」
と、先客のほうへ行ってしまった。
待っていると、また2人の客が入ってきた。
すでに、3人の先客は順々に出ていた。
私の英会話はほめられたものではない。
私は、あとから入ってきた2人の客をやりすごしてから用を足そうときめた。
運よく、2人のうちの1人が、さっと前へ出て女店員に話しかけようとした。すると、別の1人が、
「君の番じゃない。彼が先だ」
とも私をうながした。
仕方なく私は、女店員と相対し、シドロモドロ注文し、値段を訊き、代金を払った。つり銭とバナナを渡してくれた女店員は、きちんと私に正面して、
「ほかにありませんか?」
と問い、
「ない」
と答えると、
「あれりがとう」
と言って次の客のほうへ移ったのである。
これとまったく同じ経験を、私はマルメ市でもコペンハーゲンの菓子店でもした。
車がいかに完璧な「安全設計」をしてあっても、運転するのは人間であるから、人間の気分というか気風というか、精神的な状態も「安全設計」になっていなければ、結局のところは、どうしようもないのではないだろうか?
(この章、つづく)


カール・アリー広告代理店が制作していたころ---1962〜66の広告。


この車は、車嫌いの人のためのものです。


だれかれかまわず車の話をもちかけてごらんなさい。車にはうんざりさせられる---って答えが返ってくるにきまっています。いろいろ手入れはしなきゃならないし、修理費も工面しなければならないし、ガソリン代、ガソリン代、ガソリン---その上、2,3年ごとに車を下取りに出し、それでまたお金がかかり、くる年もくる年も車の支払い、支払い----こうお感じになっている人でも、もっとも満足のいくボルボの所有者におなりになれば、その悩みは解消します。
ボルボは、月賦が終わってから、さらに5倍もの長い期間もちます。道路の80%が未舗装、ハイウェイでの速度制限なし、冬期の気温が摂氏マイナス30℃まで下がるスウェーデンで、ボルボは平均11年間も乗りつづけられているのです。
8,9、車の月賦なしでいたいとお思いになりませんか?
ボルボのエンジンは、のべつまくなしの修理、調整は不必要です。シンプルでベーシックなエンジシで、巧妙なしかけや『改良』などなし。『スポーツカー・グラフィック』誌はこう書いています。
ボルボのB-18エンジンは、最高とはいえないまでも、今日、もっとも信頼がおけて、頑丈で、故障のない自動車エソジソのひとつであるといえる」

スウェーデンでは、ガソリンは1リットル55円強かかります。ですから、ボルボは1リットルで十キロ強走って、その苦しみをかなり和らげているわけです。
ボルボは、ほとんどのコンパクトカーのように鈍重ではありません。四車種とも、ほかの普及価格のコンパクトカーよりも遠く走ります(スウェーデンのハイウェーには、速度制限制がないということをお忘れなく)。
しかし、ボルボをお求めになれば、不平の対象を車以外のものに向けなければならなくなりはしますが、ね。


媒体『ライフ』誌 1964年11月6日




This car is for people who don't like cars.


Bring up the subject of cars to a lot of people and they'll tell you cars are a pain in the neck. They'll say you have to tinker with them; lay out money for repairs; buy gas, gas, gas; trade every two or three years, lose money on the deal and make payment after payment, year after year after year. People who feel like this end up being the most satisfied Volvo owners of all.
Volvo is not a two of three year car. In Sweden where 80% of the roads are unpaved, where there are no speed limits on the highways, where winte temperatures drop to 30°below, Volvos are driven an average of eleven years before people give up on them.
Wouldn't you like to have eight or nine years with no payments to make?
Volvo engines don't require constant tinkering and adjusting. It's a simpIe, basic engine, free of gimmickry and "advancements." As Sports Car Graphic magazine wrote, "Project Volvo came off the dynamometer at the Autolite Test Facilitv after one of the most severe tests we have ever put a Project enaine through. Perhaps the foremost bit of education we acquired was"learning that the Volvo B-18 engine is one of the most, if not THE most, reliable, rugged and unbreakable car engines being built today."
Volvos don't make an automatic right turn every time they come to a gas station. Gasoline costs 58¢ a gallon in Sweden so Volvas get over 25 miles to the gallon to ease the pain a bit.
Volvos aren't sluggish like most compacts. All four Volvo models run away from other popular-priced compacts in every speed range (no speed limits on the Swedish highways, remember).
What it adds up to is that if you buy a Volvo you'll probably have to find something besides your car to complain about.


LIFE, November 6, 1964