創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](3-1)

覚えていらっしゃる方もあろうかと---定年を期に、広告関係の書籍やVTRを、38年間、時間講師として勝手気ままにお世話になっていた多摩美術大学の図書館へ寄贈して、広告とは縁を切るつもりでいました。ところが、先日はDDBの傑作CMのVTRが書庫の片隅から出てきました。きのうは、これも寄贈ずみとおもいこんでいたジュリアン・L・ワトキンス編著”the 100 greatist advertisements" (1949 1959補充版)がでてきました。意識的に残していたのか、集め忘れていたのか。この本、30数年前にTCCで『5人の広告作家』を上梓したとき、[コピーライターの歴史]の小論を付録としましたが、その元になった本です。ぼくが関西の家電メーカーの宣伝部を辞めて日本デザインセンターと契約したのを祝って、森永製菓の宣伝部の名コピーライター・村瀬尚さんから贈られたもの。扉に、


"with best wishes to my fellow Copywriter in Japan
Julian L. Watkins Nov. 1962 "


と献辞が書かれています。
1962年といえば、昭和37年---尚さんは早々と渡米して、著者に会い、贈られてきていたんですね。こういう先達の士もいたのです。そのころ、ぼくなんか、神田・古書街をめぐって古雑誌を買い集め、しこしこと切り抜きをやって米国に巻き起こっていた広告創造革命の匂いをかすかに嗅いでいたというのに。しかも村瀬尚さんは、「勉強しろよ」との意味をこめて、おしげもなくくださった。こういう先達がいたからこそ、ぼくの広告研究も挫折しなかったと、いま、つくづく、思います。いい友を持ててよかった。




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第3章 コピーのテーマ

どんなコピーが印象にのこるか? コピーのすべてが中心テーマに集中された広告です。中心テーマとは何か。「表現のペースとなり、その広告全体にわたって支配的な特色となり、繰り返し現われるもの」です。しかもそれは、集中と排除というコピー・テクニックによって強調されるのです。この章は、コピー・テーマの発見から展開までをスコットペーパーの工業広告を例にひいて解説。

"What's the tag say?"
(The question you won't hear ith Scott Tag paper)


It's one thing to tag a product. But tagging it correctly is something else.
To do that you need a tag that will' endure the most ardent shopper's handling.
Such tags are made by leading converters from H&W's Tag paper. H&W (Hollingsworth & Whitney) is a division of the Scott Paper Company where there are some mighty strong feelings about paper.
Whether our paper is for the home or for industry its quality must be the
same: superior. If it isn't, you can't buy it.
Scott Paper Company
Philadelphia 13, Pa.


中心テーマ


私が現在(1962)、もっとも好きなコピーライターの1人は、ケーニグ Julian Koenig 氏です。
彼は、パパート・ケーニグ・ロイス Papert,Koenig,Lois Inc.代理店の社長であると同時に、同社がつくる広告のコピーの、ほとんど全部を書いている、41歳のペテラン・コピーライターです。PKL杜を創立したのは、1960年1月でした。
その前は、 ドイル・デーン・バーンバック Doyle Dane Bernbach Inc.代理店でフォルクスワーゲン・セダンのコピーを書いていました。

有名な、例の"Thlnk small(小さいことが理想)"というヘッドラインで始まるコピーを創造したのも彼です。
そのケーニグ氏が、1961年11月9日のニューヨーク広告ライターズクラブでのスピーチで、こんなことをいっています。
(注)A speech by Julian Koenig. The Advertising Writers Club of New York; November 9, 1961


「クリエイティビティのある仕事とは何か?固有のアイデアを使うこと。それをシンプルで、ダイレクトで、鋭い文章にすることです。
ページ全体を支えるようなコピーをさがし求めるといってもいいでしょう。
もし、その製品に理にかなったニューズがあるなら、それを述べましょう。
もし、製品にニューズがなかったら、ショーマンシップでいきなさい」


また彼は、「どうやってよいコピーライターになるか。自分自身をすぐれたアート・ディレクターにすることだと思います」ともいっています。

ケーニグ氏のコピーの紹介と研究は、また別の機会にするとしまして、いま引用したことばは、なかなか味わい深いことばです。
とくに「ページ全体を支えるようなコピーをさがし求める」という点に注目してください。
「ページ全体」つまり、それは「その広告全体」といってもいいわけですが、これを「支えるようなコピー」とは、その広告の中心テーマのことでしょう。

テーマとは、芸術の分野ではよく使う用語ですが、広告でテーマといった場合、表現のべ-スとなり、その広告全体にわたって支配的な特色となり、繰り返して現われてくるものです。M.デボーの定義に従えば(注)、

「テーマとは、基本または中心となるアイデアで、このアイデアを中心としてコピー素材(マテリアル)を組織だてるもの」
ということになります。
(注)M.DeVoe "Effective Advertising Copy" 12 Focusing the Advertisement on a central theme, 1956


最近の用語でいえば、メッセージ・アイデアということになります。

具体的に、スコットペーパーの広告で披討してみましょう。この広告を創ったのは、ピッツバーグのケチャム・マクロード・グラブ Ketchamm.MacLeod & Grove 代理店です。
1962年4月14日号の『ニューヨーカー』誌に載ったもので、スコット社の1962年のキャンペーンの最初にあたる広告です。ヘッドラインとテキストはこんなふうです。


「この荷札にはなんて書いてあるんだろう?」
(スコットのタグ・ペーパーなら、こうはなりませんよ)


製品に荷札(タグ)をつけるということと、正確につけるということとは、ちょっと違います。
正確につけるためには、どんな扱いにも耐えるような荷札が必要です。
このような荷札は、H&Wのタグ・ペーパーからすぐれた加工業者の手を経てつくられます。H&W(Hollingsworth & Whitney)は、スコット紙業会社の1部門で、紙の強化加工を行なっています。わが社の紙は、実庭用、業務用の別なく、品質は優秀であるべきだとしています。そうでなければ、あなたがお求めになるハズありません。


アートディレクターのE.ヨーコム氏の話によると、このキャンぺーンでは、スコット社製の用紙の進歩を、シンプルにドラマチックに伝達したいということです。
さて、例にあげたコピーですが、ほかの例などよりも説得力があるとは思えませんが、広告を中心アイデアにしぼるという点ではおもしろい実例です。
この広告のメッセージ・アイデアは、スコットのタグ・ペーパーは、使用中に破損しない---ということです。そんな目でこの広告を見、コピーを読むと、それこそ、テーマに無関係な要素が、ほとんど見あたりません。
しいていえば「わが社の紙は、家庭用、業務用の別なく・・・」という、4行だけでしょう。この4行は、あとにつづく広告でコピー・フォーマットの形に発展して、「スコットの考えはこうです。製品の品質は、家庭用、業務用の別なく、優秀であるべきだ---と。そうでなければ、あなたがお求めになるハズがありません」
というスローガン的ともいえる、最終節に定着するものです。
ギリギリまで、表現を中心テーマにしぼっている、といいましたが、ここで注意いただきたいのは、会話体になっている、


この荷札にはなんて書いてあるんだろう?


というヘッドラインの出し方です。
このヘッドラインは、ネガティブなアプローチとなって、シワくちゃの荷札のイラトレーションを導き出しています。
中心テーマをストレートに表現しようとする場合は、ほとんどポジティブなアプローチに頼るものですが、この広告の場合は、ネガティブなやり方によって、表現がドラマチックになり、インパクトを強めているとお思いになりませんか。

以下、明日につづく


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