創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](3-2)


もう、50年も前のことです。学校をでたてで、関西の家電メーカーでコピーライターということになりました。文章を書くことは好きで、谷沢永一さんの主導で、故・開高健くんや故・向井敏くんなどと同人雑誌『えんぴつ』をやっていました。しかし、文学青年とコピーライターはちょっと違うだろう---と思い、会社の深い理解で、コピーライターの大先達・松本善之助さんを講師として、M.デヴォー”Effective Advertising Copy”の原書講読会を、終業後に、隔週、3年間つづけました。この[効果的コピー作法]は、そのまとめのようなものです。知っておくだけでいいともいえます。迷ったときにちらっと読み返すだけでいいともいえます。まあ、原書よりもこっちがすすんでいるのは、1960年代の米国での広告作法の変革の事情を加味したところでしょうか。


新しいスコットの封筒用紙だと、消印まで美しく見えます。


わが社の新しい封筒用紙のうち、スコット・ホワイトウーブと呼ばれている(消印がハッキリ読みとれる)紙質のものと、スコット・ゴールデン・クラフト。
2つとも、すぐれた封筒用紙の代表です。見るだけでも、触ってみてもおわかりになりましょう。
この紙のよさは、あなたのレター・へッドがどんなに美しく印刷できたかを見ただけでも明らかです。それに、封筒の中味は秘密にしておくべきものですから、透けて見えないようなものにするため、とくに注意しました。
スコットは、生産するすべての紙製品の、どんな細かいところにも特別な注意を払っています。これは重要なことです。
スコットでは、製品の晶質は、家庭用・業務用の別なく、優秀で新しいスコットの封筒用紙だとあるであるべきだとしています。そうでなければ、あなたがお求めハズがありません。




On new Scott envelope paper, even the postmark looks better.


One of our new envelope papers is called Scott White Wove (presently bearing the very legible' postmark).
Another is Scott Golden Brown Kraft.
They both stand for one thing: great envelope paper. You can tell this when you look at it. Or feel it.
The quality of this paper is even more apparent when you see. how beautifully it takes your letterhead. And, since the contents of an envelope should remain private, we pay special attention to opacity.
As a matter of fact, Scott pays special attention to each and every detail in all the paper products it makes. And that's considerable.
At Scott, the situation is this: whether our paper. Is for the home or for industry its quality must be the same. Superior. If it isn't, you can't buy it.
Scott Paper Company, Philadelphia 13, Pa.


かつては、もっとも高価な紙だけが、よい表紙になりました。
スコットの新しいコーテットカバー紙が出るまでは---


よい紙は有用なのだから高価であるべきだ---などとは、私たちは考えていません。
わが社のコーテッド・カバ一紙だと、印刷された絵を原画と錯覚するかも知れません。
たとえは、「年鑑1962」の次に、あなたの会社名を印刷したいと考えていらっしゃるとします。スコットのコ-テッド・カバ一紙だと、タイプが生き生きとみえます。鮮明です。きれいです。いつまでも変わりません。
コーテッド・カバー紙は、どんなに乱暴に扱っても、なお堂々としてします。
スコットの考えはこうです---世界中でもっともよい紙を作り、良心的な値段をつけるぬ---、製品の晶質は、家庭用・業務用の別なく、優秀であるべきだ---と。そうでなければ、あなたがお求めになるハズがありません。




Once, only the most expensive paper made great covers.
That was before new Scott Coated Cover.


We don't believe that a good paper has to be expensive to give you great reproduction.
On our Coated Cover, you might mistake the printed picture for the original.
But let's say you want to print just Annual Report, 1962, and the name of your company. On Scott Coated Cover the type has a refreshi ngly different look. Sharper. Cleaner. And it stays that way.
Our Coated Cover can take abuse and still look proud.
At Scott, our point of view is this: make the best paper in the world and give it a sensible price. And whether the paper is for the home or for industry its quality must be the same: superior. If it isn't, you can't buy it.
Scott Paper Company, Philadel·phia 13, Pennsylvania.


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テーマの働き


中心テーマのことを、さきに「表現のベースとなり、その広告全体にわたって支配的な特色となり、繰り返し現われる」もの---と定義しました。つまり、中心テーマは広告に統一感を与える機能をもっているわけです。なぜ、広告に中心テーマが必要か? すなわち、読者に統一した印象を与えて、効果を、より強烈に、より明確に、より持続的に働かせるためです。

第1章の「ヘッドライン」で、


「一瞬のあいだ」に、読者が「これは自分に話しかけている」と判断する素質を、ヘッドラインの中に盛りこんでおく必要があります。その素質とは、明確性であり特定性でしょう。


と書きました。この文章は、ヘッドラインの機能を説明したものですが、読者の「一瞬のあいだ」の判断という広告が本来的にもっている隘路を考えた場合、中心テーマの機能についても同様のことがいえるわけです。
広告が「一瞬のあいだ」または数分間で、なんらかの印象を与えようとすれば、数多くの内容がお互いに主張しあっていては、とてもできない相談です。
ここで、もう一度、引例のスコットのタグ(荷札)・ペーパーのコピーを思い返してください。説得力の強弱は別として伝達しようとしていた、「使用中に破損しない」という中心テーマは、容易に思い出せますでしょう。
スコットの例だけではありません。第1章のS&Wの缶詰のシャケ缶の---マグロ缶の---トマトジュース缶のコピー、第2章にひきあいに出したフォルクスワーゲンの---「不良品」の---「検査回数」のコピーは、どれひとつとっても、みごとに表現すべきを中心テーマに集約しています。
コピーに関してのみ、中心テーマの機能を限定していいますと、コピーを中心テーマに集中しますと、コピーが理解しやすくなるともいわれています。心理学的にも妥当性のあるテクニックでしょう。


明日は、[テーマの展開]


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