創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(290)[シーヴァス・リーガルの広告](1)

例の『日米コピーサービス』(20年ほど前に休刊)1979年1月10日刊の361号へ、シーヴァス・リーガルの米国での広告特集号に資料を提供し、前書きをしゃべっています(この号のあと、広告を処分してしまい、カラー分は2,3点しか保存していなかった)。同号は実例がモノクロでの掲示なので、できればカラーでとおもい、日本の販売元---キリンビールへ問い合わせたら、日本では独自の広告展開をしているので、1点も所有していない---と「お客さまセンター」の女性の返事。そうかなあ、DDB制作のいくつかを、日本の雑誌で見た記憶があるけどな--。ま、アイデアに共感するだけなら、モノクロでも伝わりますね。このブログの連載で、いまは量販店で安くなっているシーヴァス・リーガルが知的呑み助のあいだで流行っても、キリンさんは「我、関せず」だろうなあ。


chuukyuuまえがきシーグラム酒造会社が、フォア・ローゼズ、シーヴァス・リーガル、アンチック・バーボン、ウォッカ、オールド・ルイス・ハンター・バーボン、カルバート・エクストラ、カルバート・ジン、シーヴァス・ロイヤル・サリュート、100ハイパーズ---などの広告扱いをDDBへ移したのは1961年でした。
翌年---知的高級クラス・マガジン『ニューヨーカー』誌1962.5.12号にこの広告が載りました。もちろん、カラー広告。

シーヴァス・リーガルの瓶を変えたまぬけはだれ?


シーヴァス・リーガルの社員は、最近瓶を変えたことで、なんらかの抗議がくるのは覚悟していました。
こてんこてんにやられることさえ,いとわないつもりでした。
確かに最初は無茶なことのように思えました。
どうしてクラシックな瓶を変えるのか?
風格のあるダーク・グリーンの瓶ですよ。そしてウォルター・スコット卿時代からのものらしい古色蒼然たるラベルと。
「瓶型を変えなかったのが不思議なぐらいだ」
とあるシーヴァス・リーガルのファンの方がつぶやいていらっしゃいましたっけ。
そうなんです。瓶型は変わっていません。
あいかわらずのずんぐりで、気どっています。
そんなことより大切なこと。中味のスコッチもあいかわらずのシーヴァス・リーガルなのです。
12歳より一日として若くはなく、「うまくて,時代を経たウイスキーは天国の酒」というやつです。
では、どうして瓶を透明な硬質ガラスに変えたのでしょう? どうして古いラベルを明るくしたのでしょう?
それ、いま私たちが住んでいる世が混乱の世であるからです。
小さな混乱の一つに、「軽い」スコッチとはどういうものであるかということがあります。
「軽い」スコッチは、色も淡いと考えていらっしゃる人がいらっしゃいます。色は軽さとは全く無関係なのです。
「軽い」スコッチとは「薄められた」ウイスキーだと考えている人もいらっしゃいます。いいえ、そうではないのです。ほとんどのスコッチは86度です。
本当の意味での軽さとは,スコッチらしい「口当りのよさ」けをいうのです。
軽いスコッチは水のようにスーツとのどを降りていきます。あるいは蜜のように。「くちびるのかみしめ」も起こりません.息がつまることも、たじろぎも,身ぶるいも起こりません。
たくさんの人がシーヴァス・リーガルがいちばん口当りがよい(あるいは,いちばん軽い)スコッチだと考えていらっしゃいます。
なぜ?
1786年以来、シーヴァス・リーガルはグレンリベットのソフトなハイランド・ウイスキー(一級のスコッチ・ウイスキー)でつくられています。
エイジングには、あいかわらずスペインから法外な価格のシェリーの樽を輸入して熟れさせています (1樽35ポンド以上かかります)。
あいかわらず、シーヴァス・リーガルは透明な琥珀色をしています。
この色なんです、瓶を変えることになったのは---。
シーヴァス・リーガルを試したことのない人がたくさんいらっしゃいます。それは,この透明な琥珀色が見えなかったからです。
すてきなびんではありましたが、古いダーク・グリーンの瓶がシーヴァス・リーガルをダークに見せていたのです。
それで「重い」と言っていた人もいらっしゃったのです。
レストランやバーでシーヴァス・リーガルを見たことのない人もみたくさんいらっしゃいました。
かつてのダークな瓶とラベルが隠していたせいです。
これからは大丈夫。
新しく透明になった瓶のおかげで、なにものにも邪掩されないシーヴァス・リーガルの真の姿がはっきり見えます。
そして暖かく歓迎されてもいます。
とまあ、こんなふうに考えていただけば,そんなに間抜けでもないでしょう?
さすが---といっていただきたいぐらいのものです。




What idiot changed the Chivas Regal bottle?


When the Chivas Regal people changed their bottle recently, they were ready for some protests.
Not a storm of outrage.
At first, it does seem outrageous.
Why change a classic bottle?
A magnificent dark green bottle.
And an antique shield that seemed to come out of Sir Walter Scott.
"It's a wonder they kept the shape," muttered one Chivas Regal fan.
True, the shape is the same.
Still squat. Still jaunty.
Most imporrant, the Scotch inside is still the same Chivas Regal.
Not a day younger than 12years. "Goode olde whiskie is a heavenly spirit."
Then why change the bottle to clear flint glass? Why lighten the antique shield?
Because we live in an age ofconfusions.
One minor confusion is "light" Scotch.
People think of "light" Scotch as light in color. Color has' nothing to do with "lightness."
People think of "light" Scotch as "weakened" whisky. Not so.
Almost all Scotch is the same 86 proof.
True lightness is actually the "smoothness" of Scotch.
A light Scotch will go down as easily as water. Or honey.
No "back bite." No gasp. No wince. No shudder.
Many people consider Chivas Regal the smoothest (or lightest) Scotch in the world.
Why? ?
Since 1786, Chivas Regal has been made with the "soft" Highland Scotch of Glenlivet. (This is prize Scotch whisky.)
Extravagant sherry casks are still brought from Spain for ripening it. (Each costs over £35.)
Chivas Regal is still the same clear gold color it has always been.
This color is what warrants changing the bottle.
Many people have never tasted Chivas Regal, because its clear golden color never showed.
Handsome though it was, the old dark green bottle made Chivas Regal look dark.
Som people translated this as "heavy.
Many people never saw Chivas Regal in a restaurant or bar.
The old dark bottle and label almost hid it.
No longer."
The new clear bottle offers an uninterrupted view of Chivas Regal.
And a warm welcome.
Think of it that way, and it's not so idiotic, is it
It's kind of brilliant.


【chuukyuu補】いまだから、いうのですが、瓶の色を透明にしたり、ラベルを明るくすることをシーグラム社へ提言したのは、DDBだと思います。というのは、「ライト・スコッチ」という識別化を、見た目でわかりやすくするためだったでしょう。「ヘヴィー」より「ライト」が好まれる時代になっていたのです。
日本だって、「重厚硬大」から「軽薄柔小」といった時代があったではないですか。
つまり、「マヌケ」はDDB---という逆手の自慢。
製品に特徴がなければ、それをつくるための製品改良アイデアを提案する、とまで、バーンバックさんが言っていますからね。

太い瓶型を変えなかったのは、印象をつなげるためかなあ。あの太さでは胴は持ちにくいし、店頭でもスペースを取って仕方がないだろうに。

さて、ぼくたちは、上の広告や、今後のモノクロ写真に、ご自分で色をつけてご覧いただくために、手持ちのカラー広告モデルを掲示しておきます。


スコッチ中のスコッチ---シーヴァス・リーガル


The Chivas Regal of Scotches.


chuukyuuのおわび】以下の言辞は、49歳、不惑もなんのその---って、怖いもの知らずの年代の発言ですから、暴言・錯誤は陳謝。


巻頭解説代わりのおしゃべり(1)】

VWがあってシーバスがあった


そうです。もう十数年になりますか(注:1979年から見て---)。
ぼくが、米国の広告を勉強しようと思って、洋書屋、古本屋とさんざん回っては米国で発行されていた古雑誌を買い込み、これはと思う広告をどんどん切りとっていったのは---。

そう、その中にはいくつかの広告シリーズがあって、その一つがVWかぶと虫のシリーズ、そしてこのシーヴァス・リーガルのシリーズ、新聞の方では、百貨店のオーバックスの広告が目につきましたね。
あっ、それから、有名なエイビス・レンタカーのキャンペーンも始まっていましたね---。

当時、ぼくは30代で、酒を飲(や)らなかったのですが、酒を飲らないぼくが、シーヴァスのシリーズにあれほどまでに魅かれていったのはどうしてだったのかといいますと---シーヴァスは「ライト」ウイスキーという言葉を使っていましたね。
だいたいがウイスキーというのはスコットランド地方の農民が作っている地酒のことをいうのであって、19世紀の終りの頃に米国からブドウ根虫というものが入り込み、フランスのブドウ樹が片っぱしからやられてしまった。
したがってフランスのワイン、ワインからつくるシャンパンとかブランデイとか、スペインはシェリー、そういったものを含めたワイン系統のものが英国へ入って釆なくなった。
そういうものを愛飲していた英国の上流貴族階級が飲むものがなくなって困まることになったんですね。
だからといってビールという訳にもいかない。そんな時、スコッチも酒税法の関係から日の目をみて公けになりつつあったので、スコッチ・ウイスキーが彼らの友をすることになった。
ここにスコッチ・ウイスキーの大増産が始まることになるのですね---ところがフランスのブドウ根虫の被害も10年ぐらいで納まってしまう。それでまたフランスからワインなどが入ってくるようになると、その影響をモロに受けて、スコッチ・ウイスキーの生産は、1900年代が最低の、つまり今までの4分の1程度まで下ってしまった。
英国人が今までワインの代りに飲んでいたスコッチ・ウイスキーをどうして止めてしまったのかというと、やはりスコッチはどこかこげくさい味がするんです。
つまりソフィストケイトされてない味、飲むと喉越しの時にブルッとくるようにキツィ、つまりハードだったのですね。
そんなことでフランスからのワインの再輸入とからんで、またスコッチは人気が落ちていく。
こんなことでその勢いを盛り返えすのが第2次大戦の後、英国が巨額の戦費を使い過ぎて何とかして外貨としてのドルを稼がなければならないという必然性があったために、国民にも飲まさないで、その大半を輸出へまわして外貨を稼いだのがこのスコッチ。
こうしてスコッチ・ウイスキーという伝説は創り上げられていったのです。しかもスコッチ自体が持っている泥くささというものや焦げくささ---そういうものだからスコッチは決して上品な酒とは言われていなかったというのが本当でしょう。


それから戦後には女性が社会的にかなり進出するようになったことで、女性が飲む機会が多くなった。
パーティでも簡単に出せる酒、水割りでもソーダ割りでも、手間をかけずに出せるということでスコッチがまた見直されていく。
しかも女性が飲むということで、どうしてもハードなスコッチ・ウイスキーをソフトに、ライトにしなければならない。
このようなマーケットの調査結果によってシーヴァス・リーガルはソフト・ウイスキーに生まれ変わっている。その時にビンの色も変えている。それまでの中が全然見えない濃い色から透明のものへと。
ウイスキーそのものの色も薄くしている。これはウイスキーの色というのは、サントリーの広告なんかを読むとオークの樽の色だとかいっているみたいだが、本当は蒸留したウイスキーには色がついていない。あの色はつけた色なんですれだから濃くも薄くも出来るわけ。ここでカルメラの色を薄くし、ビンの色も透明にしたということでシーヴァスを軽く、つまりソフトに見せることに成功したんですね、これで女性でも飲めるウイスキーになったというわけ。。(文責:鈴木)

こうなったら、シーヴァスが空になったのではなく、
よき友が増えたのだ、とお考えなさい。

1969年3月15日号『ニューヨーカー』





Look at it this way.

You didn't lose a bottle of Chivas;

you gained a few friends.


The New Yorker, March 15, 1969


シーヴァス・リーガルでもてなすとき、急に
氷片が大きくなってませんか?

1969年4月17日号『ニューヨーカー』




When serving Chivas Regal, do you suddenly become
exeedingly generous with your ice cubes?


The New Yorker, April 17, 1969


明日へつづく。