創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(517)TCCでのスピーチで映写するCD(その1)

2009.11.20 夕刻、東京コピーライターズクラブの会員有志40名に映写しながらのスピーチ素材。
事前に見ておき、コピーも精読して、どうしてこれらがベスト10なのかをお考えになるのも、時代を読む手がかりでしょう。

パート1Best 10 ads of Chivas Reagal that chuukyuu chose


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シーヴァス・リーガルの瓶を変えたマヌケはだれ?


シーヴァス・リーガルの社員は、最近瓶を変えたことで、なんらかの抗議がくるのは覚悟していました。
こてんこてんにやられることさえ、いとわないつもりでした。
確かに最初は無茶なことのように思えました。
どうしてクラシックな瓶を変えるのか?
風格のあるダーク・グリーンの瓶ですよ。そしてウォルター・スコット卿時代からのものらしい古色蒼然たるラベルと。
「瓶型を変えなかったのが不思議なぐらいだ」
とあるシーヴァス・リーガルのファンの方がつぶやいていらっしゃいましたっけ。
そうなんです。瓶型は変わっていません。
あいかわらずのずんぐりで、気どっています。
そんなことより大切なこと。中味のスコッチもあいかわらずのシーヴァス・リーガルなのです。
12歳より一日として若くはなく、「うまくて、時代を経たウイスキーは天国の酒」というやつです。
では、どうして瓶を透明な硬質ガラスに変えたのでしょう? どうして古いラベルを明るくしたのでしょう?
いま私たちが住んでいる世が混乱の世であるからです。
小さな混乱の一つに、「軽い」スコッチとはどういうものであるかということがあります。
「軽い」スコッチは、色も淡いと考えていらっしゃる人がいらっしゃいます。色は軽さとは全く無関係なのです。
「軽い」スコッチとは「薄められた」ウイスキーだと考えている人もいらっしゃいます。いいえ、そうではないのです。ほとんどのスコッチは86度です。
本当の意味での軽さとは、スコッチらしい「口当りのよさ」をいうのです。
軽いスコッチは水のようにスーツとのどを降りていきます。あるいは蜜のように。「くちびるのかみしめ」も起こりません。息がつまることも、たじろぎも、身ぶるいも起こりません。
たくさんの人がシーヴァス・リーガルがいちばん口当りがよい(あるいは、いちばんライトな)スコッチだと考えていらっしゃいます。
なぜ?
1786年以来、シーヴァス・リーガルはグレンリベットのソフトなハイランド・ウイスキー(一級のスコッチ・ウイスキー)でつくられています。
熟成には、あいかわらずスペインから法外な価格のシェリーの樽を輸入して熟れさせています (1樽35ポンド以上かかります)。
あいかわらず、シーヴァス・リーガルは透明な琥珀色をしています。
この色なんです、瓶を変えることになったのは---。
シーヴァス・リーガルを試したことのない人がたくさんいらっしゃいます。それは、この透明な琥珀色が見えなかったからです。
すてきな瓶ではありましたが、古いダーク・グリーンの瓶がシーヴァス・リーガルをダークに見せていたのです。
それで「重い」と言っていた人もいらっしゃったのです。
レストランやバーでシーヴァス・リーガルを見たことのない人もたくさんいらっしゃいました。
かつてのダークな瓶とラベルが隠していたせいです。
これからは大丈夫。
新しく透明になった瓶のおかげで、なにものにも邪掩されないシーヴァス・リーガルの真の姿がはっきり見えます。
そして暖かく歓迎されてもいます。
とまあ、こんなふうに考えていただけば、そんなに間抜けでもないでしょう?
さすが---といっていただきたいぐらいのものです。


1962.5.12 『ニューヨーカー』




What idiot changed the Chivas Regal bottle?


When the Chivas Regal people changed their bottle recently, they were ready for some protests.
Not a storm of outrage.
At first, it does seem outrageous.
Why change a classic bottle?
A magnificent dark green bottle.
And an antique shield that seemed to come out of Sir Walter Scott.
"It's a wonder they kept the shape," muttered one Chivas Regal fan.
True, the shape is the same.
Still squat. Still jaunty.
Most imporrant, the Scotch inside is still the same Chivas Regal.
Not a day younger than 12years. "Goode olde whiskie is a heavenly spirit."
Then why change the bottle to clear flint glass? Why lighten the antique shield?
Because we live in an age ofconfusions.
One minor confusion is "light" Scotch.
People think of "light" Scotch as light in color. Color has' nothing to do with "lightness."
People think of "light" Scotch as "weakened" whisky. Not so.
Almost all Scotch is the same 86 proof.
True lightness is actually the "smoothness" of Scotch.
A light Scotch will go down as easily as water. Or honey.
No "back bite." No gasp. No wince. No shudder.
Many people consider Chivas Regal the smoothest (or lightest) Scotch in the world.
Why? ?
Since 1786, Chivas Regal has been made with the "soft" Highland Scotch of Glenlivet. (This is prize Scotch whisky.)
Extravagant sherry casks are still brought from Spain for ripening it. (Each costs over £35.)
Chivas Regal is still the same clear gold color it has always been.
This color is what warrants changing the bottle.
Many people have never tasted Chivas Regal, because its clear golden color never showed.
Handsome though it was, the old dark green bottle made Chivas Regal look dark.
Som people translated this as "heavy.
Many people never saw Chivas Regal in a restaurant or bar.
The old dark bottle and label almost hid it.
No longer."
The new clear bottle offers an uninterrupted view of Chivas Regal.
And a warm welcome.
Think of it that way, and it's not so idiotic, is it
It's kind of brilliant.


”New Yorker" May 12, 1962

1969年5月に、DDBのバーンバックさんが日経ホールで行ったスピーチが載った『日経広告手帳』5月15日号より。


       ☆   ☆   ☆


DDBへアカウントが移ったころに、シーヴァス・リーガルは、以前の黒め色の濃い瓶を透明な瓶に変えたのです。

米国の大衆は軽めのスコッチを好みますが、色の濃い瓶は重い飲み物を連想させるからです。

そこで私どもは考えました。シーヴァス・リーガルは新しい瓶にはなりました---こんなのは誰でもやることです。

しかし、興味をもって、人の目を見張らせる広告をやるためには、そのような当たり前の言い方ではだめだなんです。

瓶を変えたことに関していろいろな苦情の手紙も来ていたので、そのなかからアイデアをとってやったのが、

「シーヴァス・リーガルの瓶を変えたマヌケはだれ?」

これをクライアントはいやだといいました。なぜなら、瓶の色を変えたのはクライアントだからです。それでちょっと字句を変えてくれないかと---「シーヴァス・リーガルの瓶を変えた天才は誰?」にしてくれと。

そこで言いました。

「天才といったらダメだ。客を見下していることになる。マヌケといえば消費者のほうは優越感をもって買ってくれる」

それでこの広告が掲載できたわけです。

このようなヘッドラインをつけることによって、どんなウィスキーが中に入っているかというボディー・コピーに自然につながった広告になったわけです。

「新しい瓶に入りました、そして軽くなりました」とやったのでは人は見てくれなかったでしょう。

結果をいうと、高級スコッチの売り上げは米国では落ちているが、この広告を始めてから、シーヴァス・リーガルの売り上げは3倍に上がりました。




'Nikkei advertisement magazine' May 15,1966
when speech that Mr. Bill Bernbach, DDB of which it came to Japan in May, 1969 had done in Nikkei Hall was recorded.


       ☆   ☆   ☆


When the account moved to DDB just, Chivas Regal changed the bottle with thick ..black.. color before into a transparent bottle.

The reason for the bottle with thick color is that a heavy drink is associated though the general public in the United States likes light Scotch.

Then, we thought. Chivas Regal became a new bottle. ---Such [noha] everyone is done.

However, it is such a natural expression and [hadamedanandesu] to do the advertisement to have the principle and the interest that has been said before, and to watch person's eyes.

Because letters of various complaints had come for having changed the bottle, having taken the idea from the average.

"What idiot changed the bottle of Chivas Regal?"

This was said that the client was unpleasant.
Because it is a client that changed the color of the bottle.
And, whether you will change words and phrases for a moment---When it is necessary to make it to "What the genius who changes the bottle of Chivas Regal?".

Then, it said.

It is not .... good when saying the genius. The guest will be looked down on.
The consumer has the superiority complex and buys it as for [idiot] }

And, this advertisement was able to be inserted.

What kind of whisky was on the inside or it became advertising naturally connected with the body copy by applying such a headline.

When this was "It entered a new bottle and lightened" the first, the person was not externals in doing.

Sales of Chivas Regal went up to three times after having started this advertisement between those though sales of highest Scotch had dropped off in the United States when the result was mentioned here.


       ☆   ☆   ☆




もう半分も飲んだのか、と主人側。
まだ、半分もあるじゃない、と客。


1975.5.26 『ニューヨーカー』




To the host it's half empty.
To the guest it's half full.


”New Yorker" May 26, 1975

A/D Charles Gennarelli
C/W Larry Levenson

同巧のアイデアでも、目先き変えられる---


こちらの瓶は半分       こちらの瓶は半分
しか残ってない       も残っている

もしこれがあなたの瓶だとなると、あなたは、
多分、半分しかのこっていないと感じる。

しかるに、友人宅を訪れて、その瓶が同じ状態だと、
あなははまだ半分も残っていると安心する。


1970.9.26『ニューヨーカー』


優美なデカンターへ移さないほうが
より優美な場合もありますよね。


【メモ】[DDB NEW]1973年9月より
A/D Bill Harris
C/W Peter Murphy


1974.12.2 『ニューヨーカー』




Sometimes it's more elegant not to use
an elegant decanter.


December 2, 1974 The New Yorker


もちろん、シーヴァス・リーガルなしでも生きてはいけます。
しかし、そんな生き方が楽しいといえましょうか。


1978.2.28 『ニューヨーカー』

February 28,1978 The New Yorker


父の日は、おじいちゃんの日でもあります。


1978年6月12日 『ニューヨーカー』


Father's Day is also Grandfather's Day.


June 12, 1978 The New Yorker


こう、考えることにしたら。
シーヴァスが空になってしまったのではなく、
友だちが数人増えたのだって。


1969.3.15 『ニューヨーカー』


A/D Mike Lowlor
C/W Mike Mangano


"New Yorker" March 15, 1969


ボトルのせいで、人びとはシーヴァス・リーガルを買う。そう思われるのでしたら、これを売ってみてください。


art director : Jim Scalfone
copywreiter: Larry Sillan


お金持ちのスコッチ
(でも、シーヴァス・リーガルは普通のスコッチよりそれほど高いわけではありません)


"Harper's Bazaar Octover 1977


シーヴァスが減ってくるにつれて、
気前のよさも減っていきませんか?



1972.11.11 『ニューヨーカー』


他のスコッチより栓を開けにくいように
思えるのは、
他のスコッチよりきつく栓をしめている
からなんでしょうな。


1970.2.14 『ニューヨーカー』

もしかして、この氷もジョーによるプラスチック製? まさか---


シーヴァス・リーガルでもてなす時には、急に
氷の大盤振るまいなりませんか?


1969.4.19 『ニューヨーカー』


ここんところ毎年、贈られたネクタイをお義理で締めてはいる。
だけど、本音(ほんね)は---ね。


1970.6.6 『ニューヨーカー』


シーヴァス・リーガルの会長は、6年目についにこの広告を出してもらえることになりました。 


「シーヴァスには柱脚つき台座がふさわしい」彼(会長)は私たち(DDB)に憶えきれないほど何回も説いてきました。
「そんな広告は古くさいもいいとこだ」 私たちは彼に数えきれないほどそう説明してきました。
「どこが古くさい?」 会長はいつもこう訊き返したものです。「シーヴァス・リーガルは世界最高級のスコッチだ。台座に合うスコッチは、シーヴァスをおいて、ほかにないはずだ」
「それはそうです」と私たちの返事はお定まり。しかし、台座に載せただけでは、世界最高級のスコッチだと人びとを説得させられない。そんなのはどんなスコッチにだってできる」
「わかった」会長の返事はいつもこう。「広告は君らが専門家なんだから」


何年もこんなことのくり返しでした。でも、数か月前、仕方がない、一度会長のやりたいように写真を撮らせて、私たちが言ってる意味をわかってもらうよりないということになりました。
そう、やってみると、この写真は、私たちにもあることを教えてくれました。
台座に置かれたシーヴァス・リーガルは幾分古めかしく見えます。
しかし、ほかのスコッチがこれをやっていたら、きっと平凡で陳腐なもののように写ったに違いないのです。


1967.10.21 『ニューヨーカー』




For six years now,
the Chairman of Chivas Regal
has been pleading for this ad.


"Chivas belongs on a pedestal," he (the Chairman) has told us (the advertising agency) more times than we care to remember.
"That's just about as corny an ad as you can do," we've told him more times, we're sure, than
he cares to remember.
"Why is it corny?" he'd always ask us. "Chivas Regal is the finest Scotch in the world. If any Scotch should be on a pedestal, it's Chivas. "
"Sure, " we'd always answer, "but you don't convince people you've got the finest Scotch in
the world just by putting it on a pedestal. Any Scotch can do that."
"Okay," he'd always say. "You fellows are the advertising experts."
And so it went on, year after year. Till finally, a few months ago, we figured we'd settle everything once and for all by taking the photograph he wanted and letting him see for
himself what we meant.
Well, as it turned out, that picture taught us a little something too.
You see, a bottle of Chivas Regal up on a
pedestal may look kind of corny.
But when you think about it, any other
Scotch up there would look just plain ridiculous.



Oct.21, 1977 "New Yorker"


A/D Bert Steinhauser
C/W Mike Mangarno

DDBによるシーヴァス・リーガルの広告を(左から右へ、上から下へ)年代順に並べました。
(画像を「クリック」すると拡大します)



おまけDDBでVWチームでいっしょだったコピーのケーニグ氏とアートディレクターのジョージ・ロイス氏が飛び出てPKLという代理店を創設し、シーヴァスのリッチでちょっとケチな人格に、ちょいワル(好色)を加えた。


     
「きみは、たいしたトマトだよ。2人で美味しいブラディ・マリーがつくれるよ。ぼくは、その辺の連中とはできが違うんだからね」  
  「あなたって好さよ、ウルフシュミット。あなたって、あれがいかすんだもの」


ウルフシュミット・ウォッカは、純正でよき時代のウォッカ特有の微妙な味わいを持っています。ブラディ・マリーに使ったウルフシュミットは、勝ち誇ったトマトの味です。ウルフシュミットはひとロごとに最高の味わいです。



「かわいいお嬢さん。ほんとにカワイ子ちゃん。ぼくの趣味にピンとくるね。ぼくがきみのいいところをひき出して有名にしてあげよう。こっちに転がってきて、キスしようよ」 「先週ごいっしょだったトマトさんとは、どうだったの?」


ウルフシュミッツ・ウォッカは、純正でよき時代のウォッカ特有の微妙な味わいを持っています。スクリュー・ドライバーに使われたウルフシュミットは、オレンジを恍惚とさせます。ウルフシュミッツは、ひと口ごとに最高です。


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今日から5日間は、11月20日夕べにTCC(東京コピーライターズクラブ)の有志とのミーティングでおこなう[全米を吹きまくった1960年〜'70のクリエイティブ革命、広告革命---黄金の10年 Golden Decade---あれはなんだったのか---]その実態をあきらかにする、当時の6キャンペーンのなかからchuukyuuが厳選した作品を各10点ほど、CDに焼いたものをアップします。


20日当夜には、これを映写して1960年代を眼前に再現するとともに、そのCD(原文・和訳、エピソードつき)を特別限定頒布します。
持ち帰って社内でタタキ台になさったり、クライアントとの目線決めにもできましょう。


当夜、懇談終了後に購入してお持ち帰りになりたい方は、このブログのコメント欄に、今月15日までに、ハンドル名(または本名)を書き込んで予約してください。
CDは、会場で代金(1000円)と引き換え。予約数しか、持参しません。


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当日、ご出席になれない会員の方で、CDをご希望の方は、当ブログ2009年10月25日(←年月日をクリックの末尾の追記にしたがってご予約ください。

なお、会員以外の方の受付は、数日後に当ブログに詳細を発表させていただきます。