[効果的なコピー作法](1) はじめに
いつか、お約束したとおもうのですが、45年前の1963年に上梓した『効果的なコピー作法』(誠文堂新光社)を、Web上で復元してみます。[はじめに]にも記していますが、当時は誠文堂新光社からでていた業界専門誌『ブレーン』誌に1年間連載したものをまとめたものです。chuukyuu、32歳から33歳にかけての思案で、いま見ると〔若書き〕の憾はいなめません。この執筆中に、山城隆一先生の偶然の口ぞえで『フォルクスワーゲンの広告キャンペーン』(美術出版社)が自著第1号として世に出ました。『効果的なコピー作法』はしたがって第2号。[若書き〕は〔若恥〕に通じますね。
はじめに
まず、この本の読み方について、お願いしておきます。
第1章---第2章---第3章---という順にお読みいただく必要はありません。どの章から読みはじめても、ちゃんとわかるようになっています。
しかし、どの章をお読みになるときも、各章のはじめに引用してある広告を、コピーの訳をすっかり頭に入れてから、本文をお読みいただきたいのです (広告制作法を学ぶルールでもあります)。
この本は、昭和37年(1962)10月号から38年(1963)9月号までの『ブレーン』誌に連載した原稿に手を入れたものです。
ブレーン誌の編集部からの注文は、「コピーの初歩的テクニックを---」ということでしたが、たったひとつの広告原稿に、何百万、何千万円という大金が注ぎ込まれるこの世界に、アマチュアリズムが許されるはずがありません。
そこで、私は、今日のアメリカで成功しているいくつかの広告キャンペーンを紹介しながら、その広告が秘めている成功の要素を拡大してご覧にいれるやり方をとりました。
すでに広告界の神話と化している広告キャンペーンについては、故意に触れませんでした(もっとも今ごろ、そうした伝説的広告を引用しても、現代の若い人たちには、まず、その衣装の古めかしさが目について、老人の繰りごとと思われるのが、オチでしょう)。
また、神話の解説者たるには、私は若すぎ、血の気が多すぎるようでもあります。この本に、在来の類書と確然と異なるところがあるとすれば、それは、広告というものが、その広告を制作した広告代理店の創造哲学によって大きく左右されるという、 まことに現代的なテーマを発見したことだと、ひそかに自負しています。
こうしたアプローチが、本稿がブレーン誌に連載中に、コピーライターをうわまわる数のアート・ディレクター、企画マンの支持を得たといえます.また、アメリカでも有数の創造的な広告代理店---ドイル・デーン・バーンバック(DDB)社、パパート・ケーニグ・ロイス(PKL)社、オグルビー・ベンソン&メイサー社を、日本に紹介することができたのも、このアプローチによります。
この小著が完成するについては、引用の広告を創造した米国のクリエイターたちの並々ならないご好意、ブレーン連載中から変わらぬ激励を下さった宮山編集長、坂本次長、三宅明、東谷昇の4氏、および資料整理の労をとって下さった小池一子さん、木田宏子さん、林宏樹氏などのお力によるところが大きいと思います。
昭和38年10月11日
chuukyuu
第1章
ヘッドライン
「広告効果の50%から75%がヘッドラインの力による」
といわれるぐらい重要な役目をもつヘッドライン。
それだけに、コピーライターが多くの時間をかけ、
苦心するのも当然です。
類書の常識を破って冒頭にこの章を置いたのも、こうした理由からです。
引用したS&W缶詰の広告は、米国でもっともっとも創造的な代理店ドイル・デーン・バーンバック(DDB)よってつくられたものです。
The only other thing we add is salt.
Our salmon don't need oil added to make them temptingly juicy. They're born that way. Became we hold out for a special plump type of salmon those robust specimens who swim up the longest rivers north of Puget Sound. What if there aren't enough of these choice Long River Bluebacks? We wait patiently till next year. Because if it isn't perfect, S&W won't pack it.
■ ヘッドラインの機能
広告史上で、人びとに語りつがれている広告というのは、そのほとんどが、へッドラインによって覚えられているといってよいでしょう。試みに、あなたが好きだった広告のひとつを思い浮かべて、その広告について、友人のだれかに話すとして、まず初めに口に出る言葉は---やっぱり、ヘッドラインでしょう。
それだけに、「広告効果の50%から75%がヘッドラインの力による」(注1)という意見もあるくらいです。
またコピーライターは、ボディ・コピーを書くよりもヘッドラインを書くのに、ずっと多くの時間をかけるといわれるのも、ヘッドラインの重要さからすれば当然でしょう。
現代の読者は、読まねばならぬものをたくさんもっています。その中には広告は入っていません。広告は、たまたまそこにあり、読者の注意をひいたから読まれるにすぎません。読者の目と心は、一瞬のあいだに、見るものと見ないもの、読むものと読まないものを区分けするのです。この一瞬のあいだに、ヘッドラインの機能が働くのです。
また、ヘッドラインがうまく読者の注意をひきつけても、読者がその広告のはじめから終わりまで、順序よく熱心に読むとは限りません。ヘッドライン・リーダー(headline reader)と呼ばれる、いわゆる見出しだけを読みとってすべてを了解してしまう読者も多いのです。
こうしたさまざまな情況から、ヘッドラインが達しけれはならない機能としてW・ダンは(注2)、
(1) 読者の注意をひくこと
(2) マス・オーディエンスのなかから見込み客を選びだすこと
(3) 読者をメイン・コピーにひきずりこむこと
(4) あるときには、消費者に働きかけて行動させる
という役目全部を果たすこととしています。
もちろん、ヘッドラインはたくさんの役目を背負っています.それらの役目は、その広告の目的によって決められます.
(注1)M.DeVoe "Effective Advertising Copy" Part 16, Writing an effective headline.1956
(注2)注2)W.S.Dunn "Advertising Copy and Communication" Capt8, Headline
■ 注意をひく
さて、1962年4月16日の『ニューヨーク・タイムズ』紙に載ったS&Wのシャケ缶詰の広告【例・1】を読んでみましょう.
私たちのシャケは、油を加えて汁気をたっぷりにする必要はありません。特別に丸々と太ったシャケですから。この健康なシャケは、毎年ピュージェット湾(Puget Sound)の北にある長い川をのぼってきます。もし長いブルーバックス(Bluebacks)川で、選ばれたシャケが思うようにとれなかったらどうするかって? 私たちは、来年まで辛棒しますよ。なぜって、それが完璧でなかったら、S&Wは缶に詰めません。
『ニューヨーク・タイムズ』紙のページをめくっていると、まず、ギラギラうろこを光らせたシャケと、それに巻かれたS&W のラベルが目に飛びこんできます。その衝撃力があまりに強いので、 日をそらすよりも、目を止めて見る方がラクです(読者の目を止めさすテクニックに2つあります。1つは、そこには何か自分のためになることが書かれてありそうだと思わすのと、S&Wのように、目をそらす努力をするよりも見てしまった方が精神衛生上よいと思わすような強い衝撃力の視覚表現を用いるやり方です)。
そこで、私は、この広告に目を止めます。
S&W のシャケ缶の広告であることは、魚に巻かれたラベルを見た瞬間にわかっています。
わが社は、塩を加えるだけというヘッドラインを読みます。
意味が即座に読みとれません。なんでも、シャケ缶の味のことをいっているらしいとはわかりますが---よくわかりません。
そのままやめてしまうのはシャクだし、クイシンボウの私のことゆえ、何かおいしいことにかんするニュースでも書かれているかもしれないではないか、ボディ・コピー量もそう多くはないし---などと一瞬のうちに判断して、最初の1行を読んでみます。
【以下、明日につづく】