創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](1-2)

拙著『効果的なコピー作法』は、『ブレーン』誌に昭和37年(1962)10月号から同38年9月号まで、毎号1章ずつ連載されました。連載終了後ただちに12月15日刊行。第3刷までいったのかな。それから20年後の1983年4月30日に復刻されました。復刊本の末尾に、目キキの向井敏くんが『雌伏20年』と題した評価エッセイを書いてくれた(このブログ内で 向井 敏 あるいは 雌伏二十年 で検索してみてください)。そのとき、畏友・河田卓氏が『電通報』に書き留めてくださったエッセイ「chuukyuuという人の”効果的なコピー作法”という本。面白いですわ」「若い女性コピーライターからそんな話を聞いた」と。ぼくはすでに広告界からの、ひそかな、引退をきめていたのです。それからまた25年経って、2度目の復刻ともいえるブログへの再録。こんどは印税のない復刻です。のこしておくための自前復刻。(写真は20年後に復刻された軽装版)




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第1章 ヘッドライン ■注意を引く のつづき


前回のシャケ缶の広告例でもおわかりのように、読者の注意をひくには、ヘッドラインか、イラストレーション(写真や挿絵など)か、あるいは、その両方の協力で行ないますが、このS&Wの例は、第3番めにあたります。
できるなら、第3番めの方法を用いるのが柑族得策でしょう。

ところで、注意をひきたい読者には、2つの種類があります。
1つは、見込み客であり、もう1つは、一般読者です。
どちらの種類の読者を対象とするかほ、その広告の目的によりますが、それによって、ヘッドラインのテクニックは大きく違ってきます。

というのは、注意を維持するのは興味であり、興味は人によって異なるからです。その製品の愛用者や有望な見込み客であると、その製品から受ける利便を明示、または暗示するヘッドラインに興味をもつといわれています。
一般読者を対象とする場合には、いわゆるヒューマン・インタレスト(human interest) 性の高いヘッドラインが有効とされています。
この考え方は、製品には、その製品が本来的にもっているプロダクト・インタレスト・バリュー(product interest value) の高低という観点から論じられることが多いようです。
プロダクト・インタレストというのは、E.バクストンによると(注3)、

「補助的な力を借りずにその製品が本質的にもっている注意をひく性質のことだ。約言すすれば、その製品がもつ、手を加えないナマの魅力である」
(注3)E.F.Buxton "Product Interest as a Factor in Advertising Impact"


どういうことかというと、たとえば、男性は乗用車と調味料のどちらにより興味を示すかといえば、明らかに乗用車ということになります。こういうにふうに、製品にたいする興味の相対的度合いを、男女別にそれぞれ測定し、広告のプランニングの段階で役立たせようという意見です。

今、広告しようとしている製品のプロダクト・インタレストが高いものであれは、なるべく製品にかかわる素材から広告のテーマをみつけ、それをヘッドラインでも扱えばよいし、もし、その袈品のプロダクト・インタレストが低い場合には、人的興味を付加した、いわゆるヒューマン・インタレストのある広告をつくって読者の興味をひくほうがよい、というテクニックが生まれてくるのです。

ただし、この議論にも盲点があります。というのは、その広告を、なるべく多くの読者に読んでほしいという考え方の上に組み立てられているからです。一般的にいって、なるべく多くの読者の注意をひきつけなければならない役目を背負わされた広告は、少ないものです。
たとえば、補聴器のようなものは、E.バクストンの、プロダクト・インタレスト表では、男性の部で最低に位置しています。
だからといって、この製品の広告をつくるときに、ヒュ一マン・インタレストな広告にするかというと、そんなバカなことはないので、この場合は、難聴に悩んでいる本人とその家族や友人(その数が少数でも)の注意を確実にひけばいいのですから。
としますと、この広告では、補聴器を使用することによって受ける利便、またはその補聴器の特質を範調すべきでしょう。

マス・オーディエンスの中から見込み客を選びだす

前項でいいましたように、広告は、その媒体の全読者にネライをつけるというものではありません。
そんなことはあり得ないことです。全ページ、有用にして、有益な情報と知識で充たされている雑誌や新聞であっても、すべての記事が全読者に完全に読まれるとはいえないでしょう。
記事であれ、広告であれ、「読者の目と心は、一瞬のあいだに、見るもの、読むものと読まないものを区分けする」とはじめに書いたいたことを思いだしてください。
「一瞬のあいだ」に、読者が「これは自分に話しかけている」と判断する素質を、ヘッドラインの中に盛りこんでおく必要があります。
その素質とは、明確性であり、特定性でしょう。

【例・2】


これらのトマトは、厳密に飲用です。


私たちは、シチュー用のトマトと、飲用トマトとを区別しています。優良缶詰業者の中には、おなじ収健のトマトを詰めるところが多いようです。いいトマトをシチュー用にまわし、残りをジュース用にします。実際的な、気のきいたやり方です。私たちのやり方は、非実際的です。カルフォルニア ・トマトをジュース用に育てます。トマトが柔かく、果汁がたれるほどに熟すまで、待ちます。ずっと気苦労とお金のかかるやり方です。しかし、それがS&Wのやり方です。それが完壁なジュース用トマトで完璧なトマト・ジュースをつくる唯一のやりかただと、私たちは考えます。それが完堕でなかったら。S&W は缶に詰めません。


S&Wの例でいうとのトマト・ジュースの、

「これらのトマトは、厳密に飲用です」

はそのいい例でしょう。
イラストレーション(写真)も明確ですが、このヘッドラインは、トマトジュースを愛飲している人びとの目と心をとらえるだけの力をもっています。

かりに、このヘッドラインのかわりに、「新鮮なトマト」とか「おいしいジュース」とかのことばを使ったとしますと、意味が広すぎて一般的になります。


これにたいして、反論がないでもありません。広告する製品が万人向きのもの、たとえは歯みがきとか石けんとかであると、全読者が見込み客であるから、全読者の注目を集めたいのだという意見です。
正しい意見のようですが、まず、不可能に近い試みです。
広告は、いろんな要素から構成されており、その広告を見る読者の条件もみんな違います。
その製品が、すべての読者の悩みを解決するだけの強力な利点---歯みがきの例でいいますと、「歯を白く美しくして、虫歯を防ぐ」というようなことになりましょうが---をもっていたとしても、その広告の構成要素の1つであるイラストレイションに若い女が扱ってあれば、それ以外の年齢層は「これは自分のことではない」と早合点するかもしれませんし、読者の中には、すでに今使用中の歯みがきで満足して人がいるかもしれませんし、「私の歯は白い」と信じているかもしれませんし、「歯を白く美しくして、虫歯を防ぐ」という利点は、他の同種製品もそなえている利点かもしれません。

「万人向きの製品を売る会社でさえ、各個の広告では特定のグループにネライを定めることが多い。たとえは、あるソフト・ドリンクのメ-カ-は、ある広告では主婦をひきつけようとし、別の広告ではサラリーマンに訴えようとしている」(W.ダン)

ここに、誤解されやすいテクニックがあります。


大粒の50ヶの桃から、S&Wは5ヶ厳選します。


最高というだけでは十分ではありません。種ばなれが完全なこと。大きなsun goldで、まるくて、太っていることが、 S&W の選ぶ桃の絶対条件です。しっかり実がつまっていて、汁が多くって、甘美であることはもちろんです。この基準にかなう桃は、そう多くはありませんが、S&Wのラベルが貼られるのは、そうして選ばれる少数の桃です。私たちはこの要求をかなえようと思っています。S&Wはそれが完壁でなかったら、缶に詰めません。


以下、明日につづく


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