創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](10-了)


ようやく、12章中の9章をアップしおえました。
2008年9月23日に「はじめに」を掲示、つづいて第1章をアップしています。月刊誌『ブレーン』に連載したときには、1章ずつを12ヶ月にわたった発表しました。当ブログでは、約半年間で9章です。
46年前に単行本化されていたのだから、1章分を5日として毎日つづければ60日間でこなせました。そうしなかったのは、立ち止まって共感、批判していただきたかったからです。
あとの3章は、なるべく、間をおかずに掲載します---といいながら、明日からは、ヤング&ルビカム広告代理店から、クリエイティブ部門の改革役としてベントン&ボウルズ社へ招かれたアル・ハンペル氏とのインタヴューを用意してしまいました。


第10章 コピーの長さ(10-了)


必要なのはダレか?


電報を必要としているのはダレか?  電報を使わない忙しい花屋さん
があったら名をあげて!  迅速・正確・しかも文書の電報は、
注文をほかの町へ送るビジネスライクな方法です。住所・注意書き・値段が
記録されているので、間違いなし。
はっきりした反応がほしかったら、電報をおうちなさい。


このシリーズの初回---2月27日の黄色い電報用紙と同じ用紙にタイプされています。

長短論議


コピーは長く書くべきか、短かくまとめるべきかについての論議は、ずいぶん昔からつづいています。
第7章の「コピーと調査」で紹介した、ニューヨークADC主催のビジュアル・コミニケーション会議は、「退屈なことばはいらない」といって、"all art, no copy"のスロ-ガンを掲げました。
第41回ニューヨークADC展の審査員のことばは、第4章の「コピーの視覚化」で紹介したとおり、


Q.グラフィックな面に重点をおかないということは、コピーがもっと多くなることを意味しますか?


A.グラフィックな面に重点をおいていないのではありません。広告の本質的なメッセージ・アイデアに重点をおいているのです。コピーの量の多少には関係のないことです。ヘッドやテキストで、オーディエンスに鋭く切りこんだコピーの傾向はありますがね。ヘッドやキャプションがたった1語というう広告も多くあったじゃありませんか。


といって、コピーの長短は二の次だとしています。


公平にみて、第1回のピジュアル・コミュニケーショーン会議は、 変革期にありがちな勇み足---ビジュアル小児病的偏向をおかしていたといえます。
なにしろこのころは、「エキサイティング」ということばで代表されるような、異常な表現の全盛期でしたから---日本のアート・ディレクターの中には、時代の変化に気がつかないで、いまだに"all art, no copy"的な考え方にしがみついている小児病患者が多いのは困ったことです(40数前の筆のすべりです。ついつい、これをやるから煙ったがられる)。


さて。前掲のシュワブ氏は、「あなたのコピーが、あなたが売りたいと思っている人たちのうちのより多い人をホールドできる時間が長ければ長いほど、また、あなたのコピーが興味を起こさせるようなものであれはあるほど、それだけ長くあなたは彼らをホールドすることができる」のであるから、コピーは長いほうが好ましいといっています。
私は、こんな長短論議は無意味だと思います。
読者に伝えなければならないことを十分に伝えるためには、長いコピーが必要であれは長く書けばいいのです。
ただし、誤解のないように付言しておきますが、読者というものは、一度にたくさんのことを受けてはくれにくいものです。したがって、あれもこれも伝えなければならないから長く書くのは無意味です。 「あれもこれも」ではなく、「あれか、これか」すなわち、1つか2つのテーマにしぼって、しかもそれを伝えるのに長いコピーが必要なら長く書けばいい、というのです。
短かいコピーで十分に伝えられるのであれば、それに越したことはありません。
ところが、伝達というものの機能的意味をよく知らない広告人も多いのです。それが広告主やAEである場合には、書いておけば誰かが読んでくれる、読んでくれれば信用してくれる----とでも考えるのでしょうか。4つも5つものテーマを、1つの広告にもちこみたがります。
冗談ではありません。幸運にも読まれたとしても、信用とは別問題です。信用さすためには、信用を得るテクニックを駆使しなければならないのです。信用を得る技法については、次の章で説明しましょう。
これだけは、いえます。日本の若いコピーライターの中には、美文調の、いたずらに修飾語の多いコピーを書く傾向がはびこっていること(40数年前のことです)。
また、あまりに修飾語を取り去りすぎて、ゴツゴツのコピーを書く人もいること。
コピーとは、要するに、説得の技術です。何が読者を説得するか、もう一度考えてみましょう。


>>[効果的なコピー作法]目次