創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](9-了)


彼が利益を産む組織に属していれば、他との違いを針小棒大に言ってみることもありましょう。PKL社も創業2,3年目の発言には元気のいい言葉が多かったのです。ロイス氏とケーニグ氏が15分個室にこもれば「広告ができている」と豪語したのは、DDBの30分単位のアート・コピー・セッション(対話)に対する強がりだったと、いまは冷静に指摘しましょう。
明日から、PKLのクリエイターたちにわたされていた製品についての、<ファクト・ブック>を紹介します。



第9章 コピーの強調 (9−了)

強調の理論


私たちのつくる広告は、読者の心に、ロイス氏のいうように「商品についてのイメージを埋め」こまなけばなりません。コピーは、商品についてのイメージを、ことばに置きかえて埋めこむわけです。
アレレストの草の写真を並べた広告でいえは、「クシャミ」「アレルギーにはアレスト」というのが、そのことばであるわけです。
別のいい方をすれば、伝達しなければならないメッセージ・アイデアを、読み手の心に残すにはどうするか、ということになります。
この章まで、8章をついやしてこのことを書きつづけてきたのです。「ヘッドライン」の章で----、「コピーのプラン」の章で---、「コピーの視覚化」の章で--- 、「コピーの流れ」の章で---、そしていま、あらためて、広告における強調の手段をまとめようとしているのです。
強調というのは、一種の力関係です。比較の問題です。
多くのものの中から、一つかニつのことを目立たせようという考え方ですから、極端にいえば、広告自体が強調の渦中にあるとさえいえます。
部厚いページの中から、数多い編集記事と広告群の中から、あなたの広告だけを目立たせようというわけですから、それだからこそ、コピーライターにとっては、必須の知識ともいえるのです。
さて、ここで一つ、ご注意申しあげておきます。
本章は、強調のテクニックについて説明するわけですが、このテクニックに通じれば、何でも強調できるはずです。
しかし、多くの人が誤るのは、広告主にとっては興味のあるアイデアも、読者にとっては興味のないアイデアであるということもあるということを知らないためです。
つまり、強調するものの選択を誤ってはならないのです。
(この点については、第6章「のセリング・ボインツ」の章を読み返してください)。
とにかく、強調すべきアイデアを選択するまえに、強調しなくてもよいアイデアとことばを選りだすことをやってください。また、強調すべきアイデアとことばには、順位をつけてください。
これらのことがすんだら、強調の技術を覚えましょう.

M・デボーは、次の3つの手段に大別しています。


(1) 位置による強調
(2) グラフィック的な強調
(3) ことばの強調


位置による強調というのは、広告のはじまる部分に主イラストレイションとヘッドラインを置くやり方です。
また、広告が終わる部分---テキストの結びと、広告主名や製品名が置かれる部分も重要だというのす。
アレレストの草の写真の広告では、この点でもみごとに合格しています。すなわち、主イラストレイションには16種類のアレルギーの元兇たるべき草の写真、そして「クシャミ」を強調したヘッドライン、 結びは「アレルギーにはアレレスト」というスローガンを置いて、製品写真---常識的レイアウトというデザイナーの人もいましょうが、そうしたやり方でもアイデアさえりっばなら十分すぎるほど効果的なのです。
広告は、デザイナーの「私」を表現するものではありません。
デッカイ鼻の写真の広告をごらんください。この広告では、鼻の穴のすぐ下にヘッドラインを置いて、「呼吸」と「クシャミ」を結びつけて強調しています。女性の顔のハイキー写真の広告も同じやり方です。



君は風邪ひいたんじゃないよ!

オデ、カデダァナアッテ?

君はアレルギーなんだよ!

オデ、アデルギダッテ?


風邪のようにクシャミもします、涙も出ます、鼻もフンフンします、咳も出ます、風邪みたいです。それでもやっぱりアレルレギーなのです。見分ける方法の一つは:もし年に3回かそれ以上も風邪をひくようなら、あなたの風邪はアレルギーの見込み十分。アレレストをお飲みなさい。この新錠剤はアレルギー性の風邪のくしゃくしゃ目を鎮めます。風邪の薬でこういうふうに効くものはありません。起きぬけにくしゃみが出たらアレレストを。もしあなたが----ハッ、ハッ、ハックション! アレレストです。
(風邪をひくと、普通はしばらくの間、抵抗力ができるはずですから、年の3回以上も風邪を引くようなら、アレレストをお飲みなさい。薬局で説明を聞いてからお飲みください)。 24錠入りで1ドル25セント。



You don't have a cold!

I dode hab a cold?

You have an allergy!
I hab an allergee?

  
It can sneeze like a cold, tear like a cold, sniff like a cold, blow like a cold, feel like a cold---and still be a allergy. One way to tell: if you have 3 or more colds a year, the chances are good your cold is an allergy.+ Take Allerest.
Another way to tell: you have hayfevers in summer, you're probably allergic in winter to dust, or feathers, or dogs, or cats, or wool, or cosmetics. (Sorry, daring.) You sniffle and sneeze like a common cold. Take Allerest.

グラフィックな強調というのを、上の広告で説明しましょう。
これは、一時流行した、アメリカン・タイポグラフィーなどという無意味なタイポグラフィーの遊びではありません。意味があるのです。(注:この章を書いていた前後に、いろんな活字書体と色彩を使ったデザインが米国に流行し、日本でも真似るデザイナーが少なからずいました)
下のコピーをお読みください。ね、つまり、会話してる一方の男は、アレルギーのために鼻がつまって正しく発音できないのです。
強調したい「鼻づまり」というアイデアを、太いタイポグラフイーをつかって強調しているのです。
鼻の写真の広告も、グラフィックな強調の例といってもいいでしょう。
ほかに、色彩による強調もあります。
問題は、ことばによる強調です。
主要なアイデアをことばにかえて、そのことばを反復登場させるやり方は、はじめに説明しました。
ほかには、詳述して強調するやり方があります。つまり、アイデアの内容を増すのです。
ミルウォーキーの広告、エイムズ、ベイ市---の広告がその例です。
細かい点をあげたり、例をあげたりしてアイデアを強調するわけです。
そのほか、各センテンスの終わりを未完結にしておいて、最後にまとめてドカンとアイデアを出すとか、文節を置きかえる---つまり起承転結を逆にするやり方などがあります。
新語をつくるのもその一つかも。
これらは、文章学、修辞学の応用だといえましょう、そっちの方の勉強をしてください。


修辞学の本として、遺友・佐藤信夫さんから贈られた3冊の講談社学術文庫をおすすめします。
佐藤さんは1932年生まれ。東大哲学科卒。ロラン・バルトの翻訳家でもあります。
没後に文庫化された『わざとらしさのレトリック』(1994.11.10)がいちばんのおすすめ。



まず、知れ


15分間で広告をつくる---といわれているPKL社の広告も、よく調べてみると、なかなかどうして、きちんと理にかなっているのです。
ルールなど無視すると豪言するにしては、ル-ルにはまっているのです.
この点について、1961年の全米コピーライターズ・クラブの年次大会のスピーチで、ケーニグ氏はこう語っています。


コピーライターは、ルールを破ることができるようになる前に、ルールを知らなければなりません。
破れないルールだってあります。破るべきルールもあります。
だれが国語をまちがえて用いる権利を、私たちコピーライターに与えたのですか。
なぜ私たちは、コピーライターが書くべきである、よい英語を書かないのですか。


コピーライターの中には、ルールに対してまったく無知な人、ルールを知ろうと努めない人、ルールを知ることを軽蔑して得意がっている我流屋が少なからずいます。
その態度は、広告主にたいして傲慢であることになるばかりか、危険でもあります。
コピーを書くという仕事は、一つの専門的な仕事なのです。職業訓練なしにできる仕事ではないのです。
これをアマチュアリズムでいけるなどと思いあがってはけません。


>>[効果的なコピー作法]目次




ジョージ・ロイス氏のインタビュー


ジョージ・ロイス氏、『エスカイヤ(エスクァイア)』誌の表紙を語る(上)(下)
from "1978 Annual of Art Directors Club of New York"ジョージ・ロイスへの道(123456)

ロイス氏のエッセイ
  >「ぼくは、コンプスに信を置かない」
  >「あなたはマッズォズをおつくりなさい。広告はぼくがつくります。」
  >「すばらしいコピーライターといっしょに働くことができるなら、ぼくだって良い広告がつくれるさ」
  >ぼくの建物コンプレックス
  >マーケティング志向
  >良い広告のための8章
  >セールスのためのアートと---
  >テレビ広告

>>ジョージ・ロイス氏からのメッセージ