創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](1-4)

いつ頃から、「キャッチ・コピー」という奇妙な和製英語が流行ることになったのか。最近では、記者が新聞記事の中でも、広告の「決め言葉(キャッチ・フレイズ)」をさして使うようになってきている。嫌な造語だ。察するに、印刷媒体のそれにはヘッドライン(見出し)、サブ・リード(小見出し)というきちんとした用語があり、つづいてボディ・コピー。ところがTV-CMの「決め言葉」のいいまわしに困ったか、「キャッチ・コピー」。キャッチ・ガールを連想させる下卑た語感。新聞記者が自分の新聞のヘッドラインを「キャッチ・コピー」と呼んでいるのは見たことがない。あの人たちはやや揶揄的に使っている。この稿では、きちんと「ヘッドライン」で通した。




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読者をメイン・コピーにひきずりこむ]---のつづき

(承前)これは、簡単なようで、その実、非常にやっかいなテクニックなのです。

テーマは、その広告のヘッドラインとメイン・イラストレーション、ボディ・コピーの第1節と最終節にくっきり表わしておかなければ、読者に明確に伝わらないという原理があります。S&Wの広告を参考例にあげたのは、この点が実にうまいからです。
もう一度、「大きな魚は逃がしてやります」の広告を見てください。そして、ボディ・コピーを読んでみましょう。
ヘッドラインからメイン・イラストレーション(この場合は写真)、 そしてボディ・コピーが、 マグロの缶詰は小さい魚を詰めたのがおいしいというテーマ・アイデアで統一されて、全然乱れていません。

この、マグロの缶詰の分だけではありません。シャケの広告も、トマトの広告も豆も、みんなそうです。まるでコピー作法の手本のような広告なのです。
ヘッドラインでテーマ・アイデアを提示することと、ボディ・コピーにまで読者を誘いこむための余地を残しておくという、一見矛盾したように思えるテクニック上の問題は、 ライター個人の熟達した判断がその調和を保たせます。
いずれにしても、この、読者をメイン・コピーにひきずりこむというヘッドラインの機能をりっはに働かせるためにも、「そこには何か自分のためになることが書かれてありそうだ」と読者に思わすような、その製品から消費者が受ける利便にもとづいたテーマ・アイデアを提示するのが常道です。


ヘッドラインの種類

多くの人が、それぞれの基準を立ててへッドラインを分類していますが、そのほとんどが、たんに様式化するにとどまっています。
たとえばH・ロンソソの"Advertising dictionary of selllng words、 phrass and appeals"は、 実際に使用されたものを数年分採集して再分類していますが、各製品ごとに一般的アピール(general appeals)と個別的アピール(specirfilc appeals)という項目を立てて、それぞれの製品に即した細分類を行なっています。
飛行機旅行の項を例によると、一般的アピールでは、気分、タイプ、サービス、風景、経済性、その他に分かれており、個別的アピールには、スピード、スケジュール、設備、食事、安全性があげられています。
W・ダンは、


(1) ニュース性のヘッドライン   news headline
(2) 好奇心に訴えるヘッドライン  curiousity headline
(3) 感情に訴えるヘッドライン   emotional headline
(4) 指示的なヘッドライン     directive headline
(5) ヘッドラインなしの広告    no headline


というふうに分類しています。
ただし、彼は「広告人の多くは、ヘッドライン・コピーやその他の広告要素を分類するのをエセ精密」とあざ笑っています。
私も「ヘッドラインの形態的分類を省きたいのですが、ヘッドラインの種頬を頭に入れておくと、ライターがコピーの行き方をまとめるのに役立つことが多い」と断わり書きもしています。


またM・デポーは、へッドラインの分析は「内容または主題を基準にする方が役立つ。なぜなら、ヘッドラインがいっている内容は、それがどのようないい方をしているかよりも、効果に影響することが知られているからである」と、ヘッドラインの様式的分類を批判して、内容を基準にしたというヘッドラインの主たる種類を5つ挙げ。それぞれの効果を解説しています。
それによると、


(1) 製品の利便を主とした、商品名なしのヘッドライン
  product benefits
(2) 製品の特質にもとづいた、商品名なしのヘッドライン
  product attributes
(3) 製品の利便を主とした、商品名入りのヘッドライン
(4) 製品の特質にもとづいた、商品名入りのヘッドライン
(5) ヒューマン・インタレストなヘッドライン


となっています。そして、


(1)の「製品の利便を主とした、商品名なしのヘッドライン」の効果を、ボディ・コピーを読ませようとするときにもっとも強力であるが、競争的に弱いと指摘しています。

(2)の「製品の特質にもとづいた、商品名なしのヘッドライン」はいちばん力の弱いヘッドラインだときめつけていますが、その製品が非常に興味のあるものならば、このタイプのヘッドラインも利用価値があるともいっています。

(3)の「利便を主とした、商品名入り」は、(1)のタイプと同様に興味をひく力があり、現在の使用者を選び出すが、非使用者はヘッドラインから先を読もうとする刺激をうけないだろう、といっています。この種のヘッドラインが適切なのは、広告内容が単純で、ボディ・コピーを重視していない場合、また、(1)のタイプのものを競争的に強くしたい場合だ、ともいっています(ただし、銘柄名が広告のなかでよく目につく場所においてある時には無用のテクニックです)。

(4)の「特質にもとづいた、商品名入り」は、(2)と同様に興味をひく力が弱い上に、現在の使用者さえ興味を覚えないといっています。

(5)の「ヒューマン・インタレストなヘッドライン」については、人間の興味をひく広範囲な内容をもっていなければならず、それは、人の心に訴える力があり、何かの思想か、満足を約束するかを示唆しなければならないといいます。恩恵というのは「読むことからくる」恩恵です。つまり、コピーの残りを読めば何かが得られると読者が期待することです。


S&W缶詰の広告例で、このタイプのヘッドラインに近いのは、「大きい魚は逃がしてやります」でしょう。
このへッディングは非常に直接にS&Wマグロ碓語のよさを指示していながら、表現はヒューマン・インタレスト性が強く、しかも、遠まわしでない点がめずらしいコピーです。
とにかく、へッドラインをどんなふうに分類しょうと、そのことから創造的なモメyトは何も生まれてきません。
例にあげた「大きい魚---」にしたところで、実際のところ、W。ダンの分析法を用いても、M。デポーの分類にしたがっても。、ひと筋縄にはいかないのです。
ヘッドラインのテクニックには、まだまだいろんな問題があります。
動詞を入れると訴求力が強くなるとか、命令型のへッドラインは危険を伴なうとか、質問型のヘッドラインは、読者が簡単に答えられないような問いにしておくとボディ・コピーが読まれる確率が高いとか、未来型のヘッドラインは弱いとか、いちいち数えあげたらきりがないほどあります。
しかし、型式に属することは、じつはさほど重要ではありません。初心者には研究の手順を、べテランには知識と経験の再整理の意味しかないといってもよいでしょう。
へッドラインのテクニックで大切なのは、何を、いかにいうかの、「何を」を決めることです。
しかもそれはいままで、テクニックと考えられないで、プランニングの問題とされていました。つまり。広告の目的とされていました。しかし、ヘッドラインの作り方の見地から、この問題を検討してみると、また変わった考え方が生まれてきます。


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