創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](10-2)


アート・コピー会談(セッション)について、繰り返し、繰り返し----いまPDFしていて自分でもくどいと思うし、日本の広告クリエイティブ仲間ではすでに常識になっているのに----とお思いでしょうが、46年前、ぼくのこのシリーズが出るまで、日本ではアートディレクターのほうが主導権をもっているような見解がもっぱらだったのです。当時、席を置いていたところが日本デザインセンター----経営陣には亀倉雄策先生、原弘先生、山城隆一先生といった東京アートディレクターズ・クラブのメンバーである重鎮がいらっしゃいました。
東京アートディレクターズ・クラブは、いち早く米国の広告クリエイティブ界を見学してきた新井静一郎(電通)氏とか今泉武治氏(ミツワ石鹸)などの提唱で結成されていました。つまり、広告は、アートディレクターによってデザインされるべきだという考え方が広められたのです。
東京コピーライターズ・クラブ(当初はコピー十日会)の結成は、それより数年遅れて渡米、実情見聞をしてきた村瀬尚氏(森永製菓)らが主唱して結成されました。
DDBなどのすぐれてクリエイティブな広告代理店は、アートディレクターとコピーライターは対等の立場で広告をつくっている----と主張する必要ががあったし、正しく理解されなければ----という思いにつきうごかされていたのでしょう。


第10章 コピーの長さ(10-2)


気にしないで


電報を気にしない? できっこありません、だれひとり----
電報を無視しません。あなたの電報もいつも、注意を命令し、
即答を要求します。はっきりした反応がほしかったら,
電報をおうちなさい。

(昨日と同じ黄色い電報用紙です)

NY=ADC展の評 (つづき)


Q.ことしの受賞広告について、スターチ社のデータがありますか?


A.まだ、ちょっと早すぎますから----スターチ社のものはありません。が、ウエスタン・ユニオン社のキャンペーンについてのデータがあります。それによると、このADC展で受賞した広告がよく読まれる広告であることはわかっています。ペントン & ボウルズ社からの報告によると:
メダルを受賞した「無視してごらん」の広告は、掲載されたどの雑誌でも、その掲載誌の第1位を得ています。このキャンペーンは、21点の広告からできていますが、そのうち、単価あたりの注目率で第1位を得たものが15点、第2位は3回でした。
注目率がその掲載誌が第1位を得たという資料はありませんが、このキャンペーンが精読率の点で大成功を収めたことは間違いありません。
ふつうの広告の単価あたりの注目率を100として、ウエスタン・ユニオン社の広告のいくつかは、524、500(3回)、462、389、387、380----で、最低のものでも146でした。
これは『タイム』誌に掲載されたものでしたが、それでも平均よりも46%も高く、しかも同誌の中では第4位でした。


と、このキャンペーンがひきあいに出されています。
そして、この評をよく読んでみますと、この回の合言葉であった「アングラフィック」を、もっとも的確に表現した広告がウエスタン・ユニオンの広告であったのだろうと想像されます。
この時の審査評の一部は、第4章「コピーの現覚化」の章でも引用していますから、もういちどあわせて読んでいただきたいと思いますが、要するに「アイデアそのもの」という、最近のニューヨーク派の広告の傾向を、この広告によって、私たちほ知ることができるのです。
NY-ADC展の審査員たちは、こうも言っています。


「雑誌広告に必要なものは、よりすぐれたへッドライン----最高の広告がもっているような、鋭いコピー(かならずしも長いとは限らない)が必要です。ストーリーもレイアウトも、ビジュアルな目をもったライターの、すぐれたヘッドラインによってよくなります」
(注:米国では雑誌が全国媒体。新聞は日本の県紙に似ている)


ベントン & ボウルズ社のフォーブ氏がビジュアルな目をもっているのかどうか、私は知りません。けれども氏の手紙から受ける印象では、氏がアートディレクターとよく協力してこの広告をつくったことだけはわかります。
こうした広告のつくり方、すなわち、アートディレクターとコピーライターの相互協力について、DDBの副社長兼アートディレクターであるW・トウビン氏は、こう語っています。


アカウント・エグゼクティブが制作部門に広告の問題をもってくる。その間題をアートディレクターとコピーライターが同時にきく。そして両者間のやりとりが起きる。
それが終わってみると、決められたアイデアは、いったいだれが先にいい出したものやら、わかる人はいない。アートディレクターがヘッドラインを考えたかもしれない。コピーライターが絵の扱い方を考えたかもしれない。それは問題ではない。
だが、このアートとコピーのセッションの出発点は、この広告はそのメッセージを首尾よく伝えるために何を必要としているか? だ。
つづいて彼は「このアートとコピーのセッションは必要な手順だが、正式に行なわれるものではない。ブレーン・ストーミングとか、グループ討議とはまったく似たところがない。高度にクリエイティブな2人の人間がいるだけだ。それは、アートディレクターとコピーライターである」といっています。


前章「コピーの強調」で紹介したPKL代理店もそうでしたが、こうしたやり方は、どうやら、極度にクリエイティブな代理店のやり方のようです。
DDBの副社長兼ヘッド・アートディレクターであり、第8章のオーバックスの広告(未掲載)のロバート・ゲージADの秘書、A・ラーマン嬢は手紙でこう教えてくれました。
「DDBでは、クリエイティブ・グループを組織して広告をつくります。コピーライターが絵のアイデアを出すことがしょっちゅうなら、アートディレクターがヘッドラインを書くことも多いのです」


クリエイティブ・グループというのは、アート・コピー=セッションのメンバー、すなわち、アートディレクターとコピーライターの2人です。
こういったやり方で広告をつくるとすると、コピーライターの役割りはすごく重要になってきます。
たんに文章がうまく書けるとか、言いまわしの技術を心得ているとかいったことではすみません。
その広告が読者の目をとらえたとき、読者の心の中にどんな反応が起きるかといったことまで見透せるほどの能力がなければなりませんし、広告コピーの原理に精通していなければなりません。


明日は、電文コピーの項。


>>[効果的なコピー作法]目次



【参考】DDBのW(ビル)・トウビン氏のスピーチ
ビル・トウビン氏のスピーチ
「あまりにも無秩序な」(1234了)