創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(276)DDBが選んだDDB ・・・【DDB紹介[終末宣言]】(5)

もう、ご存じのように、きょうで5日目のこのシリーズは、1969年6月に創業30周年を迎えたDDBの記念特集号『DDBニュース』からの転載である。DDBが創造した偉大なキャンぺーン・・・VWビートルとエイビス・レンタカーを立ち上げたアートディレクターが、ヘルムート・クローン氏であることを教えない美術大学やアート・スクールはないはず。もし、講じていなかったら、その教室はまやかしだ。ところで、このクローン氏、哲学者によくある変わり者である。DDBでは広告の制作をアート=コピー・セッションで行う、ところがクローン氏は、ただ黙ってコピーライターをじっと見つめて、そのおしゃべりを聞いているだけだと。これが3日も5日もつづくと、ライターは気が狂いそうになり、チームを降りたいと切実に思うようになると打ち明けてくれた。しかし、彼がデザインしたものが世紀を代表するキャンペーンになるのだと考えて耐えるのだと。そうそう、DDBの創業は1949年、VWビートルのDDBによる立ち上げは1959年8月・・・そしてクローン氏がDDBを去ったのが、創立30周年の1969年後半。つまり、このインタヴューはDDB在職時最後のもの。

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>>DDB紹介[終末宣言]クリエイターインタビュー集目次


「全体の語りロ・・・・・・それが現在私がすべてての仕事で追求しているものです」

   シニアVP兼クリエイティブ・マネジャー 
   ヘルムート・クローン氏 HELMUT KRONE


「君がへッドラインで売るより、私はピンク色でもっと多くの車を売ってみせる」クローンさんの有名な警句ですが、説明してくださいますか。

クローン:あれはひとつの局面を象徴したものです。
いかにすばらしいへッドラインといえども、飾りたてすぎれば力を失ってしまう。だから、他のものをさがさざるを得なくなるということを言おうしたのです。


小さいことが理想
訳文とエピソードは・・・[かぶと虫図版100選(2)


言葉のアプローチの代わりに見つけた表現方法を指摘した、しゃれた言いまわしですよ。人は非常にビジュアルになったり、かと思うと言葉中心になったり・・・・・・行きつもどりつする。両方は無理でしょう。
しかし、あの警句は、私がエド・マケープに言ったもので、じつは、私は、彼のみごとなヘッドラインに常に嫉妬していたからなんです。
へッドラインでは彼にかなわないいと見て、彼にはできないビジュアルな面でなら勝負できると思ったたというのが本音です。

chuukyuuのひとこと】クローン氏を嫉妬させたコピーライター・・・・・・エド・マケーブ氏はDDBを出て、スカリ&マケーブ社を創立。その時のインタヴューはこのシリーズ終了後に紹介予定。

:「局面」という言葉をお使いになりましたが、伝説にはもちろん「ヘルムートの局面」が含まれますよね。

クローン:形而下のね。表面的です。大きなタイプの局面。小さなタイプの局面。
しかし、ひとつだけ共通したことがあります。
私は常に製品のために個性的なパーソナリティを追求しているという点です。
タイプをピンクにしょうが、パックを金色にしょうが、モノクロだけの広告にしょうが、私たちが使える道具はふんだんにあるのです。
でもほとんどの人がそのどれも使いません。
ページに導入できる手法は恐しいほどとたくさんあるんです。私は最近、プレンターノやスクリブナーの域に達っするまで、囲りの物を全て見て、できるだけたくさんの物を買い、世界を私のオフィスに持ってくるまで、動くことはできないと感じてきました。
頭から出てくるもんじゃないんです。前はそう思ってましたが、考えが変わりました。

:製品のために個性的なパーソナリティをさがすそれが・・・・・・「ルック(スタイル)」ですか?

クローン:「ルック(スタイル)」ではなく・・・・・・全体の語り口です。各キャンペーンの語り口をさがす・・・・・・それは私のお家業なんですよ。たとえば、アウディ5000のエンジニアたち。あれは表現のひとつのアイデアでした。最も大切なのがそのスタイルだったのです、見かけではなく。
語りロ。ルックは一部でしかありません。時にはルックがすべてになることもありますし、また皆無という場合も出てきます。
しかし、最近、私が興味を持っているのは、語り口です。エイビス以来、ずっとそのことに興味があったのかもしれません。

chuukyuuのすすめクローン氏とグリーン女史によるエイビス・キャンペーンは(1234567)

:O.M.スコットは?
クローン:O.M.スコットは、語りも、見かけも世俗的な方法です。非常にL.L. ビーン式でしょう。あの会社にはそれでいいと思ったんです。タウン・イースト・ルックで、ジャック・ディロンが同じやり方ですばらしいコピーを書いています。
「疑問がおありの方は、オハイオ州マリーウェルズの私どもにお手紙ください・・・・・・番地などいりません。なにしろ100年も同地に所在しているのです」と彼がやっているのと、現在私が「ルック(スタイル)」でやっているのと同じですよ。
したがって、全体の語り口なのです。玄関に入って来た瞬間から帰る瞬間まで強烈な個性を見せたため忘れられないセ一ルスマンのようなものですよ。
現在私がすべての仕事で追求しているのが、それなんです。
いまや、無色のセールスマンがうじゃうじゃしています。そしてもちろん無色の広告も。
私が求めているのは、忘れられないパーソナリティです。

:あなたのポラロイドの広告はどんなカテゴリーに入りますか?

クローン:アウディ・フォックスとアウディ5000の仕事の方がポラロイドの仕事よりこのカテゴリーに入るでしょう。






ぼくはこれまで、レーシング・カーを設計してきましたが、
このアウディ5000は大きな挑戦でしたよ。



夫婦で参画。私は車を設計しました。
亭主ドノは色を決めました。


ポラロイドの仕事はその点ではあまり強くありません・・・・・・他のメリットはありますけど、いま話している範疇には入りません。ポラロイドの場合の必要条件は常に複雑でなくてはならないことです。
そうでなかったら、彼らの目的を達せられません。
ポラロイドは、たとえばコダックと違って、貴族的な全社です。会社としても非常に優雅で、きっちりと仕立てられ、カットされています。
パッケージングも同様で、カメラのデザイン、公けの会での話しっぷりも同様です。芸術のパトロンであり、一流芸術家を招いて仕事をさせます。
だから、私もそうしかできません。スコットのように小さな会社の仕事のように、個性的なことは一切やれないのです。

:DDBフォルクスワーゲンの仕事から個性的な調子はありましたね。でもあなたがダイナ・ショア・タイプ、踊る少女、See the U.S.A. in your Chevrolet (シボレーに乗って米国を見ようよ)調のキャンペーンであの車を「アメリカナイズ」しようとしたら、シンプルに、はっきりと、魅力的に語るというコンセプトを持ったバーンバックさんに止められたとうかがっています。あの経験は役に立ちましたか?

クローン:ええ。自分がイエス・キリストの化身であるという自負を捨て、私にも誤りはあるのだということを悟りました。そしてたしかに私は間違っていました。あれは私の完全なミスジャッジです。当時はダイレクトでシンプルなアプローチが良かったのです。いつの世でもそうでしううが。

:どんな製品でも、サービスでもですか?

クローン:そう。時には非常に複雑にすべきだと思うこともありますかね。たとえは・・・・・・ポルシェでそれをやろうとしています。ポルシェそのもの、あの全社そのものの広告が作りたいのです。
広告は非常にすぐれたパッケージのようなものです。すはらしいバッケージは製品を作っている全社、そしてその中味を象徴します。
広告も全く同じ機能を果たすべきです。いや、それ以上に。
しかしそれはやるとして、誰に語らせるか。それが問題です。しゃれたへッドライン、 そしてきちんとレイアウトされた写真、それだけでは不十分なのです。

:他に変らないものがありますか?

クローン:私の大の苦手があります。ロゴです。私の人生はロゴとの闘いでした。私はロゴから逃れるためこの世の誰よりも離れ技をやってのけた人間でしょうね。もちろん、何かをただ逃れるれるというわけにはいきません。
物を売るには、ロゴに代るもっと良いものを見つけねばなりません。しかし、私はロゴを信用してません。昔からね。
ロゴはまるで「私が広告だ」 と言っているようで、人びとの目を広告からそらせてしまいます。

:オーバック「oh!」の広告は?


オーバックス・デパートの広告

クローン:あれはロゴですか? さあね。もしそうとしたら、あれは私のロゴです。ページの下にサインするためこだわるほどのものじゃないですよ。フォックスですか?? あれは、広告全体がロゴです。私が言っているのは、マーク・・・・・・トレードマークのことですよ。

:あなたが闘って勝ったロゴの例をお話ししてください。

クローン:エイビスがいい例です。彼らが初めてここへ来た時、高価なデザイン・プログラムをやった後で、その高価なデザイン・プログラムからあのロゴが思いつかれました。
私が最初にやったのは、それを使わないことです。しかし彼らもあの広告が非常にピュアであってロゴにこだわるべきでないと悟ってくれたというわけです。


訳文・解説は・・・[エイビス01


>>DDB紹介[終末宣言]クリエイターインタビュー集目次


chuukyuu予告明日は、クローン氏自選の2点の中の1点の原文が手に入ったので、フォックスのカメラのファインダーにキツネの顔が写っている分の原文・訳文を。(自選のもう1点は、きょう、あげたVWビートル Think small)。


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