創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(611)[ニューヨーカー・アーカイブ]を基にエイビス・シリーズ(3)


キャンペーンは1963年5月から掲載が始まったというのに、1963年5月17日号のプリンターズ・インク誌は、早くも、「業界で2位で、しかも成功する法」との見出しをさげた小論を、エイビスのために書き、「あなたが最大でない場合」「あなたが2位にすぎない場合」「あなたがもっともポピュラーとはいえない場合」「あなたは、どうしますか?」と問い、こう断言しています。
「これは広告がひとつの製品を変化進歩させることを助けた、きわめてまれな例である」


たぶん、DDBのパブリシティ部が事前に手をうっていたのでしょうが、成功の確信がなければ、こういうニュース・リリースは流さないでしょうから、地域を限定して、シリーズ(1)(2)あたりをテスト・ランして、成果をあげていたのでしょう。

 


エイビスは、洗ってない車なんて
我慢できません。


指紋だらけのミラーも、灰皿の残骸も、フォードの生きのいいスーパー・トルクつきじゃない車も・・・。
なぜって?
首位じゃなかったら、一所懸命にやるしかないでしょう?
だから私たちは、そうやってます。
2位ですから。


C/W ポーラ・グリーン Paula Green
A/D ヘルムート・クローン Helmut Krone
"The NEWYORKER" 1963.07.13


クローン氏とグリーン夫人のエイビス・クリエイティブ・チームは、じつは、2案準備していたのです。
このシリーズ(1)(2)に掲出したビッグ・コピー、スモール・ピクチャーのシリーズと、きょうのビッグ・ピクチャー、ビッグ・コピーと呼ばれているのと。


けっきょく、明日の(4)、明後日の(5)と以下の7点試作(5点は明日、明後日掲示)、『ニューヨーカー』誌では3点しか使いませんでした。ビッグ・コピー、スモール・ピクチャーのシリーズのほうが圧倒的に支持されたのでしょう。


図:ボツ案



An Interview with Helmut Krone (抜粋 "DDB NEWS" Sept. 1968 )



エイビスは、フォルクスワーゲンの裏返し


「エイビスのレイアウトについてお尋ねします。あれもまた、新しいものでしたね」


クローン「ええ。ある晩、ボブ・ゲイジ(DDBのクリエイティブ部門の責任者)と一緒に列車で帰宅したのを思い出します。
当時はみんな、フォルクスワーゲンのレイアウトをやっていました。
そのころは、ヘッドラインが、だんだん小さくなる傾向があって、意味のありげな言葉を3つ並べるのが流行だったんです。
その言葉自体で強い印象を与えるので、非常に小さい文字で組むことができたのです。
ボブ・ゲイジとは、列車の中で、まさに、そのことについて議論したのです。彼は『ヘッドラインを読めなくなる寸前まで小さくするとして、どこまで小さく出来るだものだろう?』と聞きました。
で、それについて、ぼくは考えました。
ちょうどその時、エイビスの仕事にとりかかっていて、ページ・スタイルを捜していたのです。ぼくは、ページ・スタイルはとても重要なものだと考えています。
6メートル離れたところから、その広告主の判別ができるようでなければいけません」


「単にベージ・スタイルだけでですか? マークやロゴ抜きで…?」


クローン「そう。ページ・スタイルだけでね。フォルクスワーゲンの雑誌広告は9メートルの、エイビスの雑誌広告は12メートルの距離からでも判別できます。


ヘッドラインの話題に戻しましょう。
ボブ・ゲイジが言ったことについて考えている間に、だんだん小さくなって行くヘッドラインばかりに気をとられているのは、バカげているんじゃないかと考えだしたのです。
それで、エイビスでやったことは、フォルクスワーゲンのスタイルをひっくり返すことでした。
ヘッドラインを大きくして、写真とコピー・ブロックの間ではなく、いちばん上に置きました。
写真は小さく、コピーは大きくなりました。


この作業は、注意深く、意識的に行われ、大変冷静に完成に達しました。
これはインスピレーションによるものではなく、数学的な解決でした。
大きかったものはすべて小さく、小さかったものは大きくしたのです」



図:クローン氏によるエイビスとVWのレイアウトの逆転スケッチ
(注:VWビートル「Think small(小さいことが理想)」の広告はこちらから。)