(155)『コピーライターの歴史』(番外−5-4)
告白するのも気はずかしいのですが、若い頃、お金のほとんどは、DDBの取材や資料購入につぎ込んで、身のまわりのことは最低限でした。で、ハサウェイ・シャツの広告の初回の例のコピー中にでている生地の銘柄がわからなくて、VIYELLAの小社史を英国ダービー市のWilliam Hollins & Co. Ltdへ手紙で請求したり、繊維が長いシー・アイランド・コットン(海島棉)について、その協会から説明を聞いたりしたことを思いだしています。コピーライター気質というのでしょうか、気になると、調べなくてはすまない---こういうのは、リサーチではなく、gather data for facts とでもいうんでしょうね。右の小冊子はダービーから送られてきたVIYELLAのもの。そういえばその後、ダービー市へは、磁器のロイヤル・クラウン・ダービーの工場を古伊万里手の工程を見学するために、3度訪問したなあ。両社とも英国女王の御用達。
しゃれていて、軽いハサウェイのパチスト地57年型オクスフォード
「まったくの買いものですよ」と、 この男はいいます。「とびきり軽いんです。それでいて薄っぺらとか、ありふれているとかいうんじゃない。私は毎年、一度に1ダース注文しています」
この男が激賞しているのは、もちろん、ハサウェイの新しいバチスト(薄手の上等白麻布)地オクスフォード・シャツのことです。このすばらしい生地は、一見、普通の綿地オクスフォードの上質のもののように見えます。が、じつはその半分という軽さ。ニュー・イングランドで、ハサウェイ用に別織りされているこの生地は、サクッとした涼しさのまま、キチンとフォーマルに見せるという、夏の日の悩みをみごとに解決しました。
たいていの夏用シャツ地が、どこかベラベラした感じがするのと異なり、ハサウェイのバチスト・オクスフォードは、生地そのものが軽くできているのです。有名なこのクラブ・タイ(注;オクスフォード大学の何かのクラブ所属をあらわす縞柄)といっしょにお召しになって、真のオクスフォード気分を満喫してください。(イートン校に栄光あれ!)
新しいバチスト・オクスフォードの仕立ては、ハサウェイのホールマークである、ロ一・スローピング・カラー、目立たないシングル・二一ドル・ステッチ、マン・サイズ・ボタン、 スクェア・カット・カフスなどの特徴をそなえています。白は5.95ドル、色物は少し高くなりますが、グレイ、ブルー、アイポリー、タン/(褐色)、 ゴールド・コーン、それに新しくジェントルマンリィ・ストライプも,揃いました。
すばらしい生地のハサウェイ・シャツは、地球上のどこでも、伝統のある店にあります。お近くの扱い店がお知りになりたい方は、ハサウェイ社へお手紙をどうぞ。
Urbane, yet light bodied: Hathaway's Batiste Oxford '57
"AREWARDING DISCOVERY:" says The Man. "Exceptionally light in body---yet in no sense 'thin' or commonplace. I shall order a dozen at once."
It's the shirt he extols, of course. Made of HATHAWAY'S new Batiste Oxford. This remarkable fabric looks identical with regular cotton Oxfords of top-grade--- yet is half as light again to wear. Woven in New England, for HATHAWAY exclusively, it has completely solved the hot weather problem of how to look crisply formal while keeping unclammily cool.
Unlike so many summer-weight shirtings, which have a certain sleaziness about them, HATHAWAY'S new Batiste Oxford is a lightweight shirt of substonce. Note its truly Oxonian assurance when worn' with this famous tie: (Flormeat Etena!)
New Batiste Oxford is tailored with all the HATHAWAY hallmarks---low-sloping collar, almost invisible single-needle stitching, man-size buttons, square-cut cuFFs. It comes in white, at $5.95. Also, at slightly higher prices, in a wide range of solid colors--- grey, blue, ivory, tan, or gold corn---and in a new assortment of gentlemanly strilpes.
You'll find HATHAWAY sirts---in tine fabrics from the four corners of the earth,---at stores which keep up the great tradition. For the name of your nearest store write C. F. Hathaway, Waterville, Maine.
『効果的なコピー作法』より(第3回)
■ 調査の一面性
さて、ランゲル男爵がモデルの、ハサウェイ・シャッの広告にもどりました。
上掲の広告は、1957年3月23日の『ニューヨーカー』誌に載ったものです。44点集めていたハサウェイの広告のなかから、とくにこれを選んだ理由は、じつはこの広告が、毎年使われているからです---といっても、ぼくがが切抜いているのは、1955年4月9日号と1956年3月17日号の『ニューヨーカー』誌に載った分の計3点しかありませんが、写真も同じ、ヘッドライソは'55、'56、'57と変わるだけ。ボディ・コピーもほんの1行が違うだけという、この広告が、いったい、いつから使用されて、いつまでつづいたのか、オグルビー社長に問い合わせましたが、「忙しいので」という返事がきただけなので、よくわかりません。
【chuukyuuのお茶目セリフ】せっかく、継続的に、精密にウォッチングしている東洋の片隅の若者(=当時)への返事のレターとしては、ちょっと礼を欠いていますね。「忙しいの」は、原文は「ほかに釣るべき魚があるので」でした。ぼくは釣るに値とない魚? バーンバックさんはいつもきちんと資料をそえて返事をくださった。
年1回、春先に使われるようです。
この広告を例にとって、「なぜ絵の下にハード・セリング・コピーを置かなけれほならないの」という、はじめに掲げた問いを解明してみましょう。
まず、アイ・パッチをかけたモデルを見てください。あなたは、この男とは、すでに、7年越しの顔なじみなのです。もし、あなたが記憶力のすぐれた方なら、昨年も一昨年の今ごろも、同じ絵の、同じヘッドラインの広告にお員にかかったことを思い出すかもしれません。
そして、もし、あなたが、ハサウェイのパチスト・オクスフォードをお召しになった経験がおありなら、その記憶はもっとあざやかでしょう。
すこしでも1,2年前の広告を記憶していれば、「マタヤッテルナ」とお考えになるでしょう。
あるいは、もっと好意的に、「マタ、春ガキタノダナ」とお感じになるかもしれません。
そして、へッドラインを読む。いつもとあまり変わりない口調のヘッディングです。「しゃれていて、軽い」ハサウェイの常套文句です。
で、90%の人は、そこまでべ-ジをめくってしまう---というのが、先のマコール副社長の信仰なのです。私も、喜んで90%の読者の側にまわります。なぜなら、ヘッドドラインを読んだだけで、すべてが了解できるからです。「しゃれていて、軽い」それでわかるからです。
問題はここです。
ハサウェイの広告は、ボディ・コピーを読ませようとする努力を、はじめから放棄しているのです。90%の読者は、ボディ・コピーを読まないという、一般的調査結果を基にして。その、一般的調査結果です。個別の預査結果ではありません。個別の調査結果の例をあげると、第5章に引用した(注;未掲出)、フォルクスワーゲンの、「エソジンが後部にあるのは、なぜでしょう?」という広告は、32%の読者が、ボディ・コピーを改読んだと、調査が示しています。もちろん、乗用車とシャツとでは、プロダクト・インタレスト(製品への興味度)にやや差がありますが、そんなに大きくは違わないハズです。
ぼくは、第1章で、 「ヘッドラインに銘柄名や会社名を入れると、その広告はボディ・コピーが読まれる率が落ちる」と書きました(注;未掲出)。まさに、ハサウェイの広告はその好例です。
マコール副I社長は、一般的調査結果の、それも一面のみを信仰したために、とんでもない誤りをおかしているのではないでしょうか。
そして、オグルビー社長は、「ハード・セリング・コビーを下に置かなければ、絵だけでは商売にならない」といいました。
では、その、ハード・セリング・コピーというのを読んでみましょう。
どうです、これまでにぼくが引用した、S&Wの、ワーゲンの、スコット・ペーハーの、アメリカン航空の、バーニイのコピー(注;これらはご希望が多ければ、そのうち掲出予定)とは、まるで違って、まったくの売り手言葉のラレツです。
驚くべきは、文中に Oxonian(オクスフォード大出身者) とかEtonian(イートニアン。オクスフォード入学前に入る私立エリート校。日本でいうと旧制の一高→東大の、一高にあたるかな)です。エリート意識が充溢。
【chuukyuuのお茶目セリフ】シャツ地の一つ---斜子織(ななこおり)のオクスフォード地にかけていることはわからんでもないんですが---。まあ、そういう階層相手のシャッなんでしょう。
それが、ユーモラスな表現ならともかく、大まじめなんで、ね。読者の方は、コピーライターのオグルビ一氏がオクスフォード大学中退とは知るよしもありませんから、驚くでしょうが、そのまえに、この、売り手言葉を読むのを止めてしまっているでしょう。
ぼくも、絵の下に「ハード・セリング・コピー」を入れることには反対ではありませんが、こんな読みつづけさすための配慮を書いたコピーを入れることには、賛成しかねます。
ハード・セリングといっても、そこには、読みつづけさすための技巧が必要でしょう。読んでもらえなければ、信じてもらえないんですから。ですから、ハード・セリングといっても、押しつけでなく、読者の観点に立った表現、そして興味を持続さすためのウィットとか、ユーモアがあっていいはずです。