創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(150)『コピーライターの歴史』(番外−1)

いまから50年ほど前、気のきいたコピーライターたち---この職業名も一般的でなく、ふつうは広告文案家と自称していたが---ともかく、コピーライターと自分を呼んでいた人たちが、ひそかに取り寄せて読んでいたのが、『The 100 Great Advertisements』であった。そして、もっともよくとりこまれたのが、ハミルトン時計の広告。なにせ、英文科出の才媛たちがコピーライターを目指していた。某洋酒メーカーの宣伝部の一員になったミズ・Eさんも、換骨奪胎、「深い愛と感謝をこめて、贈る」とやった。和田誠さんに『お楽しみはこれからだ』(文藝春秋)が4冊だが5冊ある。『グレン・ミラー物語』からジューン・アリソンとジェームズ・ステュアートのやりとりが引かれている。
「あなたは愛しているって言ってくれたことがないのね」
「そんなこと知ってると思ってた」
「女はそれを聞きたいものなのよ」
そんな時代だった。


>>『コピーライターの歴史』目次

幾度目かの結婚記念日に、ペギーへ

子どもたちを深い愛情と寛容で見守ってきてくれたことに---、
2,008足の靴下をつくろってくれたことに---、
ぼくの傘と雨靴を神わざ同然に探し出してくれていることに---、
いつもきちんとしたシャツとネクタイを揃えてくれてきたことに---、
ぼくが麻雀に凝っていたときにも、不満顔をしなかったことに---、
ぼくたちを飽きささないように、手を変え品を変えて料理をつくってきてくれたことに---、
いつも家族の中心でいてくれたことに---、
いい腕時計を欲しがっていたのに、気づかないふりしていたダメ亭主のぼくを許してくれたことに---、
今日、欲しがっていたあのハミルトンの時計を、
熱い愛と感謝をこめて、ハイッ!
                     ダメ亭主のジムより


to Peggy---for marrying me in the first place---

for bringing up our children-while I mostly
sat back and gave advice.
for the 2,008 pairs of socks you've darned.
for finding my umbrella and my rubbers
Heaven knows how often!
for tying innumerable dress ties.
for being the family chauffeur, years on end.
for never getting sore at my always getting
sore at your bridge playing.

for planning a thousand meals a year-
and having them taken for granted.
for a constant tenderness I rarely notice
but am sure I couldn't live without.
for wanting a good watch ever so long ..?
and letting your slow-moving huaband
think he'd hit on it all by himself
for just being you ... Darling, here's your
Hamilton with all my love!

Jim


照れくさい
『お楽しみはこれからだ』から、もう2つばかり---。
「女を誘惑するのは征服ですが、結婚するのは無条件降伏です」(ルキノ・ヴィスコンティ『山猫』)
「愛が何だ。炎と燃えて1年。あとの30年は灰だ」(同上)

「男は恋では素人だ」(フランソワ・トリュフォー『隣の女』)

「離れては生きられない。一緒にいるのは苦しすぎる」(同上)
コピーライターの副読本です、このシリーズ---!