[効果的なコピー作法](8−了)
第8章 コピーのユーモア (4)
地下鉄駅の壁面ポスター
(ニューヨークの地下鉄は落書きの花ざかりだった時期がありました)
同上
オーバックスではそれだけしか払わなかったって、ほんとなの?
同上
「ぼく、思うんだけどさ、学校って、
男の子にも、女の子にも、価値のある経験を
くれる、すばらしいところだって」
どんなタイプもそろっているオーバックスのスクール・ショップ
■ ライターの年齢(8−了)
さて、オーバックの広告ですが、全部が全部「ユーモアのある広告」というわけではありません。
ユーモア以外の要素で 「おかしみ」を出そうとしているものもあるのです。
たとえは、「オーバックスほど、すてきな商売はない」は、ご存じの 「ショーほどすてきな商売はない」という、ブロードウェイで大ヒットしたミュージカルの中の歌の題名をもじったものです。
ボディ・コピーも、舞台で歌われる歌の歌詞をもじっている部分があります。
「もじり」のテクニックは、コピーライターにとってよほど魅力があるらしく、日本でも多くの場合に使われています。
コピーライターだけではありません。コメディアンも、また庶民も日常会話で、格言やら諺やら、映画の題名やら流行語をもじって楽しんでいます。それはそれでいい遊びだと思います。
が、これを広告コピーの世界に持ちこむときには、よっぼど注意しなければいけません。
オーバックスの例の場合は、あれがニューヨークの百貨店である点に注目してください。プロードウェイでヒットしているミュージカルの歌を、『ニューヨーク・タイムズ』(1960年4月3日)に載せた広告でもじったのです。
商品は女の子のもの、女の子はミュージカル好きなもの---という計算があったのだと思います。
これが全国広告であったら、このヘッドラインは使わなかったろうと思います。中年婦人、中年男性向けの商品であっても、このコピーは書かれなかったろうと想像します。
コピーライターの周囲で流行していることばは、全国的に流行しているのではありません。
とくに日本のコピーライターの平均年齢は若いのです。たぶん、25歳ぐらいのところでしょう(これが書かれた当時)。
デザイナーの平均年齢もそんなところでしょう。そして、ライターとデザイナーという人種は、日本の場合、たぶんに流行に敏感な人種です。
しかし世界には、この人種以外の人種の方が、もう断然多いのです。
そこのところを考えると、「もじり」ヘッドライソが、いかに危険性があるか、おわかりいただけるでしょう、
「もじり」は、「ユーモアのある広告」ではありません。
コピーライターの年齢のことがでましたから、ついでに書いておきますと、このオーバックスの広告のコピーを書いているのは、DDB代理店のウィリアム・バーンバック社長その人です(当時)。
もっとも彼はヘッドラインのみを書いて、ボディはジュディ・プロタスという女性のコピースーパバイザーが書いています。
ヘッドラインをつくるということは、ビジュアルなアイデアを決めるということを意味します。
ライターの年齢と才能とは、関係ないかもしれませんが、人生経験に関するさまざまなことを考えてみると、コピーライターが一人前の働きざかりになるのは、35歳から40歳までの間といわれています。
しかも、米国の場合、大学のポット出がすぐコピーライターになることは少なく、何かほかの仕事を経験し、コピーライターの職を得てから「5年間ほどみっちりと喜きつづければならない」(注:ロジャー・バートン 博報堂出版課訳『広告管理』) といわれています。
「ユーモアのある広告」を今すすめることは、あるいは日本では危険かもしれません。修業中のコピーライターが多いからです(当時)。
私は、初めに引用したエッセイの中で、「じつは私は、日本では、若いコピーライターを育てるよりも、コピーライターの平均年齢を、この際一気にひき上げることのほうが先決なのではあるまいかとも考えているのです。たとえば, ジャーナリズム畑から、 教壇から、セールズマン畑から、アイデア豊かな、そしてユーモアを生みだせるほど経験豊かな人材をコピーライターに転業さすべきであるまいか、とも思う---」とも書きました。
さて、オーバックスの広告ですが、「ユーモアのある広告」は勝ちました。
経営者向け雑誌「ニューズ・フロント」1960年5月号によると、ニューヨーク市民は、オーバックス百貨店を、ニューヨークで2番目に大きい百貨店と思っているそうです。事実はもっともっと小さいのですが。
積み残していた第8章でした。
残りは、第11章 コピーの信頼ですが、もっとも大切なこの章が遅れていたのは、保存していたはずの引例用のカラー図版を、資料庫でずっと捜していたからです。あきらめました。