創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(125)『コピーライターの歴史』(3)

広告のクーポンの返り数を勘定していたあとに出てきたのが、クリエイティブの効果を調査で数字化して示そうとした風潮だが、いつの世にも万全な調査というものもありえないのも事実--- 


『コピーライターの歴史』(3)

ホチキス教授のコピー原則

長年、ニューヨーク大学マーケティングの教授であり、マーケティング科長であったジョージ・B・ホチキスは、1924年に『広告コピー Advertising Copy』を書いています。
この本を書くにあたり、ホチキス教授は、彼が関係していたジョージ・H・バターン代理店の市場調査の経験から得られたたくさんのコピー原則を集めました。
この本は1936年に第2版が、1949年に第3版が出版されていますから、コピー関係者のあいだではひろく読まれているものと思われます。


ダニエル・スターチのリーダシップ調査

スターチ博士は、1919年に、広告調査機関を設立しました。
この機関の初期の調査は、コピー・テストに集約されていたといえます。
そして、その結果を『広告の原則 Principle of Advertising』と題して、1923年に出版しています。
1923年といえば、ホプキンスが『科学的広告法』を出版した年です。
1930年には、『500万通の分析 Analysis of 5,000,000 Inquires』と題した、2,500の雑誌・新聞広告からの問い合わせについての彼の調査と分析を報告したレポートを出しています。
さらにスターチ機関は、1923年から、雑誌広告のリーダシップ(精読率)調査を始めました。
これは現代までつづき、1年間に3万点の広告の調査がなされています。
その結果は、1954年8月から「アド・エージェンシー・マガジン」に発表されているし、また、同機関のレポートは、各広告代理店の調査部が購入、参考にしています。
スターチ機関の調査報告がどのようなものであるかの1例として、広告でよく使われる証言(testimony)広告に関するこの機関の発表をご覧に入れましょう。
1954年2月19日の『プリンターズ・インク』誌(広告業界月刊誌)に載っていたものですが、

              非証言広告 証言広告
製品           1ドルあたりの注目率 1ドルあたり注目率
パーカー万年筆 238 289 +21%
チェスターフィールド煙草 341           368         + 8%
マイパナ歯磨き       324           359         +11%
パプストビール       226           258         +26%


この表からの結論として「1ドル当たりの注目者数という点では、非証言広告よりも証言広告のほうが有利である」ということになり、注目率を上げようとした場合、「証言広告式」をとることを要求する早合点の人びとを生み出す結果になるといえるでしょう。
スターチの数字は一つのデータであり、ある程度、広告の安全性を保証してくれはするが、創造という作業には、ほとんど関係がないとする人たちも、最近ではでてきていることをつけ加えておきましょう。
その代表的な一人、パパート・ケーニグ・ロイス代理店のジュリアン・ケーニグ社長は、「私は、私たちの社がつくった広告にたいしてよい結果が出ているスターチの数字には好意をもちます。悪く出ているときは無視します」と1961年11月のニューヨーク広告ライターズ・クラブで話しています。
スターチの数字を信じる信じないは、人それぞれの考え方の問題ですから、とやかくいうほどのことではないと思いますが、スターチ社の出現と活動によって、広告の世界に数字的な要素が大きく入りこんできたことだけは、何人といえども認めないわけにはいきません。
これは歴史的事実なのです。


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