創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(260)バーンバックさんの最初のエッセイ

DDBの創業者ビル・バーンバックさんを日本に最初に紹介したのは、大阪の松本善之助さんだったとおもう。松本さんは、道修町の某薬品大メーカーの広告部出身で、定年後の仕事として、米国の広告専門誌『プリンターズ・インク』の翻訳紹介誌『広告と販売』を発行されていた。「広告文案家」と呼ばれていた職名を米国流の「コピーライター」に定着させたのも松本さんのこの雑誌だった。この第42号に、『プリンターズ・インク』誌1955年4月1日号から翻訳転載したバーンバックさんの「よい広告をつくるのは、アイデアだ!」が載った。1955年といえばDDB設立6年目、プレステージ・アカウント(看板的依頼主)となったVWビートルが来たのは、4年後のことである。しかし、VWのキャンペーンはこのエッセイ通りに創られて大成功をおさめた。いってみれば、このエッセイをバーンバックさんの「創造哲学」と呼んでもよさそうだ。いや、広告制作の本道か。

よい広告をつくるのは、よいアイデアだ!
      DDB 社長&Creative Director William Bernbach



ぬかりなくつくられた広告原則をいくつか考えてみよう。そして、この原則が印刷による伝達法にも、電波による伝達法にも同様に応用できるかどうかを確かめてみよう。


(1)人物や製品をできるだけ真実らしく扱う。ただ、何かの絵というのではなく、実物そのものに扱う。

この簡単な教えを守っている印刷広告の中には、最も効果的なものが多い。また、最も効果的といわれるテレビ番組でも、テレビ・コマーシャルでも、この教えを守っているのが多い。


(2) 広告する製品の本質に触れよ。広告する製品の利点をわかりやすい簡潔な言葉でのべ、この利点をマザマザと明白におぼえやすく表わせ。


これは印刷広告の基礎原則だ。ところがいわれる割に実行されていない。この原則は印刷広告でよりもテレビの場合の方がもっと重要だとは、いえないだろうか?
なんといっても、印刷広告ならば、読みかえそうと思えは何度でも読みかえせる。ところがテレビのコマーシャルの場合は、いったんすんでしまったら読みかえすことも聞きなおすこともできないのだから---。


(3)商品はできるだけ小道具扱いにしないで主役にせよ。


これは製品をおぼえさせるテクニックとして非常に有効である。なぜなら、広告の中の刺戟的な要素は、即ち製品を売る要素なんだから---。ここで訓練された創造力が必要になる。これはスペースよりもテレビの方でもっと力強く応用できるのではなかろうか。


(4)巧妙に表現すれば、製品には持ちまえの面白さがある。


商品は人の興味をひくという事実を軽視したり忘れられる傾向のあるのは悲しむべきことだ。製品そのものが人の注意をひく最良の手段となることが多い。注意をひくためにワザワザ赤ん坊や犬を使う必要はない……印刷でもテレビでも……。人はよいものを好む。製品を美しく見せれば人はそれを自分のものにしたく思う。
おかしなことには、広告業者はおとくい広告主の"商品を見せよ"という注文に悩んできた。ところが商品をかくして売ろうとする販売員にはいまだお目にかかったことがない。たしかにテレビで巧妙に商品を見せる手はあるにはあるが、この手法が開拓されつくしたとはいえない。
そして、今用いられている手法以外に新しい手法はまだ生まれていない。
私はこう信じている。……もしも技術者がそれを技術的に解決せずにはいられないほどのすはらしいアイデアを、やってできぬことのないクリエイターが考ええだしたら、こうした新手法が早く利用できるようになると……。


(5)広告には物理的な視覚中心がある、これは支配的な一つの大きい部分であって、そのスペースを分割し、読む気をなくすたくさんの小さい部分ではない。

この原則は、そのままテレビにも当てはまるだろう。

以上の他にも、印刷にもテレビにも共通する原則はある(多くはない。というのは広告の作成には他の芸術と同じく、ごく敷少ない単純な前提しかいらないから)。しかし、要点はむずかしくない……肝心なのはアイデアだ!


1957年10月31日の『ニューヨーク・タイムズ』紙に、DDBは、主要クライアントの一つであったポラロイドのための広告をメイン・イラストレイションに据えた自社広告を出した。
VWビートルが入ってきたのは、この2年後。
写真は、消防士か警官か。”arrest (逮捕)"と直訳すると警官だろうが、水をかぶっているので、うんと先の9.11を連想してしまって---。


みんなをとりこにする法!

とりこにして離さないってところは、広告も同じでしてね。上の広告は、わが社の手になるものですが、シンプルで創造的という原則に基づいているので、とびきり人びとの目を引き、顕著な販売実績を獲得した一例です。原則ですか? あなたの広告が新鮮でも劇的でもないなら、人びとは目を止めもしないし、読みもしないでしょう。 読まれもしない広告は「無駄ガネ」そのものなんです。ドイル・デーン・バンバック社
1957年時点での代表的なクライアントの広告作品


HOW TO ARREST PEOPLE!

In advertising, too, before you can pull 'em in you've got to catch them. The above ad caught the eyes of an extraordinary number of people. It was based on a simple creative principle that has achieved remarkable sales results for Doyle Dane Bernbach clients. The principle? If your ad isn't fresh and dramatic people won't look. If they don't look, they won't read. If they don't read ... you could have "stood in bed."

原文の"stood in bed"という小辞書には載ってない俗語がわかりません。とりあえず、「骨折り損の草臥れもうけ」とか、「無駄遣い」とか、「役立たず」などを考えて、「無駄ガネ」としてみました。