創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(447)ピンナップ・エイジェンシー(2)


リサーチ,イエス。でも、アイデアも---。
-----よい趣味(テイスト)は売り上げに結びつく----

(『ニューヨーク・タイムス』紙 1958.4.4 「広告畑」コラム by Carl Spielvogel (2)抄訳)



1957年10月31日の『ニューヨーク・タイムズ』紙に、DDBは、主要クライアントの一つであったポラロイドのための広告をメイン・イラストレーションに据えた自社広告を出した。
VWビートルが入ってきたのは、この2年後。
写真は、消防士か警官か。”arrest (逮捕)"と直訳すると警官だろうが、水をかぶっているので、うんと先の9.11を連想してしまって---。



みんなをとりこにする法!

とりこにして離さないってところは、広告も同じでしてね。上の広告は、わが社の手になるものですが、シンプルで創造的という原則に基づいているので、とびきり人びとの目を引き、顕著な販売実績を獲得した一例です。原則ですか? あなたの広告が新鮮でも劇的でもないなら、人びとは目を止めもしないし、読みもしないでしょう。 読まれもしない広告は「無駄ガネ」そのものなんです。ドイル・デーン・バーンバック
1957年時点でのクライアント代表的な広告作品


HOW TO ARREST PEOPLE!

In advertising, too, before you can pull 'em in you've got to catch them. The above ad caught the eyes of an extraordinary number of people. It was based on a simple creative principle that has achieved remarkable sales results for Doyle Dane Bernbach clients. The principle? If your ad isn't fresh and dramatic people won't look. If they don't look, they won't read. If they don't read ... you could have "stood in bed."

バーンバック氏は、広告代理店業界の中のトップ・クリエイティブ・エグゼクティブの一人である。

氏は、やすやすとアイデアを得る。
ドイル氏によると「ビルはすばらしいアイデアを引き出すときには、私がこれまでに見た最も速い人の一人です」

氏に企画書を見せにきたアカウント・エグセクティブに向けて言う質問は、「なぜ、ぼくは君の製品を買わなくちゃならないのかね? 君の競争相手のではだめなのかね?」

この業界のある人が、DDBが創った広告のパターン---大きな心を打つイラスト(写真と絵)と、小さなコピー---てであると言っている。バーンバック氏はこれについて、
「いいえ。私たちは私たちが従わなければならないいかなるフォーマットも持っていません。私たちは多様な表現を持っています。私が固守する唯一のことは、製品のすばらしい点を引きだし、それをきわ裁つように言うことです。まあ、ときには『ありゃ、別のDDBの広告がでているぜ』という人もいるくらいです」

バーンバック氏は広告代理店の中で広告の働きを堅く信じている。DDBは最近、自分たちが創った広告を掲示して『誰がこれらの広告を創ったか?』という見出しの広告を打った。


「その結果、私たちはすでに6つの有望なクライアントから引き合いを受けています。じっさい、私たちが今までに持ったすべての新しいアカウントは、推薦されるか、先方が私たちが創る広告を見て、自分のところの製品をどう扱うか見たいとといってやってきたのです。
あ、正直いうと、アメリカン・エキスブレス・ラインズだけは、私たちのほうら働きかけましたがね」

「しかしながら、私たちは今では、ビジネスを求める立場に立っています。私たちは提供すべき見地というものを持っているとおもうからです。ネッドが、多くの時間をそのために費やすことになりましょう」

chuukyuu注】DDBは、その後も自社広告を打っている。


「私にすばらしいアイディアがある。
それは真実を告げることです」
N.M.オーバック


ドイル・デーン・バーンバックは22年前、最初のクライアントからこの助言をいただき、現在も服膺しています。
それは夢のような利点をもったアイデアです。

まず第一に、うしろめたさがなくなります。
第二には、従ってラルフ・ネイダーも手が出ません。
第三には、生命をもっている製品なら、真実を告げるこが最上の広告手段です。

無論、真実を告げることは必ずしも容易でありません。DDBの問題のいくつかは、容易に見えました。それでも事実を告げるためには、多大の勇気を必要としました。
当社が現在広告をつくっている車を例にとりましょう。
この車は、当初から、デトロイトに馴れた目には、奇妙な小さな生きものに見えたようです。
実際、かぶと虫のように見えました。
そこで、かぶと虫と呼びました。
当社は車を売りました。
また私どもが「ナンバー2」と自称しているレンタ・カー会社。これもまことに非アメリカ的でした。
消費者に強く印象づけるには、たいてい、最大の---最高の--- といった形容詞を使わなければ不可と思われていました。何かそういうものを---。
私どもは真実を告げることにチャンスを求めました。
当社は車を貸しました。
ローン利用の宣伝をしてはどうかと助言してくれた銀行家もいます。
しかし低利率ローンを宣伝する代わりに、当社は、1400語、2400行の広告をつくり、ローンだと、払い切れなかったとき、どんなことになるか、その不利な点をはっきり書いたのです。
といっても、だれも読んでくれなければ三枚目のコピーでした。ですよね?
しかし訴える力のあるコピーは読まれるものです。
これを読んでくれた人びは、銀行ローンをおびやかしただけでなく、ウワサはウワサを呼び、このコピーを求める人は10万人にも及びました。
情報も真実の言葉になります。
潜在的消費者に情報を提供することは、宣伝の第一歩といえるでしょう。これは依然として最も重要な仕事にはいります。
信じてもらう、銘記してもらう、時には楽しんでもらう---これが大事です。
それゆえ、ドイル・デーン・バーンバックでは(この広告も含め)広告宣伝には大いに力を入れています。
広告は「ホット」でも「クール」でもなく、誠実一筋を旨としています。頁の上では、ありのままの姿をごらんいただいています。
あなたの商品であり、広告なのです。
たいていの方は,宣伝・広告といえば一抹の疑惑の目をもって見るのがふつうですが、それだけに真実を訴えるのはむずかしいといえるでしょう。
事実、広告は長い間にはイメージ・ダウンさえもたらしうるのです。
私どもも正直いいまして、楽園で商売しているとは夢々考えていません。
世間の目は抜けません。
だから真実を申すのです。


この22年間、当社は同じアイデアでやってきました


『ライフ』1971年11月19日号




"I got a great gimmick.
Let's tell the truth."
N.M.Ohrbach


Doyle Dane BernbachWas given this advic 22 years ago byour first client,anwe still like it.
It's a gimmick with fantastic advantages.
In the first place, you go to heaven. In the second place, Ralph Nader can't lay a glove on you. And in the third p1ace, telling the truth is the best known way there is of moving merchandise.
don't Of course, telling the truth isn't always easy. After the fact, some of DDB's problems look so tough. But, at the time, it took a lot of stamiNa to use our gimmick.
Take that automobile we do the advertising for. Back in the beginning, that car was a strange-looking little creature to Detroitc-cnditioned eyes.
In fact, it looked like a beetle.
So we called it a beetle.
We sold cars.
Or take that rental car company wecalled "number two." That was practicall Un-American.
The consumer wasn't supposed to be impressed unless you called yourself the biggest or the fattest or the most important. Something. We took a chance on truth.
We rented cars.
We have a bank client who asked us to advertise mortgage loans. Instead of advertising low-cost, mortgage loans, we prepared a 1400-word 2400-line ad describing all the terrible shocks and blows you're subjected to at a mortgage closing.
That was doubly ridlculous inasmuch as nobody reads copy. Right?
They read copy when you're copy telling them something.
Not only did the bank's mortgage busines shoot up,they were able to spread their name all over town because of some 100,000 reprint requests.
Another word for truth is information.
Supplying information to potential customers is where advertisihg started.And it's still the most important job. Done pelievably, memorably, entertainingly, sometimes, but done.
That's why, at DoyleDane Bernbach, we pay as much attention to print today as we ever did (including this ad).
Print is neither "hot" nor "cold.~ It's honest. Inherently. You're out there on the page, naked, without so much as a guitar.
Just you'ere product and the word.
And you're out there with that ordinary man in the street who's turned into a consumerist skeptic and who's learned to spot a hedge three columns away.
And with print, he can take a long, slow, devastating look.
We've got a confessionlfes to make; it's go nothing to do wioth heaven.
People ars as smart as we are.
That's why we tell the truth.


We've been using the same gimmick for 22 years,now.


LIFE, November 19, 1971

参照】[クリエイティブの核心]( )  by Bill Bernbach


バーンバック氏は、クリエイティブ部門のクリエイターたちの扱いや育て方に対しては、決然たる考えを、次のように語る。

「私たちは、彼らに完全な自由を与えます。たしかに、私が彼らといつしょに彼らの仕事を検討するとき、一種の戦いを演じます。しかし、私たちは彼らに、彼らがやっている仕事に自信をもつように期待しています」

「DDBは、クリエイティブ部門の人がクライアントに直接接触することをできるだけ少なくするようにしています。つらいことに直面する機会を減らすためです」

「アカウント部門の者のほうが、トラブルをうまく処理する能力に恵まれていますからね。
クリエイターの中には、批評を素直に受け取らない激情家がいますから。ですから、彼らが創作意欲を失わないようにしているわけです」

バーンバック氏は、スポーツを含めてどんな趣味にも淫していない。「私はなまけ者なんです」といってはばからない。氏は、文学批評、社会学、哲学、特にバートランドラッセル、ルイス・マンフォードの熱心な読者である。

ネッド・ドイル、マクスウェル・デーン、そしてバーンバックの3氏は、一週間に数回、アルゴンキン・ホテルでいっしょに昼食をとる。勘定は「私たちはパートナーであると同時に、仲のいい友たぢですからね。割り勘です」と、バーンバック氏は笑った。



DDBの自社広告


これをするか、さもなくば死になさい


この広告を脅しとみますか?
違います。しかし、そうなったかもしれないのです。
そして、米国のビジネスにとって、するか死かの別れ道でなのです。
広告を通じて、私たちはクライアントとともに、人びとをトリックにかけるすべての力と技を持っています。
あるいは持っていると考えています。
しかし、私たちは間違っているのです。私たちはいついかなる時でも、いついかなる人をも、だますことなど出来ないのです。
実際、この国の6歳の子どもは、12歳並みの知力を持っています。
そう、私たちは、知的水準の高い国民です。
そして、ほとんどの広告が知的な人びとを無視しているがゆえに、ほとんどの知的な人びとがほとんどの広告を無視してしまうということになるのです。
そこで私たちは、仲間うちでの話をするのです。
媒体とメッセージにつていてとどまるところを知らない議論がそれです。ナンセンスです。
広告のメッセージはそれ自身がメッセージなのですから。
何も書いてない紙面にしても、何も写していないテレビのスクリーンにしても、同じことです。
そしてとりわけ、私たちがそれらの紙面やテレビの画面にのせるメッセージは、真実でなければなりません。
もし、真実を曲げて伝えれば、私たちには死が待っているのです。
さて、コインのもう一面についてお話ししましょう。
それは、製品について真実を述べるには、真実を述べるに足るだけの製品が必要だということです。
ところが悲しいことに、多くの製品はそうではないのです。
あまりにも多くの製品が、改良の努力を怠っています。特長もありません。それに製品が長持ちしないものもあります。
あるいは、なくてもいいような性能がつけられています。
もし私たちがこのトリックを用いるなら、死ななければなりません。なぜなら、広告というものは、悪い製品が早くダメになっていくのを一層促進するものだからです。
どんなロバだって永久に人参を追いかけてはいません。事態がのみこめれば、追いかけるのをやめます。
これは覚えておいてよいことです。
もしそうしなければ、死を待つばかりです。
もし改革がないならば、そのうちに、消費者の無関心という大波が、広告され、製造されているたわごとの山を襲うでしょう。
その日こそ、私たちの最後です。
私たちは私たちの市場で死ぬのです。私たちの商品棚の上で、空虚な約束を記した美しいパッケージの中で。
物音もなく、すすり泣きもされず。
しかし、それは私たち自身のきたない手が引き起こしたことなのです。 
             Doyle Dane Bernbach Inc.

『タイム』誌 1969年10月3日号



DO THIS
OR DIE


Is this ad kind of trick?
No. But it could have been.
And at sxactly that point rests a do or die decision for American bissiness.
We in advertising, together with our cliants, have all the power \and skill t trick peple. Or so we thinh.
But we're wrong. We can't fool any of the people any of the time.
There is indeed a twelve-year-old mentality in this country; every six- year-old has one.
We are a nation of smart peple.
And most smart peple ignore most advertising because most advertising ignores smart people.
Indead we talk to each other.
We debate endlessly about the medium and the massage. Nonsense. In advertising, the massage itself is the
massage.
A blank page and blank television screen are one and same.
A above all, the massages we putright on those pages and on those tele-vision screens must be the truth. For if we play tricks with the truth, we die.
Now. The other side of the coin.
Telling the truth about a product demands a product that's worth telling the truth about.
Sadly, so msny products aren't.
So many products don't anythig better. Or anything different. So many don't work quite right. Or don't test. Or simply don't matter.
If we also play this trick, we also die.
Because advertising only helps a bad product fail faster.
No donkey chases the carrot forever. He catches on. And quits.
That's the lesson to remember.
Unless we do, we die.
Unless we change, the tidal wave of consumer indifference will wallop into the mountain of advertising and msnu-facturing drived. 
Thae day we die.
We'll diein our marketplace. On oue shelves.In our gleaming packages of empty promises.
Not with bang. Not with a whimper.
But by our own skilled hands.
DYLE DANN BERNBACH INC.



Time 3rd October 1969 

  
米国VW社とDDBが広告取引きに関する契約を取り交わしたのは1959年4月でした。
それから2年もたたないで、DDBは次のような自社広告を『ライフ』誌に掲載しました。多大の経済的功績による報償として媒体側が紙面を提供したのでしょう。
DDBはその紙面を自社広告につかいました。プレステイジ・クライアントとなったVWに敬意を表し、VWの広告を主賓席に招待して---。


あなたが車をつくっていたとして、こんな広告をお出しになりますか?


ほとんどの自動車メーカー---というよりも、この場合は、ほとんどの広告主---は、こんな広告には近寄ろうとしません。
フォルクスワーゲンは、そうは考えなかったのです。
彼らは、工場での検査についての話を人びとが読み、そして信じるようにするための、かなり驚くべき要素をこの広告が持っているとの私たちの考えに、同意したのです。
単なるトリックやギミックではない、話そのものから何かがにじみ出てくること。
ご覧のとおり、その何かを、私たちは出すことができました。
この広告の成功とは別に---それから全般的なフォルクスワーゲンの広告とも別に---こういう考え方もあるのです。
正しいアイデアを持つ広告代理店は、正しいクライアントを引きつけるものだと。


エスカイヤ』1963年6月号




If you made cars, would you run this ad?


Most car makers---most advertisers, for that matter---wouldn't go near an ad like this.
Too negative. Too daring.
Volkswagen didn't think so.
They agreed with us it would take something pretty startling to get poeple to read---and believe---a story on factory inspection.
Not just a trick or gimmick. But something coming out of the story itself.
As you can see, we came up with that something.
Apart from the ad's siccess---and the saccess of Volkswagen advertising in general---there's another point here.
An advertising agency with the right ideas attracts the right clients.
Doyle Dane Bernbach Inc.


Esquire, June, 1963

明日から、数日---[紙と波]、つまりVWビートルの印刷媒体とTV-CMのコラボレイション