創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(52)VWビートルの広告(25)

シンプル・ヘッドライン(simple headline 短い見出し)について述べてみる。
100年以上も前から、広告の見出しは、Why(なぜか---)、What(なにが---)、Who(だれが---)、When(いつ---)から始めるのが効果的といわれてきました。

VWのチームもこれらの原則にしたがっている例が少なくありません。
が、"Lemon"が成功してからは、1語か2語の new headline---simple headline を試みるようになり、それが簡潔なVWビートルの広告紙面を、さらに簡潔に引き締めることになりました。

きょうご紹介する「1962 1/2型フォルクスワーゲン」も、「フォルクスワーゲン」を製品名と考えると、「1962 1/2」という1語のヘッドラインです。
(「1962」と「1/2」の2語とおっしゃりたいのであれば、はい、2語とでも1.5語とでもお考えください)。

短いヘッドラインのほうが、記憶再生しやすく、それだけ人口に膾炙しやすいともいえます。



1962 1/2型フォルクスワーゲン


フォルクスワーゲンに改良するところを発見したら、改良します。
ただちに---どこでも、です。
もし、きょうあなたが、最新のフォルクスワーゲンをお求めになれば、あなたは、まったく新しいステアリング(操舵)装置つきのフォルクスワーゲンをお求めになったことになります。
いわゆる、ハンドル感覚がくんとよくなっているので、やはりVWは操縦しやすいとお感じになるでしょう。
私たちは、この装置を、いそいで取りつけようとはしませんでしたし、間に合いもしませんでしたから、1962年型にはついていません。
でも'63年型まで持たないで、さっそく新採用しました。
私たちは、この15年間に数千カ所に及ぶ改良を加えてきました。がVWを廃物化するためのものは一つもなく、つねによりよくするためにだけやっています。
「なぜ、ほかの車のように毎年スタイルを変えないのか」と、よくおたずねになります.
答えは簡単---1年に1回の改良では不十分。




The 1962 1/2 Volkswagen.


When we find a way to improve the Volkswagen, we do it.
Then and there.
If you went out to buy a new VW today, you'd get one with an entirely new steering mechanism.
It gives you an even better sense of touch with the road and makes the VW still easier to handle.
We weren't in any rush to put it on our '62 model; it wasn't quite ready.
And we're not waiting for the '63 VW to come out; it's ready now.
We've made thousands of changes in the past 15 years. But not one has ever made a VW obsolete; only better.
People sometimes ask us why we don't change our car once a year like everybody else.
The answer is simple: once a year isn't always enough.


1960年代の米国の広告界に震撼を与え、クリエイターたちを刺激して奮起させたVWキャンペーンの中でも、歴史として残っている2つのうちの1つ---
"Lemon" の試案のヘッドラインは、じつは、その後、ボディ・コピーの冒頭にまわされた「このVWは船積みされませんでした」だったといいます。
試案を自室のボードにピンナップして思案してヘルムート・クローン氏のところへ、リタ女史(別チームのコピーライター)がふらりと入ってきて試案を一瞥、「ああ、Lemonね」とつぶやき、クローン氏はその言葉にショックを受けたというのです。
それはそうでしよう、担当コピーライターのジュリアン・ケーニグ氏のそれまでのヘッドラインは”Why---”式のものだったんですから。



不良品


このVWは船積みされませんでした。
車体の1ヵ所のクロームがはがれ、 しみになっているので取り替えなければならないのです。 およそ目につくことがないと思われるほどのものですが……K・クローナーという検査員が発見しました。
当社のウルフスブルグの工場では3,338人が一つ作業にあたっています。VWを、 生産工程ごとに検査するために、です。 (日産3,000台のVWがつくられています。だから車より検査員の方が多いのです。)
あらゆるショック・アブソーバーがテストされます(部分チェックではだめなのです)。 ウインドシールドもすべて検査されます。何台ものVWが、とうてい肉眼では見えないような外装のかすり傷のために不合格となりました。
最終検査がまたすごい!VWの検査員は1台ずつ車検台まで走らせていって、188のチェック・ポイントを引っぱりまわし、自働ブレーキスタンドへ向けて放ちます。それで50台に1台のVWに対して「ダメ」をだすのです。
この細部にわたる準備が、他の車よりもVWを長持ちさせ、 維持費を少なくさせるのです。(中古VWが他の車にくらべて高価なワケもこれです)。私たちは不良品をもぎとります。 あなたはお値打ち品をどうぞ。




Lemon.


This Volkswagen missed the boat.
The chrome strip on the glove compartment is blemished and must be replaced. Chances are you wouldn't have noticed it; Inspector Kurt Kroner did.
There are 3,389 men at our Wolfsburg factory with only one job: to inspect Volkswagens at each stage of production. (3000 Volkswagens are produced daily; there are more inspectors than cars.)
Every shock absorber is tested (spot checking won't do), every windshield is scanned.
VWs have been rejected for surface scratches barely visible to the eye.
Final inspection is really something! VW inspectors run each car off the line onto the Funktionsprufstand (car test stand), tote up 188 check points, gun ahead to the automatic brake stand, and say "no" to one VW out of fifty.
This preoccupation with detail means the VW lasts longer and requires less maintenance, by and large, than other cars. (It also means a used VW depreciates less than any other car.)
We pluck the lemons; you get the plums.


"Lemon" のショックは、米国のクリエイターばかりでなく、それまで"Why---"式のヘッドラインを愛用していた当のコピーライター---ジュリアン・ケーニグ氏の目をも覚まさせました。

あるビジネス誌だけのための広告案を考えていたケーニグ氏は、列車通勤の帰路、前のボックス席でビジネスマンが読んでいる記事タイトル"Think big" という流行語を目にとめ、咄嗟に、"Think small"を思いついたといいます。



小さいことが理想


きっちりつめたら、 ニューヨーク大学の18人の学生がサン・ルーフVWに乗れました。
フォルクスワーゲンは、 家庭向きに考えて大きさが決められています。おかあさん、おとうさん、 それに育ちざかりのこども3人というのが、 この車にふさわしい定員です。
エコノミイ・ランで、 VWは 1リットルあたり 平均21km強の記録を出しました。 あなたには、ちょっと無理な数字です。 プロのドライバーは商売上のすてきな秘けつを持っているんですから(お知りになりたい? ではVWBox #65 Englewood, N.J.へお手紙をどうぞ)。
ガソリンはレギュラー、 また、 オイルのことは次の交換時期までお忘れください。VWは在来の車より全長が4フィート短くできています (とはいっても、 レッグ・ルームは同じくらいあります)。 ほかの車が混雑したところをぐるぐる巡りしている間に、あなたはほんの狭い場所にも駐車できるんです。
VWのスペア部品は格安です。 新しいフロント・フェンダーは(VW特約店で)21.75ドル、 シリンダー・ヘッドは19.95ドル、品質がよいのでめったに必要とはしませんが。
新しいフォルクスワーゲン・セダンは1,565ドル、 ラジオ, サイド・ビュー・ミラーのほか、 あなたがほんとうに必要なものは全部ついています。
1959年には, 12万人のアメリカ人が、 小ささを考えてVWを買いました。 ここのところを考えてみてください。




Think small.


18 New York University students have gotten into a sun-roof VW; a tight fit. The Volkswagen is sensibly sized for a family. Mother, father, and three growing kids suit it nicely.
In economy runs, the VW overages close to 50 miles per gallon. You won’t do near that; after all, professional drivers have canny trade secrets. (wanl to know some? Write VW, Box 165, Englewood, N. J.) Use regular gas
and regret about oil between changes.
The VW is 4 feet shorter than a conventional car (yet has as much leg room up front).
While other cars are doomed to roam the crowded streets, you park in tiny places.
VW spare parts are inexpensive. A new front fender (at an authorized VW dealer) is $21.75. A cylinder head, $19.95. The nice thing is, they're seldom needed.
A new Volkswagen sedan is $1,565. Other than a radio and side view mirror, that includes everything you'll really need.
In 1959 about 120,000 Americans thought small and bought VWs.
Think about it.


米国人にライフ・スタイルの変更をうながした"Think small"VW's way(ワーゲン流の生き方)---の広告は、1年後に写真とヘッドラインは同じだが、ボディ・コピーに手を加え、『ライフ』誌ほかの一般誌に掲載されました。


小さいことが理想


私たちの小さな車は、もうそれほど珍しいものではなくなりました。
大学生たちが詰めこみ記録競争をすることもなくなりました。
給油所で給油口はどこかと聞かれることもなくなりました。ギョってな視線で見つめる人もいなくなりました。
事実、私たちの小さな車を運転する人の中には、1ガロンあたり32マイルをこなす運転上手もいらっしゃいます。
オイルは5クォートじゃなく5パイント。
不凍液も必要なし。
タイヤは6万km以上保ちます。
こういった経済性をいちど実感なさると、あとは気にもとめなくてすみます。
そうそう、駐車スポットも小さくてすみ、保険料も軽くなり、 修理代も少ないのです。
新車に乗り換える時の下取りが高い---などなど、
熟考の価値ありですね。




Think small.


Our little car isn't so much of a novelty any more.
A couple of dozen college kids don't try to squeeze inside it.
The guy at the gas station doesn't ask where the gas goes,
Nobody even stares at our shape.
In fact, some peop1e who drive our little flivver don't even think 32 miles to the gallon is going any great guns.
Or using five pints of oil instead of five quarts.
Or never needing anti-freeze.
Or racking up 40,000 miles on a set of tires.
That's because once you get used to some of our economies, you don't even think about them any more.
Except when you squeeze into a small parking spot. Or renew your small insurance. Or pay a small repair bill. Or trade in your old VW for a new one.
Think it over.

"Save water"は、ニューヨーク市が水飢饉のときに新聞に掲載されました。2語のみです。


節水

「米国製」も、日本語に訳すと1語。米国人も、感じとしては1語とみなしているのではないでしょうか。



米国製


ミシガン州のグランド・ラビッズのG.ラングという人が、暇をみてはスペア部品を使って、 このフォルクスワーゲンをつくりあげました。
たいへんよく走ります。
が、そんなにしょっちゅうは走りません。
ラングさんは、私たちの訓練学校の一つでVWの機構を致えるのに、これを使っているからです。
バラパラにしては、また組み立てるのです。幾度も、幾度も。
こういう教育方法で辛苦を経ますから、私たちの機構はすごくシャープになるのです。
(私たちのサービスも同様にね)
もちろん、私たちの車が、ほかの車よりもずっと簡単に勉強できるということは認めますよ。
それというのも、私たちが毎年思い切ったチェンジをしないようにしているからです。
改良したとしても、ちゃんとした理由があってのうえです。
この方針だと、もう一つ利点があります。
VWの大抵の部品はどの年代のものでも交換がきき、しかも、すぐ入手できるということです。
こいつは、じつに気分のいいものですよ。
VWをあなたが組み立てるにしても、既製品をお買いになるにしても---です。




Made in U.S.A.


George H. Lang, of Grand Rapids, Mich., mode this Volkswagen out of spare parts in his spore lime.
The car runs very well.
But not often,
Mr. Lang uses it to teach VW mechanics of one of our training schools.
They tear it to pieces and put it together again. And again. And again.
After suffering this kind of education, our mechanics get to be pretty sharp,
(So does our service.)
Of course, we admit that our car is easier to learn about than most.
Because we don't make drastic changes every year. And because the changes we do make, make sense.
This policy has another advantage:
Since most VW parts are interchangeable from year to year, you can easily get parts for any Volkswagen.
You'll find this comforting.
If you're building your own VW.
Or buying one ready made.


1971年のニューヨーク・アートディレクターズ・クラブ展で金賞を射止めた作品です。アートディレクターはチャーリース・ピッキリロ、コピーはポブ・レブンソン。掲載紙は『ロサンジェルス・タイムズ』---ということは、下部にディーラー名と電話番号をトレイラーしているのかも。
いまのガソリン高騰を予言しているみたいだが、あのころも石油危機でトイレット・ペーパー騒ぎが起きました。



さもなくば、フォルクスワーゲンを買うか。



やりません


私たちは、クローム・メッキで飾りたてツートーンのフォルクスワーゲンをつくるときには、このクラシックなかぶと虫型も変えるつもりです。
ロームはりは見はえがしないというわけではなくて、そうしたからといって車の性能がよくなるというわけではないからです。
これが払たちのやり方です。私たちはVWを改良するためにのみ変えて、前年のモデルを古くさく見せるようなことはしません。
たとえば1961年には、私たちは空冷式エンジンの大きさも燃費も変えないで、より大きな馬力を出せるようにしました。
(ことし大きくなったものが一つあります。テールライトです)。
VWを変えるには、すべて「理由」があってのことです。見せるためのものではないのです。
私たちはクロームでつづった車名すら持っていません。
でも、VWのイニシャルをつけた小さな丸いメダルだけはつけはあります。
それは60万のアメリカの方々に、名なしの車に乗っていただくわけにはいかないからです。




Never.


We'd no sooner make on over-chromed, two-toned Volkswagen than we'd change the classic beetle shape.
It's not that the chromed version looks so bad; it just doesn't make the car work any better.
That's the rule of thumb we go by: we change the VW only to improve it, not to make last year's model look obsolete.
In 1961, for example, we were able to get more horsepower from our air-cooled engine without making it any bigger or less economical.
(One thing did get bigger this year: the taillights.)
Everything on the VW happens for a reason; nothing is for show.
We don't even have a chrome piece that spells out our name.
We do hove a little round emblem with our initials on it, though.
After all, we can't let 600,000 Americans go riding around in unidentified cars.