創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(53)VWビートルの広告(26)


フォルクスワーゲンの広告の特徴の一つに、[自己否定もどき]---いってみれば、擬態があります。その典型が、"Lemon (不良品)"です。
広告は、自社製品の美点をあげつらうもの、という世間常識に挑戦しているわけですが、すべての広告主が[自己否定もどき]の表現を好むはずはありません
また、許すとしても、ある一定期間、巧みな[自己肯定]をつづけた延長線上においてでしょう。さらにいえば、その製品が少数派であって、広告予算が少なく、一つの広告で10倍以上の成果が期待される時でしょう。



15年前、この車には自慢できるところがありませんでした。

初期のVWには、問題がありました。
(初期車にはありがちなことです)
ノイズであり、ギヤ・シフトの固さでした。馬力も強いとはいえませんでした。
しかし、この車の新しさは、それらの問題を補ってあまりあるものでした。
外形の機能性、リア・エンジンのすばらしい牽引力、しかも空冷式なので冷却水の沸騰も凍りつくこともなし。
初期のVWは、なるほど、騒がしかったでしょう。それが改良をうながしたのです。
多くの新考案がなされました。
そして、それらは、採用されています。
年ごとに製造治具を変えたんではコストが上がります。VWは、そのかわりに、15年の歳月と努力を、一つの基本形を完成させるために投じてきました。
事実、ノイズはなくなりました。ギヤ・シフトも世界で最もスムースな車の一つになりました。だから、登り坂で加速することだって可能です。
私たちは、3,000ヶ所以上もの改良を加えました(今年に入ってからでも、すでに28ヶ所)。すべて、運転しやすいように、しかも外観が違って見えないようにと---。それでもまだ、VWは完全ではないかも知れません。
しかし、初期の車より15年分だけよくなっていることは確かです。


C/W ボブ・レブンソン
A/D ヘルムート・クローン

"The NEWYORKER" 1962.04.21




15 years ago, this car was nothing to brag about.

The early VW had its problems.
(New models usually do.)
It was noisy. Shifting was tough, And it wasn't exactly a powerhouse.
But it had "new idea" written all over it.
Its shape was functional. The rear engine made for outstanding traction. It was air-cooled, so it didn't boil over or freeze.
That old VW may have made a rocket, but it also made a point.
Every new idea worked.
And so we've stayed with it.
Instead of costly retooling every year, we've invested 15 years of time and effort into perfecting the one basic model.
The noise is practically gone. The gear-shift is one of the smoothest in the world. And you can even accelerate uphill.
We've made over 3,000 changes so for (28 this year alone). All to make it work better; none to make it look different.
The VW may still not be perfect.
But it's a good 15 yeors better than the first one.


C/W ボブ・レブンソン
A/D ヘルムート・クローン

"The NEWYORKER" 1962.04.21