創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(146)レン・シローイッツ氏のスピーチ(6)

当時---DDBクリエイティブ・マネージメント・スーパバイザー兼副社長
(1969年退社し、ハーパー・ローゼンフェルド・シローイッツ社の共同経営者)


"My Graphic Concept" Lecture by Leonard Sirowitz in Zurich 1967 Spring
1967年春、チューリッヒでの「マイ・グラフィック・コンセプト」と題するスピーチ。氏の快諾を得てDDBドキュメント』  (誠文堂新光社 ブレーンブックス 1970.11.10)に翻訳掲載したものの転載。


レクチャー 承前



モービル


モービル石油が広告を扱ってくれるかどうかと、DDBに対して問い合わせてきた時、私は当然のことながら大変興奮させられました。
このアカウントは従来、彼らの消費者向け広告を扱って来たテッド・ベイツにありました。そしてアカウントはテッド・ベイツ広告代理店から完全に移ったわけではなく、最初の仕事としてDDBには、インスティテューショナル広告を要求してきました。つまり販売そのものは目的とせず、アメリカ人たちに将来ともに親しまれ続けるようなキャンぺーンを望まれました。
そこで私たちは第1回の会合を持ちました。

私たちは、代理店にもどり、仕事を開始しました。具体的に何をなすべきかがわかっていなかったので、最終的にどれが正しいかを決定するまでには、20、30、50ものアイデアが提出されました。
アメリカでハイウェイ上での高率の死者および事故についての不平、不満が盛り上がってきた時期であったことに注目していただきたいと思います。
私たちは適切なテーマが目前にあると感じました。時勢にかなったものだと思いました。だれに強制されなくても、それが起こるであろうことが私たちには感じられました。ラルフ・ネイダーの著書『速度と安全性』が出版されてはいましたが、その時点では、まだそれほど知られていませんでした。
政府の調査機関も発足していませんでした。ジョンソン大統領もまだ、ハイウェイ安全対策に対し署名していませんでした。私たちは大急ぎでキャンペーンの準備をしました。なぜなら私たちがそれを有望と考えた以上他の広告業者も同じように考えるに違いないからです。

そこで私たちは「あなたに生きていてもらいたい」というスローガンの下にキャンペーンを開始しました。
ここで皆さんにお見せするキャンペーンの最初の広告は、私たちが目ざした方向をはっきり示しています(この同じ日に、ジョンソン大統領の演説がありました)。
このキャンペーンをめぐって、一般から寄せられた手紙の数は膨大なものであったことをお知らせしたいと思います。
モービルでは、寄せられた手紙の整理のため8名の事務員を専念させたほどでした。最初の1週間だけでも 1万通の手紙が集まりました。
そしてそれらは皆、モービルが公衆が考えているのと同じ点に関心を寄せたことに対する賛辞でした。
多くの手紙には、引き裂かれた競争石油会社のクレジット・カードが同封されており、モービルのクレジットカードを送ってくれるようにとの請求がついていました。
新聞社は私たちを訪問し、無料で広告を掲載しようと申し出ました。論説は広告を引用し、『ライフ』誌では後にお見せするモービルのTV広告に関する特別記事を載せました。私たちは、大変重要な事柄で成功したことを知り、そして読者に彼らが興味を持つような二ュ−スを与えれば、読者も私たちに興味を持ってくれる、ということを学びました。
まったく驚くべき出来事でした。ガソリンやオイルを売るために企画されたわけでもないキャンぺーンがこのような結果を招いたのです。テッド・ベイツ広告代理店は、これ以後、ガソリンとオイルに関するアカウントを失い、現在それらは DDBへ移って来ています。
私たちは今ガソリンとオイルに関するキャンぺーンをも準備している最中なのです。


これはトリック写真です。
気でも違わなければ、10階建てのビルから車ごと飛び降りたりする人がいるわけはありません。
もっとも、もの好きな人もいるかも知れませんがね。
私たちが言いたいのは、もし時速60マイル(約100km)で車を運転していて、何かにぶつかったとしたら、10階建てのビルから飛びおりるのとまったく同じ結果を招く、ということなのです。それに、まったく同じ場所にも、つれていってくれます。死体置場へね。
私たち、モービルは、時速10マイルから15マイルでの運転をおすすめしているのではありません。
もし皆さんが、そうなさったとしても、なんにもならない---というのが悲しい現実です。ひどい運転は、悲惨な事故をひきおこすのです。それだけのことです。
ですから、その気があるなら、このことだけは覚えておいてください。スピードに関係なく頭を使って運転しないと、頭そのものをなくしてしまう可能性が十分だということです。
私たちの確たる主張はこうです。
私たちの仕事は、ガソリンとオイルを売ること。私たちは、世界でいちばんよい製品を製造していると思っています。そして、皆さんに私たちの製品を楽しく利用していただくよう万全の努力を惜しまないつもりです。
Mobil 私たちは、あなたに生きていていただきたいのです。

TV-Commercial film



アナ:このデモンストレーションはモービルの実験です。
私たちは、10階建てのビルの屋上に車を運び上げ、そこから落としてスーパーポイントをつかもうとしているのです。
時速60マイル(約100km)で車を走らせ、何かにぶつかった状態は、このように車を落としたのとまったく同じなのです。
(嘆き悲しむ人々)。
スピードを出して車を運転する時、こういうことも起こりうるということを思い出してください。
60マイルで走る場合、停止するためには366フィート(約100m)必要です。
ですら366フィートあれば事故は防げます。でなければ-----ご覧のとおりです。

私たちの仕事はガソリンとオイルを売ることです。ただ、私たちが望むのは、常に必要な停止距離をもっていてほしいということです。
Mobil 私たちは、あなたに生きていていただきたいのです。


YouTube


>>Mobil のキャンペーン作品例(2)へ続く