創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(443)デラ・フェミナ著『広告界の殺し屋たち』(7)


【用法】イデアは、説得の兵器庫にあるもっとも強力な銃です。アイデアは愛と同様に分析するとができません。分析しようと努力ればするほど、その火花は消え、見えなくなってしまいます。そう、広告界にはたくさんのすばらしいテクニシャンがいます。しかし、まずいことに、彼らはうまいことしかいわないのです。(「ウィリアム・バーンバック氏、広告はアートである」(2))( )の数字をクリックで全文が読めます。


(chuukyuu補)テクニシャンで終わりますか? 口あたりのいいことと、本質をつくこととは、まったく別物ものです。




原題『真珠湾をくれたすばらしい民族から』)の抜粋 誠文堂新光社 西尾忠久・栗原純子訳 1971.4.30)


第2章 「スピーディー・アルカ・セルツァー」の死(7)


広告が難しいのは、製品がほとんど似かよっている場合である。

詳しく調べてみると、レンタカーの料金はほとんど同じである。

ハーツとエイビスなど同一と言ってもいいほどだ。

ロンドンまでの航空料金にしてみても、パン・ナムで飛ぽうが、TWAであろうが、BOACだろうがまったく同じだ。

だから広告は何か相違点を発見しなければならない。
相違を探すのは大変なことでもある。

ジョージ・ロイスの広告代理店LHC(ロイスー・ホランド・キャロウェイ)は、ブラニフの機内で坐っている2人の名士を使ってこう言った。

うまく乗りあわせたら、吹聴ものですね』 


アンディ・ウォーホルソニー・リストンも、ブラニフで飛びます。

(うまく乗りあわせたら、吹聴ものですね)

2人がいつも飛行を楽しんでいるのを、よく見かけます。
彼らは、私たちの活気と、迫力が好きなのです。
すばらしい。 機体に異なった色塗り、機内を見栄えよくしているわけもここにあります。
見つけることができる中で最も気のきいた女性を選び、プッチ・デザインの制服を着ているのもそう。
航空会社たるものは、サービス、サービス、サービスにつきます。
飲み物にはすべて氷を入れて。
食事は熱く熱くして出して。
雑誌を持って来て。 枕をとって。
頼まれたら即座にやります!。 ほかにご用は?
ただちにご用をこなします。
どうぞ、お近くの旅行代理店にお尋ねください。
ブラニフはそこへ飛んでますか? 乗りたいんです」と。


DKG(デルハンティ・カーニット&ゲラー)代理店の社長シェプ・カーニット(写真)はこのキャンペーンについて適切な批判をした。
「私はアンディ・ウォーホル(ポップ・アーチスト)やソニー・リストン(ボクサー)などと飛行機で同席するなどまっぴらだ」

現在のブラニフのキャンペーンはほとんどの広告人に嫌われている。
ジョージ・ロイスに対するジェラシーもあるだろうが、このキャンペーンには分がないように私には思える。
「吹聴」という言葉は理解しがたい言葉である。
実際あなたがそうなったとしても、普通は吹聴しないものである。

メリー・ウェルズ(写真)がブラニフの機体を塗りわけた時はリアルで、目に見えるものがあったのだから、ずっとすぐれた仕事をやったと言うことができよう。



単調(プレーン)な空の旅にお別れ


エア・ストリップ(空中ストリップ・ショー)

(chuukyuu注:エミリオ・プッチ氏のデザインによる、重ね着の女性アテンダントの華麗な制服)


ガソリンの場合だったらどうだろう? 
ガソリンにはブランドはない。


だからガソリン会社はその競争に四苦八苦している。
ガソリン会社は問題をかかえており、それを知っている。


消費者は車にどのガソリンを入れようとたいして気にしていないということがわかっているのである。
ガソリンがきれたら、ガソリン・スタンドヘ行く……。

それだけのことだ。
そこで相違点を指摘するために、ラッキー・ドルやら、社長ゲームやら、アンチック・カー・ゲームやらプロ・フットボール選手ゲームやら、思いつくかぎりのゲームを考え出している。


競争が大騒ぎなだけでなく、政府はもっと難しい規制をもうけようとしているのだ。
人びとは勝つことができない。
チャンスがあっても百万分の一だということを悟っている。


モービルは、
私たちは、あなたに生きていていただきたい
という、かなりすぐれたキャンペーンを展開中である。


これは合成(トリック)写真です。
気でも違わなければ、10階建てのビルから車ごと飛び降りたりする人がいるわけはありません。
もっとも、もの好きな人もいるかも知れませんがね。
私たちが言いたいのは、もし時速60マイル(約100km)で車を運転していて、何かにぶつかったとしたら、10階建てのビルから飛びおりるのとまったく同じ結果を招く、ということなのです。それに、まったく同じ場所にも、つれていってくれます。死体置場へね。
私たち、モービルは、時速10マイルから15マイルでの運転をおすすめしているのではありません。
もし皆さんが、そうなさったとしても、なんにもならない---というのが悲しい現実です。ひどい運転は、悲惨な事故をひきおこすのです。それだけのことです。
ですから、その気があるなら、このことだけは覚えておいてください。スピードに関係なく頭を使って運転しないと、頭そのものをなくしてしまう可能性が十分だということです。
私たちの確たる主張はこうです。
私たちの仕事は、ガソリンとオイルを売ること。私たちは、世界でいちばんよい製品を製造していると思っています。そして、皆さんに私たちの製品を楽しく利用していただくよう万全の努力を惜しまないつもりです。
Mobil 私たちは、あなたに生きていていただきたい。

TV-Commercial



アナ:このデモンストレーションはモービルの実験です。
私たちは、10階建てのビルの屋上に車を運び上げ、そこから落としてスーパーポイントをつかもうとしているのです。
時速60マイル(約100km)で車を走らせ、何かにぶつかった状態は、このように車を落としたのとまったく同じなのです。
(嘆き悲しむ人々)。
スピードを出して車を運転する時、こういうことも起こりうるということを思い出してください。
60マイルで走る場合、停止するためには366フィート(約100m)必要です。
ですら366フィートあれば事故は防げます。でなければ-----ご覧のとおりです。

私たちの仕事はガソリンとオイルを売ることです。ただ、私たちが望むのは、常に必要な停止距離をもっていてほしいということです。
Mobil 私たちは、あなたに生きていていただきたい。

youtubeでTVコマーシャルを見る

chuukyuu注】 「あなたに、生きていてほしい」キャンペーンは、モービルの創業100周年記念に100万ドルの予算でおこなわれたが、あまりの反響の大きさに、モービルはさらに予算を追加してつづけた。

シェルはプラットフォーメートを持たなければならないというようなことを言っている。
エッソは私には何を言っているのかわからないのだが今だにあなたのタンクにタイガーを押しこもうとしている。

中には、
今週ガソリン・スタンドを訪れてみてください

とまるでたいへんな経験でもするかのようなことを言っているのもある。

わが社のトイレはとてもすばらしい。ご家庭においても誇りにできるほどです

などと言っているものまである。
ばかげている。
この国の公衆便所は10のうち7つは豚小屋並みで、ガソリン・スタンドではお金を払わなければトイレに入れないような仕組みになっている。

モービルはずっと聡明である。
ゲームもやってはいるが、車とともに死んでしまわないようにと頼んでいるのだ。
ゲームに参加してもらうためにも、いつまでも生き続けてほしいと言っているのである。


こんどの連休、どこでお過ごしに?

23,000人の方はここでお過ごしになるかも。この連休、くれぐれも安全運転を。

ガソリン会社のほとんどは安全主義をとっており、形式ばった大代理店に忠誠をつくしている。
大代理店というのはユニークな製品に弱く、ガソリンのような製品にも参っているのだ。