創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(596)東京コピーライターズクラブ・ハウスでのスピーチ(6)


【4月16日分の前書きを再録】

2009年10月20日に開かれた、西尾忠久さんを囲む会。
DDBの黄金期をリアルタイムで体験した世代の方から、
いまなお色あせないクリエイティブ作法を学ぼうという若手の方まで、
たくさんの人で会場はにぎわいました。梶原正弘さんを聞き手として、クリエイティブの枠を超えて、
広告ビジネスについて実に多くのことを西尾さんは語られました。
その模様をご報告します。


公共的なメッセージを発信したMobilの企業広告。


モービルが1966年から3年間ぐらい
このキャンペーンをやったんです。
モービルが創業100周年だったんで、
何か公共的なキャンペーンをやらなきゃいけないというんで
DDBに頼んだら、商品広告じゃなくって安全運転キャンペーンを
提案してきたんです。


で、スローガンは、
「モービルはあなたに生きていていただきたい」。


死んだら、つぎには買ってくれませんからね。


連休の前に
「この連休どこへいらっしゃいますか」
「ここですか」って問いかけてる。



こんどの連休、どこでお過ごしに?


23,000人の方はここでお過ごしになるかも。この連休、くれぐれも安全運転を。


ビル は、あなたに生きていていただきたい。


ここ、救急手術室です。
医師や看護士が怖そうな表情をしていたます。


モービルがこのようなキャンペーンをやります、という社告です。


社告広告



                      1966年1月25日


この国にお住みの方々へ。

昨年、5万人もの同朋が道路上で命をおとしました。
私たちは、これはなんとかしなきゃあと思ったのです。
どれだけのことが私たちにできるかは、私たちにもわかりませんが、やってみなくちゃあということだけはわかっています。
そこで私たちは、わが社の広告費を安全運転の呼びかけに使うことにしました。
生き残るため確実なヒントをお教えしましょう。
しかも、しつこく。
わかりきったことであろうとなかろうとおかまいなしに、 五体満足でいられることならなんでも書くつもりです。
私たちは、小言幸兵衛に徹するつもりです。
あなたが、車を弾丸を装填した銃のように扱うように、叱ったリ、嘆願したりするつもりです。
それで、1人の命でも助かれば、甲斐があったというものです。
ガソリンやオイルを売っているのだから、それだけの道義的責任を感じなきゃあと思い、そうすることにしたのです。あなたに生きていていただきたいのです。                モービル


やっぱり1年間に何万人の人が運転中の事故で亡くなっているんで、
モービルはもうお客さんのために黙っていられないと。
これから安全運転のことを言いますと。



レーンを変えたばっかりに、
あなたはここへ。


レーンを変えないでいればよかったのです。

 
ビルは、あなたに生きていていただきたいのです。


時速100キロで衝突しますと、
10階建てのビルから落ちたと同じ衝撃です。




これは合成(トリック)写真です。
気でも違わなければ、10階建てのビルから車ごと飛び降りたりする人がいるわけはありません。
もっとも、もの好きな人もいるかも知れませんがね。
私たちが言いたいのは、もし時速60マイル(約100km)で車を運転していて、何かにぶつかったとしたら、10階建てのビルから飛びおりるのとまったく同じ結果を招く、ということなのです。それに、まったく同じ場所にも、つれていってくれます。死体置場へね。
私たち、モービルは、時速10マイルから15マイルでの運転をおすすめしているのではありません。
もし皆さんが、そうなさったとしても、なんにもならない---というのが悲しい現実です。ひどい運転は、悲惨な事故をひきおこすのです。それだけのことです。
ですから、その気があるなら、このことだけは覚えておいてください。スピードに関係なく頭を使って運転しないと、頭そのものをなくしてしまう可能性が十分だということです。
私たちの確たる主張はこうです。
私たちの仕事は、ガソリンとオイルを売ること。私たちは、世界でいちばんよい製品を製造していると思っています。そして、皆さんに私たちの製品を楽しく利用していただくよう万全の努力を惜しまないつもりです。
Mobil は、あなたに生きていていただきたいのです。


次のコマーシャルをやったら、
あっちやこっちのテレビ局から是非フィルムをください。
無料でやりますと言ってきたそうです。



アナウンサー】このデモンストレーションはモービルの実験です。
私たちは、10階建てのビルの屋上に車を運び上げ、そこから落としてスーパーポイントをつかもうとしているのです。
時速60マイル(約100km)で車を走らせ、何かにぶつかった状態は、このように車を落としたのとまったく同じなのです。

(嘆き悲しむ人々)。

スピードを出して車を運転する時、こういうことも起こりうるということを思い出してください。
60マイルで走る場合、停止するためには366フィート(約100m)必要です。
ですから366フィートあれば事故は防げます。でなければ-----ご覧のとおりです。
私たちの仕事はガソリンとオイルを売ることです。ただ、私たちが望むのは、常に必要な停止距離をもっていてほしいということです。

Mobil は、あなたに生きていていただきたいのです。


>>明日に続く